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ウーマン・トーキング 私たちの選択のzogliのレビュー・感想・評価

2.7
教育大事

2010年国税調査で驚愕&絶望
いわゆるアーミッシュなんかな、と思って観てたら今度は南十字座の話が出てきて南半球が舞台とわかり混乱
観終わった今検索したらボリビアの話だったそうで

広く世界の人々の目にとまるように英語作品にしたのだと思ったし、だからこそ極東の島国のわたしたちも観られた、事実を知れたのだと思うのでそこに文句は無い

観てる間にこの舞台にされているコミュニティと、令和なのに家父長制が未だ廃れる気配もない日本社会との驚くべき共通点=問題点に鬱々としてくる
『男に、支配側にNOと言えない』『頼み事すら出来ない』『被害を訴えても事実を伝えても否定され責められて』『女は意見しないように、考えを持たないように』
『そういう社会を作って、そのように下の世代を導いてきてしまった』『4歳の娘ですら男たちの欲望の捌け口に』『娘の安全を守ることが何故悪いことなのか』

ほら、日本人男性とか
『女が世話をしないと暮らしていけない』くせに『女には発言件も与えない』ひとたちでしょ

女は教育を奪われ発言権を奪われ欲望の捌け口にされ意志に関係なく子を産まされる画面の中の彼女たちを観ていて、ああごめんね日本の少女たち、という気持ちになってくる

あなたたちのモノゴゴロがつく前にこの日本の社会を変えてあげられずにいるままのわたしたちをどうかゆるしてほしい


現場を描写せず、被害後の様子やその後の精神的後遺症、女たちの話し合いの現場での発言で『何があったのか』を表現しているのだけど、苦しい性暴行を観なくて済む一方で受け止める側の力量で得られる情報と程度が違いそうだなとは思った

性被害後からおかしくなった/自ら命を絶ったものもいるってあたりの描写も結構生ぬるいので、響かないひとには響かないんじゃないのかなと
あとは観て欲しいひとこそ観ないし、推測も想像も出来なくて受け取れない気もする


敬虔な基督教信者は結婚してもいないのに妊娠して疑問をもたないの?そもそもの宗教のはじまりが処女が受胎して産んだ子が救世主になるってやつだから信じちゃってるの?全て神のおぼしめしとか受け入れちゃうの?と相当思って観てたんだけど、学はなくとも感じて考えられる女たちって描き方だったし全能だったらわたしたちを守ってくださらなかったのは何故だ/加害者=男ども相手に戦っても許してくださるはず、とかちゃんと自ら信じているはずの唯一神に対して疑問を投げかけてたりしていてあのあたりのつくりは良かったし、性交が無ければ妊娠するはずがないってちゃんとわかってるセリフだったので少しホッとした、ただ同じようにレイプされてた同士なのに相手を尻軽と罵ったりするのは強烈すぎたし苦しかった

どこまで事実かは知らないが

甚だしく疑問なのはメルヴィンの件
あんな狭いコミュニティでは、男性化しても元が誰だかバレるので+身体は女のままだしその後の性被害を防げたとはちょっと思えないし
男性化で性被害を防げるなら(キリスト教の信仰が深い/日本のクソ田舎並に社会が狭くてお互いの事をよく知っているので性別詐称は出来なさそう=娘が産まれたにもかかわらず男の名をつけて男として育てるのはハナから無理そうだとしても)娘に男の子の格好させるおうちたくさんありそうなのにそんな感じでも無いし
なによりあんな保守的な旧時代的思考の社会の男どもに『もともと心は男だった』とか全然通じそうに無い(むしろ本来の男らしさ的なものでマウント取られて繰り返し被害にあいそう/あるいはオーガストのおうちみたいにあのコミュニティから追放されそうな気さえする)ので
あれは事実なのか脚色なのか…?

あとものすごく嫌だったのは、レイプで妊娠させられた2人ともに子供に対しての愛を語らせるところ
オーナもだけど、メルヴィンになる前の彼女も
自分が産んだもの(死産なのか生産なのかはわからないが)がおそらく見た目でわかるほどの異常=奇形だったから彼女は血縁者によるレイプ被害を疑って弟に話しかけていたのだと思う(しかし血が近い生物同士が交配すると奇形率が上がることは学が無くても知っていたのか?)のだけど、あそこで愛を語らせるとかどうかしてる
そういう描写があると『女は無条件に妊娠して母になったら子に愛情を感じ自分を犠牲にして守って当然』みたいな間違った思い込みがいつまでも打ち消されないので

望まぬ子を憎悪したり苦悩したりする描写を入れない分、ジェシーバックリーとかクレアフォイとかの過激な描写にふったのかも知れないけども

あとレイプで出来た子と君を僕が面倒見る、とかいうやつもちょっと盛りすぎ感はある
ああいうところはどうせ他人の子も一緒にコミュニティが育てるのだろうし(顔傷女のおうちのお孫ちゃんらしい女子も他のおうちの女子とちゃんと繋がってて村八分にされてたわけじゃなさそうなのでそこからの推測と、オーナの子がレイプ犯の家に養子にされるかも知れないってやつから考えるに)

あの辺がちょっと綺麗事すぎるな…と
まぁオーガストを聖のひととして描き切りたかったのかもしれないが


ベンウィショーとても良かった
銃が出てきた時に不思議と気持ちがよくわかった
あと、オーナが『言わなくてもわかる』って言った件をきちんと言葉にしたところが良かった
暗黙の了解とかいう思い込みが今の社会をつくって来た諸悪の一要因だし、声に出して意志を確認する事が大事なのだってpermissionに関するメッセージとも取れたので

やはり性犯罪を抑止するのはprotect your daughterではなくeducate your sonなのだ
そして性犯罪に限らず全てにおいて、画面の中のあのコミュニティと、広い世界からすでに価値観的にも経済的にも引き離されたこの小さな国もそう変わらないのだ

狭い社会の中で親の背中をみて子供は育つし、その親世代が現状を変えない限りいつまでもその地域は変わらないのだ
必要なのは自分たちが変えることと、次世代が同じ間違いをおかさないための教育

絶対に『女が読み書きも出来ないあんなコミュニティだからあんな事件が起きたんだ』とかいうレビュー書くやついそうだけど、大事なのは被害者側の識字率じゃねぇんだよ、と言いたい
薬で無抵抗にされて被害にあうんだから読み書き出来ても学があっても被害者は自分を守れなかったんだよ、『牛用の鎮静剤で眠らせられて』を『アルコールで泥酔させられて』に置き換えてみろよ
『嫌がらなかった』じゃなくて、判断力を奪われ思考を奪われ力を奪われて『嫌がることすら出来なかった』だろ、日本でだってあるだろそういうレイプ事件?


デイドリームビリーバーが明るくて哀しく響く
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