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イニシェリン島の精霊のxyuchanxのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.2
ログ3600本め。少し前に見てたコレを。

さいきん体調が芳しくなく映画をみるペースも下がり、軽い作品でお茶を濁したり、見ても感想を書く気分になれないでいましたが、本作はやはり映画の良さを改めて思い出させてくれました。

「スリー・ビルボード」「セブン・サイコパス」「ヒットマンズ・レクイエム / In Bruges」と、必ず心をザワつかせる作品を作り出してくれるマーティン・マクドナー監督。本作では彼自身のルーツの一部でもあるアイルランドを舞台に、おそろしく狭いおっさん2人+αの孤島の人間関係に、人間の悩みや愛憎、そして憎しみと善意をさらりと詰め込んでた。

内戦で揺れるアイルランド本島からほど近い孤島。昨日まで親友だと思っていたコルムに急に拒絶され、あげく”今度話しかけたら・・・”と言われた人のいい主人公パードリック。狭い社会の中で、誰もが認める仲の良さだった二人に何が?コルムの真意とは?

コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンは「In Bruges」でも見事なケミストリーを醸していたが、本作も前作以上。それにしても酒に薬に女に、と悪ガキ俳優だったコリン・ファレルがこんな、いかにも愚鈍で善良な人を演じられるようになったとは。バリー・コーガンと妹役の演技も素晴らしかった。


優しさや思いやりよりも、後世に何かを遺すことのほうに価値があるのか?

結局のところ人間の退屈を癒すのは争いなのか?

善良で優しい変化のない毎日を他者にも押し付ける事が、本当に善良で、相手を思いやれている行為なのか。

常軌を逸した二人の諍いは、無自覚な恋愛関係の愛憎なのか?コルムはそれが意味する危険と、背徳感に悩んでいたのか?

読書家で最も知性を感じられた妹が島を離れざるをえなかった理由は?
そして、さらっと語られるドミニクの死と妹への告白の関係は?

やはり、この監督の作品には、人間のあらゆる感情が説明もないまま散りばめられている。

ラスト、意図せずそれぞれが大切にしている存在に危害が及んだところで、自分たちの中の善意に引き戻されてくれたのは、監督からのせめてもの救いであり希望だったのかな。
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