daisukeooka

ラーゲリより愛を込めてのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
4.2
映画としての粗はある。でもそれを拾ってもしょうがない。この映画の基になった史実はあり、その力強さは「映画という姿」をまとって初めて伝わってきた。みんなこの話知ってた?おれは知らなかった。その史実は映画が「伝えた」。これでこの映画は大きな役割を一つ果たしているのだ。

全体的にヨゴシが足りないとか、幡男が家族と生き別れるシーンがしんみり優先でユルいとか、粗があるとすればそんなもんだ。
そんな粗を塗りつぶして余りある「力」が、この映画には宿っていると思う。

「頭の中で考えたことは、誰にも奪えない」

幡男のこの言葉が、きっとこの映画の核だ。原にも松田にも新谷にも相沢にも「他の誰にも奪えない」自分自身だけの哀しみがあったはずだ。「誰にも奪えない」と言っていたはずの幡男は、彼自身の言葉に反して、彼自身の振る舞いで、皆の心中の哀しみを揺さぶり、少しずつ彼らの心を変えていったのだ。

「光あれ、すると光があった」とはよく言ったものだ。
言葉が全ての種になる。

幡男に遺書を書けと伝えた原の思いは断腸だったろう。
けれど遺書だって「言葉」であり、幡男には伝えねばならない言葉がある。
この映画は、幡男に動かされた男たちの返礼の物語でもある。
人は言葉で生きていく。

おれは、あんな中で、それでも10年、折れることも曲がることもなく、生き続けることができるだけの強い言葉を、魂に持てているだろうか?

そんな強い問いをドンと映画は置いていった。
泣いている場合じゃなかったな。
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