喜連川風連

BLUE GIANTの喜連川風連のレビュー・感想・評価

BLUE GIANT(2023年製作の映画)
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型(リズム)の芸術と言われる音楽において感情を描くことに成功した作品。

背景美術における電車や東京の描写はアフター新海誠感。都市の湿り気と奥行きを巧みに描写する。

演出も手際よく進んでいく。ダレそうな会話シーンではパッとカットを変えて、観客をダレさせない。

例えば、雪祈と大の最初の会話のシーンで、顔のショットが続きそうな場面では車を横切らせ、風景を混ぜ込む。そしてもう一度顔のショットに戻ると、現実主義者の雪祈の顔には半分ライトが当たり、大には顔全面にライトが当たる。

この照明演出ひとつとっても互いの性格がよくわかる。

効果音でも、雪祈との最初の会話と最後のライブ前の会話の際に、救急車のサイレンが鳴っており、その後の雪祈の運命を暗示している。

凄くわかりやすいところでは「雪祈=雪折」という名前もかなり不吉である。

さて、この作品、原作では集中線の多用による音楽描写によって、思わず音が聴こえると称されたほどLIVE演出に優れたマンガだった。

かたやこの映画はどうだったか。端的に素晴らしかった。演出家たちは金管楽器が煌めく瞬間に目をつけ、その反射によって観客の目が光ることで、音楽に感動していることを巧みに表現。

他にもピアノの鍵盤の正面に手が反射したり、汗がドラムの上で弾け、サックスは感情のあまり思わず背中をのけぞらせるなど表現がてんこ盛り。LIVEをよく観察していないと決して出てこない表現の数々に手に汗を握る。LIVEシーンだけでももう一度観たい。

LIVEシーンにおけるロトスコープ演出の際のデスクリムゾンのようなローポリゴン風な描写と手書きアニメーション表現の調和が取れていないところは若干見ていて辛かったものの、最後半のLIVE作画に予算全振りしたんだろうと思う。

最後半、マンガ風の作画からリキッドアニメーション、そこからグリッチして目玉を連続で繋いだマッチカット、めくるめく表現の大波に身を委ねる体験がジャズ音楽に身を委ねてるようで気持ちいい。

その表現に上原ひろみの感情が乗っているのだから、面白くないわけがない。

型の芸と言われる歌舞伎、落語などの古典芸能でもそうだが、たまに型を超えて感情の波に圧倒され、客がその場に釘付けになる。まさにそのような表現だった。

色味のサイケ感はアニメ版のモブサイコっぽいと思ったら同じ監督だった。今後、注目の表現者ですね。

ただ一つ残念なところがあるすれば、声優があまり上手くない(感情がテーマのドラマ性に対して、平板な演技)。

素晴らしい表現に対して、マーケティングの魔の手を感じるキャスティング。

ただ、ヒロインがほとんど登場しない男くさい映画が世に放たれ、ここまで評価されたのがとても嬉しい。

帰りはELPを聴いて帰った。
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