ジョー

やがて海へと届くのジョーのレビュー・感想・評価

やがて海へと届く(2022年製作の映画)
4.3
私たちには世界の片面しか見えてないと思うんだよね。
すみれは真奈に言う。
表の片面は、たとえば新入生歓迎で賑わう大学キャンパス。
ひときわチャラチャラキャラが多いテニス愛好会の面々。
四年間の青春を謳歌しよう。楽しければいいじゃないか。表面は明るさそのもの。
勉強よりも、大学は生涯の友を得る場、と居場所探しに必死な彼ら。

一見人当たりが良くて如才なげなすみれ。奥手で人付き合いが苦手な真奈。
友だちが多そうなすみれも、友だちがいなさそな真奈も、実は似たタイプというオチが心地良い。
人間だから誰しも、人には見せない、孤立感にさいなまれた裏の片面を持っている。
だが、すみれの恋人は、そこから逃げ回って行き当たりばったりの自分を演出することで、折り合いをつけている。
おそらく、そんな人間たちで大方世の中は回っているような気がする。

最初から裏の片面に生息しているタイプの真奈の世界に、表の片面で生きているすみれみたいなタイプが下りてくることを、もしかしたら共感と呼ぶのかもしれない。
その共感は、テニス愛好会のワイワイガヤガヤではけっして得られない屈強なものなのかもしれない。
すみれが言うように、チューニングするだけでつながれる世界では得られない共感なんだと思う。
たとえ行方不明になったすみれへの喪失感がふいに襲ってきても、一度得たこの共感は永遠に不滅なのだ。
本作は、そんな感じでいつまでも後を引く。
ジョー

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