「ラリー・フリント」からの流れで、ミロス・フォアマン監督作を。
ジャケットのジャック・ニコルソンの表情とタイトルに惹かれ、以前からずっと観たかった作品。
刑務所入りを逃れる為、精神病を装って精神病院に入院してきたマクマーフィ(ジャック・ニコルソン)は看護婦長ラチェッド(ルイーズ・フレッチャー)の定めた厳格なルールに尽く反発する。彼の言動は他の患者にも多大な影響を与え、やがて院内で不幸な事件が起きてしまう—— 。
ジャック・ニコルソンの振り切れた演技が小気味良い。
バスケットボールを通じて、言葉を話せないネイティブ・アメリカンのチーフと心を通わせたり、無断で外出し、皆んなを引き連れて釣りに出たり 、TVでワールドシリーズを観たいとラチェッド婦長に掛け合ったり、それが無理ならと何も映りはしないTVを見上げて、架空の実況中継で患者達を沸かせたり。
異常なのは誰なのか…。
一定のルールの中からはみ出そうとするマクマーフィ?精神病を患う患者達?はたまた、彼らの自由を奪うラチェッド婦長?
少なくともマクマーフィは、ただ自由が欲しかっただけ。患者達にも、その自由の蜜の味を吸わせたかっただけなのだろう。
最初は浮いた存在だったマクマーフィが、患者達の心を開いていく。
印象的な患者達の中には、本作がスクリーンデビュー作となるクリストファー・ロイド!!当時30代半ばを過ぎた辺りなので、俳優としては遅咲きだったんだね。
吃音症のビリーを演じたブラッド・ドゥーリフは、個人的には「X-ファイル」のゲスト出演で存在を知った名バイプレイヤー。
何より、圧倒的な支配力を持つラチェッド婦長を演じたルイーズ・フレッチャーの存在感が凄い。彼女は、人権を無視するような悪役という訳ではなく、ただ厳格な、思慮分別のある真面目な看護婦長だったのだろう。
カッコーの巣 (cuckoo's nest)は、精神病院の蔑称と言われる。
"托卵"で、他の鳥の巣に卵を忍ばせ、雛を育てさせるカッコー。詐病によって精神病院に忍び込んだマクマーフィは、まさに其処に属す筈ではなかったカッコーの雛のメタファーか。そして、この物語には、もう一羽のカッコーが。
畳み掛けるように怒涛の展開を見せる終盤。
ロボトミー手術の成れの果て。
人間性を奪われた親友との最期の別れ。
そして、一羽のカッコーは外の世界に飛び立っていく。
ラストシーンで一気に込み上げる感情は、哀しさと共に自由の風を感じる爽快感と達成感とが入り混じった不思議な感覚で、ただ胸を締め付けられるよう。
父カーク・ダグラスの悲願を受け継いで映画化に漕ぎ着けたマイケル・ダグラスが製作に名を連ね、第48回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞と主要5部門を独占した。