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イニシェリン島の精霊のandesのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.9
抽象的な映画で、牧歌的ながら不可解な印象をうける。いろいろな「要素」はあるので飽きはしないし、なによりイニシェリン島の美しさは最大の見どころ。
愚者=パードリックと賢者=コルムの諍いを主軸に、ロバと犬など比喩的な「イメージ」があふれており、画面から気が抜けない。コミュニティ内での「役割」と「見られ方」など、妙にリアルでヒヤヒヤするし、各人の関係性はスリリング。
一方、忘れてはならないのが、この映画は「コメディ」でもあるということ。「パン屋の車」などわかりやすいものの他にも笑いどころは実は多い。特に英語が分かる人には爆笑する台詞もありそう。2人の主人公はかなり極端だし、村の住人のあからさまなキャラ造形はポイントである。あの死神みたいなババアも面白い。要はシリアスなモンティ・パイソンなのである。
ちなみに他にも過去のレジェンドが頭に浮かぶ。ロベール・ブレッソン、ルイス・ブニュエル、イングマール・ベルイマンなどなど。
さて、小爆発を繰り返す2人は最後に意外なコミュニケーションを取る。理不尽な理由で戦争状態になった2人の村の「外の世界」にも理不尽な戦争がある。無胸糞な話と思いきや意外と(何故か)後味の良いラスト。不可解で意味不明な行動原理、それが人間の本質だったら、なんと皮肉な人間讃歌なのでしょう。
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