丸福

イニシェリン島の精霊の丸福のレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.9
言葉は厄介だ。
興味のない会話に付き合うのが嫌ならスルーすればいい。
苦手な相手が居るなら会わなきゃいい。
島という狭い環境下では、コミユニケーションを回避するのも容易ではない。
娯楽も少ない。
みんなが集う場所も限られている。
そんな行き場のない状態、息の詰まる閉塞的な日常を巧みに描いてる作品だった。

主人公が飼っているロバ。
友人のおっさんの愛犬。
言葉という道具を駆使せずとも心が通じあえる存在。
家族同然に慈しんでる。

音楽、本。
妹は本の世界へと逃げ込み、島の世界を拒絶していた。
島から出る時に見せた吹っ切れたような表情。
彼女の精神は、島の外へ出たいと願えただけタフだったということか。
友人のおっさんは音楽への心酔。
言葉を必要とせずとも共鳴し合える世界。
情緒的世界は相手の表情を気にすることもない。
気を遣わなくても良い世界だ。

一方、主人公には本も音楽も愛でる習慣が無い。
本や音楽の様な外の世界に通じる趣味でもあれば、また展開は変わって来たんだろうか。

閉塞的な場所で怠惰的日常を繰り返す虚しさ。
そんな毎日に変化が訪れる。
変化が波紋を投げかけ、二人の関係性も徐々に変わり始めるその演出に息をのんだ。

主人公とおっさんは魂の部分で共鳴しあった。
二人の新しい関係性へと進んだ未来あるラストだと思う。

とりあえず何はさておき、指をぶん投げてはいけません。
丸福

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