高井戸三郎

イニシェリン島の精霊の高井戸三郎のネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

おそらく、映画としては文学的にすぎるのではないだろうか。

ふたりの諍いというのが、対岸のアイルランド内戦と軌を一にしていることは容易に了解されるだろうが、しかし、例えばコルムが、まずは一本の指を落とし、その後四本の指を落とすのが、暗殺とその応酬としての処刑の人数と符合していることまでは周到な下調べのもと鑑賞しなければ気づき得ないのではないか。
また、いささか唐突とも思えるロバの挿話とそれに続くパトリックの憎しみへの邁進が、おそらく、ルソー的ひきこもり自然人とハイデガー的召命=目覚めた人(ハイデガーは頽落の兆しとしておしゃべりを憎んでいたことに留意せよ)の対立であることなどもまた、了解しがたい前提であろう。

つまり、そんなこと気にしなくても心動かされる作品であってほしかった。
それでも、前作のような、思いが強すぎるあまりannoyingになっているひとへの乾いた温かい眼差しが本作にもあり、パトリックが去り際に述べる最後のひと言が、本作を辛うじて近寄りがたいものにはしていないのだとも思う。
高井戸三郎

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