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デリシュ!のbackpackerのレビュー・感想・評価

デリシュ!(2021年製作の映画)
3.0
2022年第3四半期は、料理関連映画が豊作な印象です。
現代の厨房と料理人のリアルな苛立ちをノーカット撮影した強者『ボイリング・ポイント/沸騰』。
世捨て人となったシェフから人と社会の関係をフィクション性豊かに描いた『PIG』。
本作『デリシュ!』では、フランス革命前夜のレストラン誕生物語を、食事の大衆化=自由&民主主義化及び貴族主義の終焉と連動させて描いた良作でした。


エリック・ベナール監督インタビューによれば、本作は「フランスのアイデンティティを形作るものに焦点を当て」、「フランス人のDNAに関するプロジェクトを構築する可能性について考えた」結果構築されたものとのこと。
監督がこの映画に込めたテーマが、以上のような「現代フランス人のアイデンティティの紐解き」にある以上、国体を象徴するフランス革命、即ち"民衆の力"は外せません。
「それって『レ・ミゼラブル』系統の作品ってこと?」と安直に連想してしまいますが、ドラマの柱となる〈職を追われた元公爵お抱え料理人〉という要素こそ、本作のユニークな点です。
脚本の構造自体はセオリー通りですので、決して奇抜さはありませんが、オーソドックスな作りだからこそ、堅実で良くできた物語だったと思います。

主人公マンスロン視点でのストーリーラインは、以下の通りです。
・料理人のアイデンティティに誇りを持つ主人公
・独創性を殺して生きる日々に嫌気が差し雇い主に反抗
・解雇。失意の新天地入り(故郷)
・天使(弟子入り希望の中年女性ルイーズ)との出会い
・再起とチャンスと秘密の告白
・喪失、失敗、無念、そして逆転
・天使の別離
・黄昏の日々、天使奪還
・いっちょ見返してやっか!
・大願成就と新たな夜明け

ここに、復讐者ルイーズの視点が入ることで、ドラマ性が相互補完され、深みと味が出てきます。また、政治的変革に関わる情勢変化を、貴族主義の社会に不満を持つインテリな息子が無理なく挟み込んで説明してくれるので、コンパクトながら背景世界の奥行きが広がり、美味いバランスでしたね。


単なる備忘ですが、本作、最近見た作品に出ている俳優が多かったです。
マンスロンを演じるグレゴリー・ガドゥボワは『オフィサー・アンド・スパイ』、シャンフォール公爵を演じるバンジャマン・ラベルネは『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』に出演してました。
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