みりお

イニシェリン島の精霊のみりおのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.8
第95回アカデミー賞作品賞ノミネート作品✨
授賞式前にできるだけ多くの作品完走したいな🏃‍♂️🏃‍♀️

本作は、第一にキャスティングが完璧すぎる✨
横暴で気難しい雰囲気を漂わせたら世界一のブレンダンと、あの下がり眉のおかげで困り顔をさせたら世界一のコリンというキャスティングのおかげで、一気にこの世界に惹き込まれる。
ブレンダン演じる気難しいコルムが、コリン演じる素朴な男・パードリックにいきなり酷い仕打ちをするので、観ている側は、気分はさながら島民の1人として、「なんで?どうしてそんなことを?」と、頭の中に?マークが何個も浮かぶ。

けれど観終わって、数日間この作品を噛み締めていると、島の外の人間として客観的にこの作品を観ることができ、段々とコルムの気持ちがわかってくる。
コルムは気に入ってあの小さな島で余生を送ろうと決めたのかもしれない。
だが全ての情報が筒抜けで、生きる意義を見失って惰性で生きている人間ばかりの中で、ふと思ったのだろう。
「このまま余生を終えていいのか…」と。









以下、ストーリーには触れていませんが、少しネタバレ…






コルムの家の中に様々な国のお面が飾られていることを観ても、コルムが過去に広い世界を旅していたことがわかる。
島の外部に興味を持ち、外の世界に飛び出したいと望んだ人間にとって、あの閉鎖された空間はキツすぎるはず。
かと言ってパードリックの妹・シボーンのように、内戦中だろうと構わず、本土へ逃げ出していく若さはない。
そこで取った選択が、内戦の中で失われつつある"芸術の尊厳"を、自らの力で少しでも残し続けること。
目と鼻の先にある本土での内戦がいつイニシェリン島に飛び火するかもわからない中、せめて平和ないまだけでも音楽家を島に呼び寄せ、友人との時間を捨ててでも、自身が意義を感じることに時間を費やしたいと思ったのだ。

私自身、正直30歳を過ぎてから会社の人間関係に同じことを感じるようになった。
若手と呼ばれた頃は、仕事終わりに先輩や上司と飲みに行って、仕事の話をニコニコ笑顔で聴くことが、何よりも重要な付き合いだと思っていた。
もちろんそれも大事なことには変わりない。
だがお酒をほぼ飲めない私にとって、飲みニケーションはかなり苦痛で、できればシラフで、みんなにきちんと記憶がある状態で会話をしたいのが正直なところ。
記憶がほぼない人たちから仕事の愚痴を聴きながら4時間過ごすより、映画を一本でも多く観たい。
でも自分の時間を犠牲にしてまで、その場にいることが大事だと思っていた。
けれど30歳を過ぎて、結婚し、子供のことも考え始めると、自分の時間の大切さに気付いた。
家族との楽しい時間、1本でも多くの映画を観て感動で胸を満たすこと…それをできる時間は人生の中で意外と多くなく、望まない会話に時間を割くよりも、"やりたいこと"に時間を割きたいと。
ましてや老いていき、"余生"と呼ばれる時間を過ごすようになったら、それはなおのことなんだろう。

小さな小さな島だから、コルムのやり方にも問題があったことは否めない。
もっと上手くパードリックと距離を置く方法もあったはず。
(指なんて投げつけずにね😂)
でも「俺は芸術に生きたいんだ」と語ったコルムの想いを理解できず、それでも執拗に距離を縮めようとするパードリックにも、やはり問題がある。
合わないなら関わらない。それが大人の社会の鉄則だから。

アイルランド内戦が行われたのは、1922年6月から1923年5月まで。
イギリスからの独立を求めて戦っていたアイルランド内で、ある日突然北部がイギリス統治下になったことから南アイルランドと対立し、内戦へと発展していったそうです。
つまり"昨日の友は今日の敵"。
どれほど楽しく過ごしていても、それぞれの優先するものが変われば、その友好関係は続かなくなるもの。
いい大人同士であれば、例えば毎日お酒を交わすくらい仲良くしていた友人でも、その人に子供が生まれたら、「飲みに行こうよ!」とは頻繁に誘わず、「赤ちゃんに会わせてね」と祝福の言葉を送り、友人の生活が落ち着いたらお家にお邪魔するような関係になるのだろう。
ただ国や政治が絡むとそうはいかない。
お互い譲らないから、戦争に発展する。
その点コルムとパードリックはお互い大人で、パードリックがもう少し大人になれていれば、諍いにまで発展せずに、互いの友情の新たな形や落とし所を見つけられていたはずだと、私は感じた。


【ストーリー】

本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島・イニシェリン島。
島民全員が知り合いの平和な島で、パードリック(コリン・ファレル)は長年の友人であるはずのコルム(ブレンダン・グリーソン)から突然絶縁を言い渡される。
理由も分からず動揺を隠せないパードリックは何とかしようとするも、コルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と言い渡される。


【キャスト・スタッフ】

*監督:マーティン・マクドナー

イングランド出身で、イギリスとアイルランドの国籍を持つ方🇬🇧🇮🇪
父母が移転の多い生活をしていたため高等教育を受けていなかったので、劇作家として見出される前は失業手当をもらいながら非正規雇用で働いていたそうです👀💦
しかし父の出身地であるコマネラを舞台に描いた戯曲であり、コマネラ三部作の1つである『コマネラの骸骨』が劇場の演出家の目に留まり、1996年にコマネラ三部作のもう1作である戯曲『ビューティ・クイーン・オブ・リーナン』でデビューします🌟
こちらはデビュー作ながらトニー賞の作品賞候補にもなっています✨
その後自身が住んでいたゴールウェイ県を舞台にしたアラン諸島三部作の戯曲も発表し、その後アイルランド以外を舞台にした戯曲も書きつつ、2004年に短編映画『シックス・シューター』で映画界に進出し、またもやデビュー作ながらアカデミー短編映画賞を受賞しています✨
その後は映画中心にキャリアを積み、2017年の『スリー・ビルボード』ではゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞、アカデミー賞演技賞を受賞しています❣️
演劇と映画の両方で成功をおさめた方で、まさしく天才肌✨✨
その他の監督作は『ヒットマンズ・レクイエム』『セブン・サイコパス』など。


*パードリック:コリン・ファレル

マクドなー監督の常連さんになりつつあるコリンは、『S.W.A.T.』でみりぺでぃあ記載済。
あの頃はほんっとカッコよかったけど、でも軽〜いアクション映画ばかり出てたし、こんなに渋くて演技力のある俳優さんになるとは思わなかったな〜😂
でもだからこそ、いまのコリンが大好き💓
個人的に『S.W.A.T.』が大好きなので、立派に成長したコリンとジェレミーの青臭い頃を愛でるためにまた観たい🙈💓


*コルム:ブレンダン・グリーソン

同じくマクドナー作品の常連のブレンダンも、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』でみりぺでぃあ記載済。
気難しい役をやらせてブレンダンさんの右に出る者いるのかな?って毎回思う🤣
息子のドーナルくんはあんなに優男風なのに、パパとの雰囲気違いすぎ😂👍
ドーナルくんもおじさんになったら、気難しくて圧の強いおじさんになるのかな👀?
やだーーーーー!!!笑


*ドミニク:バリー・コーガン

『エターナルズ』でみりぺでぃあ記載済。
個人的にオスカー助演男優賞はバリーにあげたいくらい、ものすごい演技でした✨
知的障がいがありながら、ときどき観る人をハッとさせるほどの的を得た発言と目線をすることで、この作品の核心となっていたなと思います。
出演時間はブレンダンやコリンと比べて圧倒的に少ないのに、観る人にものすごい印象を残してくれる。
シボーンとの池のそばのシーンは、バリーの表情に魅了されました。


*シボーン:ケリー・コンドン

アイルランド出身🇮🇪
1999年の『アンジェラの灰』で映画デビューし、その後大きな出演作はなかったものの、まさかのアベンジャーズシリーズのF.R.I.D.A.Y.の声を演じているらしい👀❣️
ジャーヴィスの後任としてトニーを支える2代目AIとして就任したF.R.I.D.A.Y.の声で、ウルトロン以降エンドゲームまでしっかり出演しています✨笑
その他の出演作は『終着駅 トルストイ最後の旅』『ドリームランド』など。
みりお

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