げげげんた

ウーマン・トーキング 私たちの選択のげげげんたのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

機内エンターテイメントにあり、前から気になっていたので鑑賞。

昔観た「12人の怒れる男たち」と似ていてプロットのほとんどが部屋の中での会話。
ただし今回は、集落のアウトサイダーで議事録係をした1人以外は全員女性。

悪魔の仕業とされていた行為が実は村の男性による組織的な性暴力であることがわかった中で、赦す/残って戦う/逃げる の3択のうちどれにするかを代表の女性たちが議論する。

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本作の舞台設定となっているのは村での性暴力だが、真の主題は人権、そして愛と慈悲だと思った。

逃げる・戦うという選択肢のメリデメを考える中で私たちがどうありたいのか?

そして、性暴力行為そのもの深い傷となるのは何なのか、これまで権利を与えられてこなかった人が本当に望むものは何か?

重く本質的な問いが女性たちの口を借りて重ねられる。

1人の女性が3つ挙げていた中での最後、Think(考えること)、そしてナレーションの女の子の Your story will be different from ours がずっしりと刺さる。
私たちはこのstoryが繰り返されない世界を作ることができるだろうか。

(余談だが、BTSのSpring Dayでも引用されている小説「オメラスから歩み去る人々」が投げかけているのも似ていると思う。この世の不条理に気づいてしまった時、安定を選び何もしないのか、変革のために戦うのか。あるいは第三の道があるのか、と。)

これから大学院で人権を学ぶ身として考えることが多かった。

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なかなかまとまらず、ともすればお互いを攻撃しあってしまう議論。
そんな中でも少しずつAorBの二項対立ではなく、本当に私たちが望むものは何かの輪郭が明らかになっていく。
夜が深くなり、訴訟費用を工面するために帰宅する男性の影が現れた時、ついに村を去る決断を下す。そこからのさまざまな出来事、そして夜が明けて「リスト」をひとつひとつ書き連ねる流れの中で、女性たち(と先生)の愛と勇気、強さが垣間見えて、私の感情も溢れて涙が止まらなかった。

(私は悲しい出来事よりも、優しさ・強さ・勇気・希望、シスターフッド・連帯、そういうものに触れると泣いてしまうのです…)

本作の最重要キーワードといえる"Faith"。日本語だと慈悲、だろうか。表面的な許可とか、ごめんね、いいよ、で終わりではなく、真の愛と勇気を持って"赦す"とはどういうことか、またそのために必要なのは何か。慈悲を持って赦すことは簡単ではなく、物理的・心理的に環境を変えることや長い時間をかけることが必要で、それは"逃げ"ではないと言い切っていたのが良かった。

余談

・August(先生)について。
この話に出てくる唯一の成人男性で、大学を出ており読み書きが出来るが、母親が起こした出来事により集落から追放されていた。

仕切ろうとするも黙って議事録取れと言われてしまうAugustは、そこから女性たちの話を聴き、信頼を得る。自分の知識や観点を伝える、方角の見方を教える。本当は脱出するみんなについてOnaと赤子の面倒を見たいけど、村の男性の教育を担う役割に徹する。

ジェンダー平等やフェミニズムに関心のある男性がマンスプしてしまったりまだ"目覚めていない"女性に説教しがちな光景はSNSなどでもよく見かける。
こういった当事者だが主人公ではない、という立場に立たされるイシューに取り組む上で、
(先日見たバービーのアランは女性の味方だが特に何もしないのに対し) 個人的に非常にロールモデルとなる役だった。


・性暴力がテーマだが〜と上記で書いたが、性暴力に関する専門的な知見がかなり入っていそうで非常に良かった。
女性の対話の中でつい出てきてしまうセカンドレイプ発言からは、そういった発言が当事者同士でも出得ること、そして加害者から視線が逸れてしまうこと。
フラッシュバックやタバコなどのPTSD・防衛規制が発現せず一見平気な女性でも実は傷ついていること。
等々、私たちが性暴力に対して持ちがちな誤解やスティグマについてかなり明確なカウンターの示唆があった。

気軽に楽しく観られる映画ではないけど、観てよかったです。
げげげんた

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