アンドウ

イニシェリン島の精霊のアンドウのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

パドリックは「nice」なのか「not nice」なのか。

丘や崖、海は広く感じ(広角カメラ?)、家や迷路みたいな岩の道路は全体的に狭く見える。島の人間関係も狭苦しく思え、人工物は全て窮屈に思えた。
港含め島のいたるところに十字架があった気が…
島の自然は広大で永遠、人の造ったモノは変わり果てていくようにみえる。
あとちゃんとストーリーが変わる場面でちゃんと雨が降るのが映画ー!って感じがした笑

パドリックの視点では、面白くはないが優しい(nice)自分が突然親友のコルムに絶縁され、関わろうとすると指を切り落とすという突拍子もない行動を起こされる。今まで島全体、自分の環境は良かったはずなのにコルムとの関係悪化からどんどんと思い通りにいかなくなり、最後はロバも死に、妹も島から去り、憎しみだけが残る。

コルムの視点は?年齢的にはパドリックよりもかなり高齢。毎日パブへ行き愚鈍でつまらないパドリックと話し、一日が終わる。コルムは長年パドリックのことをgood guy(誰かが言ってた)だけど人生を無駄にされる不親切(not nice)な奴と感じていたのかな。パドリックは映画が進むにつれ、窮屈で孤独になっていったがコルムは今までの生活がずっと窮屈だったのかもしれない。パドリックとの関係を断ち、島の外から来た音大生と交流し自分の曲を作り演奏する。罪悪感は付きまとっていたものののすべての指がなくなるまでの数日間が、コルムの中では文化的・人生的に幸福を感じられていたように思う。

ドミニクの視点は?パドリック一家以外からは馬鹿にされ、父親からは殴られ、夜にはオモチャにもされる。そんなドミニクは悪意を一切持たない純粋無垢な人間に描かれている。唯一親切(nice)にしてくれていたパドリックと恋心を抱いている妹が心の救い。ドミニクは馬鹿だけど嘘のつかない・つけない実直な人間だから、島でただ一人信じられていたパドリックが音大生に悪意を持った嘘をつきnot niceになったパドリックに裏切られた気分になり失望する。妹にも告白するが見事玉砕。私がパドリックでも生きている意味を見出せなくなると思う。

妹はずっと島にいることに対しメリットがなかった気がする。兄の世話をして、兄が喧嘩すれば仲裁もする。郵便は勝手に開けられ、島の中でも家でもプライベートゾーン・プライベートタイムが一切ない。ベッドも一緒の部屋だし。でも兄に対する愛情はあった。それだけが島で生活する意味だった。が、パドリック含め人間関係はどんどん変わってnot niceになり、そんな中、島から出られるチャンスが巡ってきた。パドリックと生きるメリットと考えた上で自由になることを選択したのではないかと思う。そう考えると人生を振り返り、パドリックいるメリットを考え関係を断ち切ろうとしたコルムと共通した点があるんじゃないかな。コルムは断ち切り方がえぐいけど笑

郵便局?のおばちゃん・ドミニクの警察パパ・コルムとパドリック・ドミニクが対立しているのも面白かった。前者は愚鈍と判断している後者に対しきつい言葉をかけたり、無視したり、殴ったり。でも賢い自分たちのグループでは気分良く会話をする。典型的な村いじめとかカーストって感じですごく嫌だった。スリービルボードもそうだけど本当人の嫌なところ魅せるの上手だわ。

しばしば教会で懺悔する場面があったけど、パドリックはコルムの人生を妨げ家を燃やし、コルムはパドリックの大切なものを殺す。ドミニクはキリスト教で罪である自死。三人のこの罪はどうやってイエスに赦されるのか。死神(くそばばあさん)に乞うべきなのか。島全体の十字架ともつながっているのかしら。終わりのない結末が凄い好きでした。

1923年の時代背景とか色々あると思うんだけど、島社会の鬱屈した雰囲気から起こる喧嘩がこの映画の解説でよく言われている世界、そして戦争の縮図なのかな。馬鹿だからそこまで考えられなかったけど…

十字架とか、動物の意味とか誰か教えてください!!!!窓から覗く動物の意味とかもっと考えたい