LC

バック・トゥ・ザ・アウトバック めざせ!母なる大地のLCのレビュー・感想・評価

3.6
面白かった。

題名でも使われている「 Outback 」という言葉は、もちろん場所を指しているわけだが、どんな場所かを知っていると、主人公たちの旅を見守る気持ちが強くなったりするかもしれない。そうでもないかもしれない。

オーストラリアと呼ばれる大陸にも先住民族がいた。
アボリジニという呼称で聞いたことのある人もいるかもしれない。この呼称が差別的に使われようになったことから、今では「 Indigenous Australians ( Indigenous People との表記も。オーストラリア先住民)」という呼称を使おう、という提案が採用されている。

さて、彼らの大陸を西洋人が発見してから、先住民の数は脅威的な速度で激減した。海の向こうから運ばれた疫病の蔓延とか、スポーツハンティングの標的になったり(今日はアボリジニを17匹狩ったぜ、という記録が保存されているみたい)とか、集団餓死させてみたり、水場に毒を流してみたり、挙げ句の果てにはある法律が採用されたりもした。イギリス人兵士はアボリジニを自由に捕獲、殺害する権利を有する、という内容である。
そんなこんなで、当初は100万人程いたとされている先住民は、ある時300人程まで人口を減らしたりする。
そんな彼らが固有文化を維持し続けた場所、それが Outback (内陸の人口希薄地帯)だった。何故維持し続けることができたのか。こういう時、よく観察される例としては、厳しい自然環境があったりする。アウトバックもその例だ。

本作に目を戻してみる。
動物園からアウトバックへ帰ろう!と行動を起こすのは、殆どが「危険な化け物」「悪い動物」と紹介される者たちだ。
気色悪く思われ、泣き叫ばれ、逃げられ、攻撃もされる。
ただ彼らは彼らであっただけ、ということも描写されていて、人を毒で殺したいという気持ちは持っていないのだが、実際に牙も毒もある蛇なので、人としては警戒せざるを得ない。
そして動物園の外には、海とビルの灯りが見えた。先住民の痕跡が殆ど残されていない地域。彼らはそこから、様々な協力を得つつ内陸へと向かうのである。「あなたも醜い、私も醜い、それは新しい美しさ」という合言葉と共に。
先住民族がかつて狩りの対象(動物という認識)だったことから、作中のキャラクターたちと同じように醜い存在として扱われていたことは想像に難くないだろう。
また、先住民族もおとなしくやられ続けたわけではないのだが、作中のキャラクターたちも各々に力を発揮して困難を切り抜けようとする。

動物園側の人たちは、彼らを追いかけて、追い詰めて、最後にどんな判断をするのか。
アウトバックで主人公たちを出迎える家族とは、具体的にどんな存在なのか。
そんな景色にも、単に動物園の人と動物というだけの見方とは、少し違うものが見えてきたりするかもしれない。

本作、易しい物語には違いないのだが、ほんの少しの知識の有無で、きっと彼らの旅を見守る心持ちが変わったりする。そんな作品。
LC

LC