げんぐ

イニシェリン島の精霊のげんぐのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

いつもの飲み仲間の家に誘いに行ったら訳も分からず無視された。
この冒頭で「えっ?なんで?」って思い、作品にガッツリと心奪われた。

何にもなれない、何も残せてない自分に対して嫌気がさす。結婚して子供でもいればそこまで思い詰めることも無いのかもしれないが、独身で、タダひたすらに陽気な親友とパブで飲み交わす自分が許せない部分もあったのだろうと推測できる。その気持を良い奴だが「つまらない」と評する親友に話したところで理解されないのもわかり切ってる。突然に絶縁を突きつけたコルムの焦燥感は凄く理解できるし共感もできる。
だが、絶縁の為に指を切り落とし投げつける。音楽を残す為に必要な指を切り落とす。この本末転倒は全くもって訳わからない。
こんな感じで「理解できる」「訳わからん」といったストーリー解釈に終始思慮した作品で、結果2時間が溶けるような感覚で魅入っていた。

景観も非常に素晴らしくこの作品の魅力に一役かってくれている。晴れの無い天気、木すらない島の景観は小さなコミュニティで争いがあっても逃げ場は無いという事を印象付けてくれる。
18世紀から19世紀の密造酒が盛んに作られた頃のアイルランドの景観、暮らしが垣間見えるのはウィスキー好きとしてもとても興味深いものだった。


実際に戦争の画がある訳では無いが、対岸でおきているアイルランド紛争を端的に表しているんだろうということは理解できる。
作中でも処刑の立会に行くといっていた所長が「今は敵味方が判別し難い」的なセリフが泥沼なアイルランド戦争にオーバーラップさせていることを理解させてくれる。
ラストで砲撃の音は鳴り止んだが、2人の心の中では燻ったものがある。この争いはどちらかが死ぬまでは終わらないというのが、1920年代から今の今まであるアイルランドの現状でもあるのだろうと慮る。

多分、この作品を観る人の年齢によってパードリック側の視点、コルム側の視点で捉えて観るのかが分かれるのではないかと思う。
歳を取れば取るほどコルムの焦りに共感できるようになるはずだ。

自宅でウィスキー飲みながら改めてじっくりと鑑賞したい作品。
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