なお

イニシェリン島の精霊のなおのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

第80回ゴールデングローブ賞にて最多の7部門8ノミネートされ、結果的に3部門の受賞を果たした話題作。

時は1923年。
今日にも残る「北アイルランド問題」の根幹を成した、アイルランド内戦の真っただ中。

そんな戦火とは縁遠い平和な孤島・イニシェリン島に暮らすパードリックは、日がなパブで酒を飲み、地元の友人と語らうことが趣味の平凡な中年。

しかしそんなパードリックは、共にパブで語らい酒を酌み交わしてきた親友であるコルムから、突如友人関係の終わりを告げられる。

コルムとの友人関係をなんとか修復したいパードリックと、それをかたくなに拒絶するコルム。
彼ら二人の間に起きる”内戦”は次第にエスカレートしていく…

✏️それじゃ、2時に。
ある日突然。
昨日まで親友だったはずの友人から「お前のことが嫌いになったんだ」と一方的に別れを告げられたら、自分だったらいったいどう振舞うだろうか…

そんなあまり考えたくもない「知人・友人との別れ」また「拒絶される」という人間関係における一大事について考えさせられてしまうテーマを持った作品だった。

本作、Google検索における作品ジャンルは「コメディ」とされている。
たしかに、コルムから受ける拒絶に翻弄されるパードリックの姿は滑稽にも見えコメディ然としているようでもあるが、自分はどこかサスペンス・スリラー的でもあると思った。

始めは言葉だけで「お前との関係は終わりだ」と拒絶の意思を示されるが、それが徐々にエスカレート。
「次話しかけたら自分の指を一本ずつ切り落としていくから」と言い放ち、それを有言実行するコルム。
これがホントの指切りげんまん、ってやかましいわ。

この時点でコルムはだいぶマトモじゃないが、パードリックもなかなかに常軌を逸している。
このパードリックがとにかくしつこいというか、依存体質。

ほとんどただ一人の親友であったコルムを失った動揺に加え、妹のシボーンにも炊事洗濯など家事のあらゆることを依存しているように見える。

現代のように娯楽がない世の中で、パードリックにとっての生きがいはきっと「友人と酒を飲みながら語らうこと」だったり「かわいい妹と生活を共にする」ことだったんだろうな…

物語終盤、パードリックはコルムの家に火を放ち彼を殺そうとさえする。

せっかく妹から届いた手紙には「”満喫”ってなんだ?」(≒俺との生活は退屈だったということか?)と返事を書くなど、明らかに序盤のパードリックと比較して、人柄や性格というものが変わってきていることがわかる。

その生きがいをいっぺんに二つも失うんだから、そりゃ多少精神に異常をきたしたり行動が変になったりしてもおかしくないのかも。

最終的にコルムはパードリックの放火によって命を失わずに済んだ。
それどころか逆に、コルムは自分の家が燃えているあいだ愛犬の世話をしてくれたパードリックに礼を述べたりする。

果たして、コルムは本当にパードリックのことが嫌いになって友人関係の断絶を申し出たんだろうか…

ただこの島での退屈な日々に一抹のスパイスを加えたくて、あえてパードリックに”ケンカ”を売ったんじゃないだろうか?
でもそれにしては「指を切り落とす」なんて明らかにやりすぎだし…

真意はこの作品を見る者の判断に委ねられそうだが、この二人の内戦はまだまだ続きそうな気がする。

☑️まとめ
先にも書いたが、この作品を見る人それぞれの立場や価値観、そしてこれまでの人生経験などによって、コルムとパードリックがなぜそのような行動をとったのかなどの理由付けも異なってくるし、評価も大きく分かれそうな映画。

自分などは「来る者拒まず、去る者追わず」の精神みたいな部分があるので、1度でも拒絶されたらなるべく近づかないようにすると思う。

そういう点では、パードリックの劇中での行動はなかなかに陰湿というかストーカー的というか…
砕けた言い方をすると「かなりウザい」。

そんなパードリックを演じた、コリン・ファレルの”ウザい”演技力に脱帽。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★★☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★☆☆
📖物 語:★★★★☆
🏃‍♂️テンポ:★★★☆☆

🎬2023年鑑賞数:11(4)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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