coba

イニシェリン島の精霊のcobaのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.5
おっさん2人が諍いを起こしているだけで、事件らしい事件は最後まで起きないの映画。
なのに、トンデモなく面白い。こりゃぁ凄い、と言わざるを得ない。
部隊は20世紀初頭のアイルランドにある、架空の離島。本土では内戦が勃発してる。が、離島であるがうえ、情報も乏しく、なんか本土では戦争やってるけど、島民に取っては直接は関係ないし、「今日は砲撃の音がしてないな」なんてのんびり言う程度。
この舞台設定が恐らくこの話のキモで、静かに静かに人の心に戦争の狂気が入ってきている。それをかなり極端に描いているのがコルム。他のバードリックを初めとする殆どの島民はそんな事には気づいていない。日々の暮らしに精一杯、と、いうよりも「退屈な人々」だから。そんな事に気づくだけの教養がない。日々の暮らしと、パブで飲むビールがあればそれでいい毎日を送るだけだ。
そんな中、音楽を嗜み作曲もできるコルムと、本を読むのが趣味なバードリックの妹シボーンは、「教養があるが故に」島の退屈さにうんざりしている。
実際、これはわざとそうして描いていると思うけど、パブでバードリックとコルムが対立を見せても、パブの主人や客たちはそれを諫めようともしない。ただ、いるだけだ。噂、ゴシップとして、誰がどうした、誰があーした、という話は好きだけど、実際に目の前でことが起きても誰もなにもしないのが凄い気になった。いわゆる「人情」的なものは一切描かれていない。多分、本当の田舎って、そうゆうもののような気もする。知り合いだろうがなんだろうが、本当の厄介ごとに首を突っ込んだって、面倒なだけだから。都会を舞台にした作品だと「都会の人の冷たさ」を描くのによく使われるけど、それは実は田舎だって恐らく変わらない。
後、コルムが最後の最後まで、この諍いのイニシアティブを持っているのは自分だと信じ切っていたのは、「教養があるもの(インテリ)の傲慢さ」が出ていて非常に良かった。彼は「こいつは退屈だ」と決めた相手を決して認めようとはしなかった。こいつは自分より下だ、と決めつけた相手がどんなことをしても、まぁ、これでやっとデキるようになってきたか、と、いわゆる「ウエメセ」な態度を崩すことはなかった(最低限の礼儀はかろうじて持っていたけど)。
そういう事を思うと、なんだか、非常に「現代」を描いているな、と思った。と、いうよりも、人というのは、どんな時代も同じで、どんな時代でも変われないのかな、と、思った。
この映画が企画されて撮影されたのは2~3年ぐらい前だとは思うけど、上映されたタイミングでウクライナ戦争が起きているのは、なんともまぁとしか思うしかない。それによって、なんだかこの映画の理解が否応なしに深まった気がするので。
coba

coba