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イニシェリン島の精霊のknitamiのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

どんな理由でも、いちど内戦を始めてしまったら終わることはないと、分かりやすい例え話で伝えてくれる映画だ。双方が休戦に合意するタイミングなんてこない。

死人が出るとの予言、純粋無垢な顔でなんか不吉なバリー・コーガン、美しい景色だけど常に灰色の雲、指を切断するのも、近所で起きたらかなりの事件、不穏な要素はたくさんあるのに、なんか平穏にぼやっと過ぎていって、島の退屈さってこういう感じかと実感できる。
サスペンスが一番盛り上がるのは、犬が殺されてしまうのでは、のくだり。家を燃やしてみても、なんかそれほど盛り上がらない。

冒頭ではパードリックの戸惑いはもっともだと思った。しかもコルム以外からも退屈と思われてたことが分かってきていたたまれない、辛すぎる。
でも途中からは、片方の気持が変われば同じ関係ではいられないのだし、ある意味恋愛ものを見てる感じ。特に、警官に殴られた時に助けてくれたところは、振ったくせに何故か優しくする元カレみたいだった。ずっと優しかったのになんでって食い下がるパードリックの姿は、もう終わった恋愛に縋り付く人間そのもの。
もうたくさん、と島を出ていく妹との関係は、熟年離婚の夫婦のよう。ロバをうちに入れないでって何回も言ったのに全然聞いてないし、俺ってどう?って何回も聞いてくるのもうっとうしい。妹のことは全然気にかけてないのに。

コルムのパードリックへの気持ちは若干八つ当たりっぽい気もする。自分の環境に満足できなくて、周りにいる友人達もつまんない奴ばかりに思えてしまうような。人を傷つけて、自分の退屈を紛らせる。人間は退屈に耐えられなくなると、暴力や芸術に向かうのか。
ラストカットの、ぼやーっと薄暗い雲と崖を見てると、男二人のヒリヒリしたりうんざりしたりする関係が、カタルシスもなくずーっと続きそうな気がする。

ロバと犬がとてもとてもかわいい。
ロバは目がきれい。犬は動作の全てがかわいいなー。
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