みち

イニシェリン島の精霊のみちのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.2
なんという言葉で薦めれば良いか、観終わってもわからない。

暇つぶしといえばパブとお喋り(と読書と音楽)しかない退屈な島。友人から会話を拒絶された「いい人」な男。自傷行為を盾にどこまでも彼(との会話)を拒絶する友人。突然始まった二人の不和の行く末は──。

初めは友人の急な変化に驚く主人公に寄り添って観ていたのが、途中からは主人公にも友人にも共感はできず、理解もできず、たびたび(どちらに対しても)「もうやめてくれ」と思い、それでも意味不明というわけではなく、「この人ならこういう行動を取るのだろう」と納得させられてしまう。これはストーリー展開についても似たようなもので、驚いてぎょっとするような展開が何度かあるのだが、自分がもし作者ならこんな物語は紡がないだろうし、観客としてもその展開を期待してはいないけれど、いざそのように作られると「この物語なら…」と納得させられる異様な説得力がある。

「優しさは誰も覚えていない」も唐突な説得力で刺さってきたし、考えてみれば人間関係なんてなんの約束も契約もなくて、(「これはしてくれるだろう」という)曖昧な期待と(「これだけはしないだろう」という)最低限の信頼にかろうじて支えられているだけの代物なんだなあと気づかされて、二人の応酬は互いの期待と信頼をはっきりさせていく過程だったような気もしてきた。

サスペンス要素は強めで体力は使ったけど、会話のユーモアや動物を多用した構図の面白さ、目の離せない展開があり、大好きとは言わないものの忘れられない映画にはなりました。
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