bluebean

ラーゲリより愛を込めてのbluebeanのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
3.5
シベリアに抑留された男が、家族と再会するために必死で生き抜き、その姿を見た周囲の人間も生きる力を得ていくというお話です。このストーリーをベースに、抑留の厳しい状況を結構リアルに描写したり、役者の演技が素晴らしかったりといった要素が乗っかって、感動せざるを得ない映画になっています。特に嵐の二宮が名演技の連続で、希望と絶望を行き来する壮絶な日々を見事に演じています。

メッセージもストレートかつ強力です。希望を持って生きるのはもちろん、希望がなくなったとしてもそれでも生きる、極め付けはただ生きているだけではダメで、たとえ命をかけたとしても人として誠実に生きなければならない。人間の弱さを許容する昨今の風潮の中で生ぬるく育った現代人の頭には、かなりガツンとくるものがあります。

終盤は主人公を狂言回しにして、周囲の人間が戦争と抑留を経験した人生の悲しみを昇華していく流れが感動的です。それを、とある上手すぎる設定によって効果的に描いていて、見事です。

好きなシーンは、シベリアの絶望の中でも、その空の広さに気づいて世界の見え方が変わるところです。死の世界に見えたシベリアの自然の風景が、急に美しいものに見えてくる演出は素晴らしかったです。

それでも残念なのは、万人が感動できるように、過剰で分かりやすい感動演出をこれでもかと入れ込んでいることです。犬のシーンとか、激しく号泣するシーンとか、みんなが空を眺めるとか、少々不自然な印象が優ってしまいました。個人的に一番いやだったのは、手紙を読むところで定番の声の切り替えをしているところです。読んでいる人が誰なのかに意味があるシーンなのに・・。以前観た『人間の條件』とどうしても比較してしまったのですが、あちらは見る側に考えさせる複雑なテーマや、分かりやすい感動を排した映画です。本作はストーリーそのものは素晴らしいので、もう少し万人受けより表現の方に振ってくれていたらもっと名作になったのに、と思わざるをえませんでした。
bluebean

bluebean