大道幸之丞

ラーゲリより愛を込めての大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

「これは事実をもとにしています」と冒頭に表示されるので、仕方がないのだが、もし私が事前に「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」を観ていなければ評価はかなり変わったと思う。

「天才〜」では第二次大戦中の舞台で、強制収容所内で次々に殺されるユダヤ人達が、亡くなった者の名を記録する術がないので、それぞれが殺される同志の名を唄にし記憶に留めて唄い次ぐ形で、遺族に伝えようとしたエピソードだが、あまりに本作と似すぎているし、似ていながらこちらの出来が劣っている。全くの偶然なので悲劇とも言えるが、これは非常に残念だ。

この作品を知らぬ本作のスタッフは後からこの事実を知りさぞ青ざめた事だろう。

——それにしても——だ。監督の瀬々敬久によるものなのか、予算が充分ではなかったのか分からぬが、役者とロケ、衣装など一切の調子が軽く、芝居が皆下手に思える。撮影の仕方なのか演出なのか、ずーっと「違和感」と「ズレ」などをひきづる芝居につきあわされる。

また「硫黄島からの手紙」から引き続く二宮和也主演はさすがに今回はキャスティングミスではないだろうか。

1993年にTVドラマでの主人公山本幡男には寺尾聰を充てたそうだが、それなら納得はできる。時代にはその時代に平均的な「顔」というものがある。二宮和也はせいぜい平成以降の日本人の顔に過ぎないからリアリティも共感も抱けない。

経験も充分な俳優陣が脇を固めるが、皆一様に芝居が浮いている。「観たことも聞いたこともない役柄を演じている」ような戸惑いが感じられ「日本人にいい俳優がいなくなったんだな」と感慨にふけってしまうほど惨憺たる有様だ。

その意味では妻山本モジミの北川景子もキャスティングミスではないだろうか。和服が似合うだけでは困るのだ。

しかし理由はわかっている、キャスティングがとことんリアルを追うと途端に地味な印象になり、この手の作品では興行が成り立たないと判断されたのであろう。

北川景子がドラマの終盤で、家族で最初に幡男の訃報を知るや庭に駆け出して嗚咽するシーンがあるが、これが不自然で観ていられない、必然性も感じず、観ているこちら側が気を使ってしまうほどだ。

時代モノには「没入感」が必須だ。原作がいいことはわかるが、「杉浦千畝」同様、戦争ものは潤沢に資金がないなら撮るべきではないとやはり思った。

近年海外でも引き続いた「第二次世界大戦もの」はどれもみせる内容だけに厳しいと思う。