シミステツ

やがて海へと届くのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

やがて海へと届く(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

「私たち、世界の片面しか知らないのかもしれないね」

お互いの語られない、心のありようを知れたらどれほど良いことか。大切な人はいつか急にいなくなってしまう。だからこそ、心のありようを、隠していた想い、自分はこれだよっていう、気持ちを代弁するものを残しておくこと。気休めかもしれないけど、ふっと忘れてしまわぬように、どこかで思い出してもらえるように、本当の意味で通じ合えるように。

大学の新歓をきっかけに知り合う真奈とすみれ。
引っ込み思案な真奈は自由奔放で人あたりも良いすみれに惹かれて関係を深めていく。
すみれが真奈の家に転がり込んできて、友情をも超えたような感覚を覚える。ずっとこのまま続けばいいのに。そう思っていたものの、すみれの恋人・遠野と一緒に住むと家を離れてしまう。嫉妬にも似た感覚で連絡を断ってしまう真奈。

そうしてすれ違いを見せているうち、すみれは一人旅に出かけたまま、姿を見せなくなってしまう。

すみれはきっと生きている。死んだはずがない。現実は受け入れ難い。すみれが残したビデオカメラも、観てしまったら、なんだかそんな過去を受け入れてしまうようで。

そんなある日、真奈の働くレストランの楢原さんが亡くなった。ついさっきまで、電話で話してたのに。好きな音楽流していいよって、言ってくれてたのに。

すみれがいなくなった背景も、楢原さんが自殺した理由も、今更知る由はない。残されたのは、ビデオカメラ、CDの数々。

真奈は有休をとり、すみれが最後に旅をした地に向かう。そこで出会ったのは、被災した時の思い出を語り、ビデオに収める人たちの姿。気休めかもしれないけど、こうしてあったことを忘れないでおくために。私はすみれに何が残せただろう。私がどんな気持ちだったのか、すみれが何を思ってたのか、分かり合えていればよかったのに。

物語は真奈、すみれのそれぞれの目線から見えるシーンが展開されていく。後半はすみれ側の目線からシーンがリフレインされていく。

猫のポーチを拾った真奈を見て、新歓に参加。チヤホヤされて上手く馴染んでるように見せて、真奈がお酒を飲まされているのも、気分が悪くトイレに行くのも全て気にかけて見ていたし、親との喧嘩で家出したことも黙ってた。本当はこのままずっと真奈と暮らしていたいけど、そうはできない。引っ越しの時だって、悲しくて涙が出そうで、隠してた。人付き合いだって難なく上手くやってるように見えるけど、チューニングってやつなんか、できない方がよくて、素直で強い真奈が羨ましくて、本当の自分じゃないみたいで。バスに乗るシーンでやっと心の声を言うことができたんじゃないかな。

知らないところで、気持ちはすれ違って、そのままずうっと戻らなくなることだってある。真奈の服を着て出かけるすみれを見るだけでお互いへの想いは計り知れるし、とっても苦しかったけど、確かな愛を感じました。

観終わったあと、わだかまりがすうっと解けて、大切な人に言えてなかった気持ちを、愛を伝えたくなる、温かい映画でした。