あんじょーら

ウーマン・トーキング 私たちの選択のあんじょーらのレビュー・感想・評価

3.7
サラ・ポーリー監督   プランB ユニバーサル   吉祥寺プラザ


サラ・ポーリー監督は「テイク・ディス・ワルツ」が凄すぎて、本当に真理を鋭く突きつけるのが上手くて、大好きな監督です。その最新作に、これまた美しさ、と言う意味で凄いルーニー・マーラが出演している、という事で観に行きました。


めちゃくちゃにヘヴィーな話しです、重たい話し、性犯罪を扱っています、が出来れば目を背けずに、好き嫌いではなく、多くの人が観た方が良い作品。丁寧な作りですし、希望を描いています。

ですが、そういうのがダメな方にこそ、オススメしたくなる作品ですけれど、そういう人、価値観が固まってしまった人には向かないかも。


もし、保守的な考えの持ち主がいて、この映画を観ても、この状況を変えなくても良い、と思うなら、それは保守主義じゃなくて、封建主義なんじゃないかな?と思う次第です。何を守っていくのが良いのかを考えさせない、というのは保守主義ではない気がしますけれど、定義として少しだけ変えていくのが保守なんですけれど、何を、どれだけ、変えて良いのか?を議論で決めないといけないし、鶴見俊輔の言う1番病という奴で、この辺は難しいです。ですが、この映画をみて、この現状を善し、とするのは人間としてなかなかな人だと思います。


それと、宗教という業について、考えが巡りました。


実際の出来事に着想を得た作品(とハリウッド作品ではよく使われるフレーズで、何を、何処まで、信じて良いのやら、というのが個人的な感覚ですけれど・・・)。


2010年代の架空の国で暮らすキリスト教徒の集団、原理主義的な一派と思われ、現代文明のテクノロジーから離れて暮らすコミュニティの中で、事件が起こり、その為に村の男は1人を除いて隣町に、容疑者の釈放を願って全員で出かけています。男達が帰ってくるまでの2日の間だけ、村の女性たちはある選択をしなければならないのですが・・・というのが冒頭です。


モノクロ?と思われるほどに暗い画面です、モノクロ、もしくは徹底的に色を抑えた画面です。しかしコントラストはよりくっきりで、しかも照明は、恐らくほぼ全編に渡って自然光を取り入れていると思われます。なので、画面に集中を求める作品です、能動的になれる人に向けて作られていると思います。構造上からも。


現実にあった事件を基に映画として脚色されていますが、本当に酷い話しなので、その怒りについては同意しかありません。閉鎖された空間で、ある宗教一派の中での事件でなければ、現代の話しとはまるで思えなかったです。いわゆるアーミッシュ(原則快楽を禁じている、自給自足の生活をする人々)の中に属するメノナイトのアフリカでの事件を基にしているそうです。


閉鎖集団の中、戒律も厳しく、電気すら用いないですし、車もない生活。学ぶことすら出来ず、女性に人権はほぼ無い暮らしの中で、さらに、家畜用の鎮静剤を用いて、性犯罪を繰り返していた上に、悪魔や狂言だとして事件として日の目を浴びず、ただ、我慢し許容する、という中で、目撃者が現れ、隣り町で起訴。しかし保釈金を出せば出所させられるので、隣り町にこの集団に所属する男性の1名を除いてすべてが出払い、帰宅するまでの2日の間だけ、女性たちだけで納屋の中で話し合う過程を追った作品。もう出だしだけでかなりのヘヴィさです・・・


しかも読み書きを習わない、学習もさせない、という徹底ぶりで、その為に女性たちの話し合いに1名だけ、この宗教団体の出戻りである男オーガスト(ベン・ウィショー)が読み書きができる書記として参加しています。


基本的に選択肢は3つ、赦す、残って戦う、去る、です。そして赦すは少数派、残って戦うか、去るで投票は同数、3家族の話し合いによって、意見をまとめる事になります、この時点で既に1日経過しています・・・


残って戦う、去る、という選択肢の中で議論が続く状況を見続けるわけです。


ある種の、希望みたいなもの、有ると思います。そして男性、という違う性別への怒りも最もだと思いますし、この状況はほぼ全ての人が改善する事に同意すると思います。


ですが、それは、この閉鎖社会には生きていない外部の我々であって、内部の人の声は届きにくいし、当然知らない出来事です。ですけれど、恐らく、どの文化圏でも、それなりの数、過去にはあっただろうな、と思われます。そこも恐ろしい。


しかも、この集団は宗教の規律の中にあるのです、信者が救われるために存在する、あの、宗教の中にある。


宗派が違っても、同じ構造を持つ宗教組織の例外なくすべての関係者の意見が聞いてみたくなりました。


せめて、成人、あるいは分別、自我が育つまでは、学びの機会、人権の存在、平和な生活した上で、その後宗教組織への参加を、それ以外の選択肢を見せて、同意させるべき。


宗教というのはいったいなんなのか?という事について考えさせられました・・・


信仰がある人、あるいは無い人に、オススメ致します。


ちなみに、リチャード・ドーキンスの著作の1つのタイトルは『神は妄想である』です。私は少し言い過ぎかもしれないけれど、神が人間を作ったのではなく、人間が不条理な世界を生きる為に作ったのが神という概念なので、そろそろこういうのは卒業してもイイと思います。