櫻イミト

香も高きケンタッキーの櫻イミトのレビュー・感想・評価

香も高きケンタッキー(1925年製作の映画)
3.5
初期フォード監督が「アイアン・ホース」(1924)の翌年に手掛けた、馬が主役のサイレント映画。特に日本で高い人気を誇る一本。脚本は動物ものを得意とした女性作家ドロシー・ヨスト。

雌馬ヴァージニアズ・フォーチュンは自らの生い立ちを回想する。生まれた頃、出産、レースに参加したこと、馬車馬として働いたこと。。。

「他愛もない競馬のストーリーを撮りに、はるばるケンタッキーくんだりまででかけた。撮りながら、お笑いをどっさり詰め込んだ」ジョン・フォード

まず特筆すべきは、超高画質のプリントを鑑賞できること。フォード監督のサイレント作品の中でも最高に状態が良いかもしれない。導入部の生まれたての馬の主観ショット、馬の殺処分を巡るシークエンスは、演出も映像もとても良く出来ていて目を見張る。

本作で用いられる馬の自叙伝形式と言えば、まず思い浮かぶのは世界で最も読まれている動物小説「黒馬物語」(英 1877)で、1917年に初映画化されてから10回もリメイクされている。本作はこれを翻案したものと思われる。大筋は“厩舎で生まれた馬が訳あって牧夫の元を離れ馬車馬として苦難の運命を歩む。街路で旧友とすれ違い・・・”と同じ流れだが、“牡の乗用馬”を“雌の競走馬”に変更してプロットが組まれている。この変更によって競馬のシーンが盛り込まれストーリーの起伏が大きくなり、エンターテイメント性が高まっている。

一方、盛り込み過ぎてテーマがとっ散らかっているようにも感じられた。馬の名前ヴァージニアズ・フォーチュン(ヴァージニアの未来)の由来である娘ヴァージニアとの物語は殆ど描かれず、全体的に馬と人との絆の描写は弱い。もっとも、ギャンブルで失敗した父親がギャンブルで逆転すると言う軽めのシナリオであり、監督の言葉通り「笑いをっどっさり詰め込んだ」娯楽映画として観るべき一本なのだろう。

若きフォード監督(当時31歳)の勢いある演出が楽しめる山あり谷ありの良作。
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