空きっ腹に酒

イニシェリン島の精霊の空きっ腹に酒のレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
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コルムの言った“人生は死ぬまで暇つぶし”
いつかのわたしも同じように思って日々を生きていたから、妙に響いてしまった部分がある。
退屈だって分かりきっていても、暇つぶしだって割り切っていても、どうせいつか死ぬなら、与えられた残りの時間を有意義に過ごしたい。と考え直したのかな。得るものがない会話を誰かとするよりも、ひとり黙々と好きなことをして考え事をして過ごす時間の方がよっぽど充実するもの。今のわたしは子どもたちを育てる中で、完全なるひとりの時間ってほんとうに少なくて、じゃあそんな時に何したい?って、やっぱり自分の好きなことだけしてたい。だから以前ならいつだって会えてた友だちに割く時間はないし、気乗りしない誘いは断る。心踊る瞬間を与えてくれるひとや、人生を考えさせてくれる会話の出来るひととしか会いたくない、絶対に楽しめそうなパーティーにしか行きたくない、だってわたしの時間は有限で、とても大事だから。
特別時間を割いてまで会いたいひとって、大人になるにつれてぐっと厳選されていく気がする。会わなくなったひとたちを、決して嫌いになったわけじゃない。ただ、自分の時間と、大事にしたいと思えるひとたちをこれまでより大事にしたくなっただけで。
コルムはパードリックに話しかけるなとは言ったものの、完全に避けてるわけじゃないんだよね。警官に殴られた時は手を差し伸べたし、バーで酔って優しさについて会話をした時にはきちんと向き合って話してた(パードリックは記憶にないようだけど、こういうところが残念なんだろうね)。嫌いになったわけじゃないんだろうなって思う。
いいひとだけど、薄っぺらいと言うか、いいひとなのに退屈なひとなんだよね、パードリックは。妹思いだし、悪いところは特別ないんだけど、なんか自分本位だなあって(人間誰しもそうなんだろうけど)、コルムがもうお前とは話さない、って決めたにも関わらず、どうしてなんだ?って懲りることなく何度も問い続ける姿を見て思った。そのズカズカいく姿勢がなんとも…。でもパードリックみたいなひと、いるよね。悪気はないっぽいから余計にきついなあって思う。デリカシーの欠片もないから、悪いひとじゃないのに好かれない。“ほんとうのやさしさ”を感じさせないのもあるかもしれないけど(コルムと仲良くしてる音大生に意地悪な嘘つけるあたり、やさしくはないよね)。
散々書いたけど、よく分からなかったなあというのが正直な感想。おっさんふたりの揉めてる姿を通して本当に伝えたかったのは何だったんだろう?って考え続けてもモヤモヤが残る。内戦になぞらえて、ふたりの不仲がひどくなってく様に戦争はこうして始まるのかな…とか考えたりもしたけど、ちょっと違う気もするし。指切って玄関にぶん投げて、律儀に箱にしまって返しに行くシーンと、教会での懺悔のシーンでの牧師とコルムの会話、黒い服着たババアがほんとに死に神にしか見えなくて笑った。あとなんと言ってもロバが超絶可愛い、わたしもいつかロバ飼いたい。ハテナの残る不思議な映画だったなあ…。
空きっ腹に酒

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