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ラーゲリより愛を込めてのmoonのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
3.8
戦後の日本兵のロシア抑留、強制労働については知識として知ってはいた。
けれど、恥ずかしながら どんな経緯でかは ハッキリ知らなかった。
私は戦後13年経った頃生まれた。夫婦の両親も、その親戚も祖父も年齢的に招集されず 戦争の影を知らずに育ってきた。唯一戦争に関する話としては、東京に住んでた母が学童疎開したという事くらい。
身近で77年以上前の戦争を感じる事はほぼ無かった。

この映画を観ていて、最後の帰還兵が日本に到着したのが戦後11年もの歳月を経てから(1956年)だということに、改めて戦争の恐ろしさと、ロシア(ソ連)の今日の卑怯な戦争の在り方が昔から変わっていない事が解り、自分が生まれたのは こういう時代だったという事に かなり衝撃を受けた!

というのも、
戦後の日本の復興を描いて大ヒットとなった
「ALWAYS三丁目の夕日」のイメージが強かったからだ。
これは日本が戦後復興をしつつある高度成長期を迎える直前の日本(東京)を舞台にしていた。鈴木オートの社長は30代だと思われたから、戦場に行ったのか?
彼らの家族は未来に夢を馳せていた。…彼らが生きていたのが東京タワーが完成する前の1957年…

まさしくロシアからの最後の帰還兵が帰って来た頃…だったのだな…

山本らロシア抑留兵達の家族との なんという隔たり!!

改めて、当時の日本の戦後の人々の日常の温度差の大きさに衝撃を受けると共に 感慨深かった…


[この先ネタバレ]




実話からのフィクションだそうだ。
山本幡男…
あの状況下で あの不屈の強靭な精神(肉体も)を持ち続けることは、本当に奇跡的だろう。約57万5000人もの兵士や民間人が抑留されたらしい。そのうち約6万人がシベリアで亡くなったという…

当時、アメリカの歌を平気で歌うのは 危険なハズ。でも、高い教養と知識を持った山本は 戦争が終わったという事で、精神の自由を得たのだろう。自分を偽る事から、真に好きなアメリカの歌、ロシア文学の魅力を堂々と語る。
あの当時に こんなに開かれた 素晴らしい人が、日本人が居たという事実に感動する。(フィクションではないだろう)

どんな過酷な状況にあっても常に前向きで、生き残るために仲間を売った元上官?教師?に対しても 怒るより、彼の闇を救おうとするような山本。その姿勢や生き様は周りの者の生き方も変えて行く。誰に対しても優しさを示すなんて…自分には無理だ!!ましてや、裏切られなければ、日本に帰れたのに!!
本当にその強さ(優しさ)は どのように生まれたのだろう…やはり、広い世界を知っていた…教養が有った、人間を信じる(られる)ような両親、師の教えがあったのだろうか…

戦後の時代の一面を感じる事が出来て 観て良かったと思った。



しかし、残念な点も有る。疑問も有る。

ここから先は マイナスな点なので、作品をお好きな方は読まないでください。









まず、シベリアに着いてからのシーン
日本兵上官が一等兵達に怒鳴っているシーン。「は?今、何て言った?」字幕が欲しい台詞が その後のシーンでも幾つも有った。滑舌が悪いのか?録音が悪いのか?はたまた、私の耳のせいなのか?同じく観てた娘達も分からなかったらしい💦 日本語なのに日本人に伝わらないのは問題。俳優は台詞を伝えられなきゃ、意味ないんじゃないかな?
ちなみに二宮さんは どんな台詞も聞き取れて良かった。息も絶え絶えのかすれた声でも。凄かった。

撮影は秋から冬に行われたのだろう…
シベリアの極寒や強制労働の過酷さを表現するには適していたと思うが、
シベリアなのに、広葉樹が紅葉してる川辺というのが、いかにも日本で撮影されたと思えて、ちょっと萎えた…シベリアは針葉樹林で もっと平らなイメージなのに…CG使っても良かったのに…とか。コロナ禍や戦争が無ければ、大陸にロケしていたんだろうか…
秋に水浴びしてるの寒そう💦だった。
それでも、体を洗える事の方が嬉しかった…という捕虜の辛さを描いていたのか…

地面がいつも泥(乾いてない)っぽいのも気になった。シベリアは永久凍土でしかも乾燥しているそうだ。雪でない日もほとんど曇っていたりして、彼らの陰鬱な日常を表すには良いかもしれないが、月日の流れや季節の経過が分かりにくかった。(テロップで何年後しか分からない)

山本が愛した青空がシベリアにも有ったハズなのに、映像でソレが上手く表現出来ていなかったと思う。皆が空を見上げるシーンも、何を見ているか分かりにくかった。(おそらく、山本さんの死を空から感じた?のかなと思ったけど)

ラーゲリ(収容所)で、何処から材料を調達したのか、たくさんの遊び道具が作られていたのは驚いた!しかも、紙だけでなく、大学ノートまで有る!ペン(鉛筆)まで有った!字を教える!読める、書ける!
良いシーンだった。でも…
ロシア軍の持ち物検査?全てを奪って行く。あのノートは何処から?てっきりロシア軍から支給されたものだと思ったのに?
ロシア軍からの支給なら、取り上げるくらいなら最初から与えなければ良いのに?ちょろまかしたなら もっと酷い制裁を受けてたハズ。
単なる虐め?この点が最大の謎だった。
病床の山本にもノートが…そこは検閲されないのか?最終的に奪われてしまったけれど…。

山本の遺書を1ページづつ覚えて家族の元に届けたのも ノンフィクションなのだろう。感動的ではあったけれど、出来れば山本(二宮さん)の優しい声で聴きたかった。気がする。…他の俳優さんだと声が強すぎて…💦

そして、一番 の感動エピソードであるのに、何だか物足りなさを覚えた。
4人は 山本の遺書を正確に伝えた。それだけでも遺族は十分だったのかもしれない。でも、あれ程の人望の有った山本について、10年余りの歳月を共に生き抜いた彼らが、遺族に山本がいかに生きたか、どれだけ愛されたか、どれだけ人を救ったかを遺族に話す具体的なシーンが殆ど無く、ちょっと義務的過ぎたと思った。実際 どうだったのだろう…

シベリアから船で帰還する時に氷を渡って追いかけて来たクロ…それを見た元漁師(中島健人さん)が、「山本さんだ!クロは!日本に帰りたいんだ!」と言うシーンはウルッと来た。のに…遺族の元にクロと一緒に訪れた彼が、クロのエピソードを家族に伝えたような描写が無く…残念だった。台詞でなくても、子供たちがクロを愛おしそうに撫でたりするシーンが有れば…

安田顕さん以外は玄関や庭で伝えてた。一人だけ松田(松坂桃李さん)に妻のモジミが「山本とは何処で会ったのですか?…」と尋ねるシーンが有ったが…そうか、だからか、この映画が ずっと松田目線で語られていたのは、モジミに語った内容だったからということなのか? でも…遺書を届けるシーンは もう少し丁寧に描いて欲しかった気がする。


惜しい、不思議な点も まだ有るけれど…それらを帳消し出来る 良い映画だった。

あの時代に素晴らしい視点、価値観を持って人間らしく生き抜こうとした山本幡男さんという人物を知れた事は、とても良かった。

改めて戦争の恐ろしさ、かの国の恐ろしさを知った…





* 人間はあのような食事だけでも、殆どの人は生きて行けるものなのだな…
バランス良い栄養…摂る事に あまりに執着する必要は無いかもしれない?😅*
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