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ラーゲリより愛を込めてのrensaurusのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
3.5
終戦後10年以上も収容所に閉じ込められると言う理不尽。国という組織、軍隊という組織は生存本能から争うことを止めず、虚栄に塗れて経済発展に拍車をかける。ソ連は共産主義を掲げながら、人種や役職には優劣や制約を設け、人間を経済発展の道具としか思っていない。日本だって満州に侵攻し、戦後も忙しなく経済発展を続けていく。人間は組織にしか生きられないのに、人を不幸にするのはいつの時代も組織だ。

生きる意味という普遍的な問いは、死地であっても変わらず難問であるが、「愛する人の存在」は一つの普遍的な答えだ。レヴィナスによれば、人間という主体は意味を求めて他者との関わりを始めるが、子孫を残したいと思える相手、どんな理不尽や苦痛であっても耐えるに値する家族の存在はやはり人間には必要なのだと痛感した。

主人公の山本幡男は、愛する人、子供を第一に、どんなに理不尽で絶望的な状況であっても他者への真心を忘れず、虚栄などには目もくれず、一瞬一瞬を生きる喜びを噛み締めていた。そんな彼は、組織に従順なマツダや、組織における権力を笠に着るアイザワ、生きるために他者を売るハラ達を惹きつけ癒していき、教育が与えられていないシンちゃんには学ぶ楽しさを教えた。何と多くの人が彼に救われ、生きる希望を持ち続けることが出来ただろうか。人はどんなに絶望的な組織の中でも、他者を思いやることが使命であり、生きる意味を与える行為であり、生きる意味にもなり得る行為であると思えた。

今作から得られるメッセージは素晴らしく、少し重苦しさはあるものの、生きる希望が胸に点るような感動作であった。加えて、松坂桃李さんの演技が素晴らしかった。

映画としては絵作りが若干安っぽかったり、主題歌がイマイチピンとこなかったり、演出がスッと入ってこなかったり、ちょくちょくある演技感のする演技で没入出来なかったりなどの要因が重なりそこそこの出来だった。
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