シズヲ

BLUE GIANTのシズヲのレビュー・感想・評価

BLUE GIANT(2023年製作の映画)
4.3
最近テレビ放映している『機動戦士ガンダム サンダーボルト』でもジャズが取り上げられていたのは妙に運命的。ジャズというインパクトのある題材を取り上げつつも、物語自体は極めて率直で分かりやすい。スポーツ漫画などに近いサクセスストーリーを貫いている。

作中全体の推進力を作る主人公の大を中心に、バンドの実力を担保しつつ中盤〜終盤の山場を作る雪祈、“初心者であること”が序盤から一貫してドラマを形成し終盤のカタルシスへと繋いでいく玉田など、主要人物もバランス良く立ち位置が据えられている。些かトントン拍子で話が進んでいる感も否めないものの、壁や困難を適度に据えつつ約二時間で綺麗に纏めているので寧ろテンポの良さに貢献している。限られた尺の中ではこれくらいのペースにして演奏を映えさせた方が丁度いい。

ジャンルを問われた主人公が「そういうのは深く考えてない(意訳)」と答える下りや、ジャズの特色に関して「ソロプレイがあること」「メンバーの入れ替わりが当たり前であること」にのみ焦点が絞られていることなど、専門的な情報を可能な限り排除して敷居を低くしているのも印象的。そしてジャズのソロプレイ=即興演奏を奏者の感情や人生と結びつけていることで、主要人物の配置によるドラマ性を最大限に引き出しているのが良い。終盤における雪祈や玉田のソロパートは彼らのドラマの帰結点としてやっぱり熱い。要所要所で挟まれる回想やインタビューも、物語の進行を妨げない程度に適切なシナジーを作っている。

上原ひろみ氏作曲によるジャズ・サウンドはいずれも高揚感に満ちてて素晴らしい。映画館の音響との相乗効果によって、重厚かつ軽快な演奏の数々がインパクトを伴って響いてくる。物語の重要なパートを担う『FIRST NOTE』などの興奮は凄まじい。前評判でも聞いた通り実際3DCGは妙に浮いていたが、ならば演奏シーンがしょっぱいのかと言えば全然そんなことはない。寧ろ劇的な演奏に負けない程に極彩色の視覚的演出が繰り広げられていたので、ビジュアル面でもゴリゴリに映えまくっていた。迫力の音圧と鮮烈な演出、音と画のデュエットめいてる。

本作ではジャズが半ば絶滅危惧種であることが度々触れられるけど、以前読んだジャズ入門の書籍で「寧ろジャズのエッセンス自体は他のジャンルに積極的に取り込まれている」と言及されていたのを思い出す(Official髭男dismの『ミックスナッツ』なんかが取り上げられていた)。古典化されて主流が衰退しつつある中でも新興の文化によって血脈が受け継がれていく様は、ある意味で西部劇と同じような部分を感じる。
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