寝木裕和さんの映画レビュー・感想・評価

寝木裕和

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オッペンハイマー(2023年製作の映画)

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「ここでこう言っていることは後の重要な場面の伏線」みたいな見せ方を多用するところはいつものクリストファー・ノーラン節。

なので、この監督の作品は何度か観直して、整理してからようやく、いろいろ理解でき
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ブルー・アンブレラ(2013年製作の映画)

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少し前に、Twitterとかで話題になっていた、ドワンゴが作った、奇怪な、ゾンビみたいな動きをするアニメを、宮崎駿監督が激怒した映像、ご存じの方もおられると思う。

この『ブルー・アンブレラ』は、あの
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ZOO(1985年製作の映画)

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美は乱調にあり。

では、美は腐敗の中にもあるのか?

という、挑戦とも受け取れなくもないけれど… 。そんな気負いみたいなものもないし、そんなにグロテスクでもなし。
独特のユーモアを含んでいるので、あ
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満員電車(1957年製作の映画)

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市川崑って、こんな作風も撮ってるんだ…

そんなふうに初めて観た人は誰しも思ってしまうであろう、かなり毒の効いた、ブラックコメディ。

「この人が精神を病んでしまうのか!… と思ったらこの人もか! 
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美と殺戮のすべて(2022年製作の映画)

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少し前に「音楽に政治を持ち込むべきじゃない」とかいう主張を、ネット界隈で見た。

そんな人にこそ、観てほしい作品だった。

音楽でも、映画でも、写真でも。
権力を持った者の暴力的搾取に声を上げ、なにか
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プロスペローの本(1991年製作の映画)

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この作品の評価がどーのこーのというよりも、ネット等々でこれについてのレビューを見るのがめちゃくちゃ愉快。

「一緒に観に行った人とその後 気まずい雰囲気になってしまいました。」
とか、
「後ろで観てい
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瞳をとじて(2023年製作の映画)

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ものすごい映画。

いや、ものすごく … 映画に対する愛に満ちた、映画だった。

あの、『ミツバチのささやき』で少女アナ役を演じたアナ・トレントが約50年後に同じ役名のアナを演じたことも大いに話題にな
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数に溺れて(1988年製作の映画)

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常々、夢というものは面白いものだと思う。

根拠が無く、辻褄も合わない、取り止めのないフラッシュバックの連続のようなものなのに、明確にその人の深層心理だったり心の奥底に潜む闇だったり、ある意味その人の
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ミツバチのささやき(1973年製作の映画)

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いやあ、ビクトル・エリセ監督、31年ぶりの新作には、驚いた。

そして、前評判から『ミツバチのささやき』との連なりを示唆する評を散見したので、こちらの方もかなーり久しぶりに再鑑賞。

今、改めて、こん
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コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)

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個人的にはこの時期、立て続けに「普通じゃない」設定の映画を鑑賞して(ボー、ヴェルクマイスター4k …)ちょっと朦朧と(笑)していたところに、この『コット、はじまりの夏』に出会って救われた気になった…。>>続きを読む

サタンタンゴ(1994年製作の映画)

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ヴェルグマイスター・ハーモニーの4K レストア版を鑑賞したので、思い立ちこちらの作品も再鑑賞。

以前観た時よりも長く感じなかったのは体調によるものなのか…。

「これ…必要なの?」と思ってしまう長回
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ボーはおそれている(2023年製作の映画)

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たぶん、多くの人が、この監督を評する時、声を合わせて言いたいこと。

「あなた、どうかしてる!」

御多分に洩れず、私も、この作品を見終わった時、そう思った。

けれど、時と場合によって、その「どうか
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トッポ・ジージョのボタン戦争(1967年製作の映画)

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映像の光と陰影のコンストラクト、端々に醸し出される静謐な美しさのセンスは、市川崑テイストそのもの。

でも、これプロットの要所要所は、「脚本協力」となっている永六輔によるところも大きかったのではないだ
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ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版(2000年製作の映画)

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確かに、この作品でも長回しがなんとも印象的。

冒頭の、主人公・ヤノーシュが酒場に集まった仲間たちに天文学について宣うところを始め、ただただ自分がお世話をしている音楽家エステルとヤノーシュが街を歩いて
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雪之丞変化(1963年製作の映画)

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長谷川一夫氏の出演作300本記念の作品ということだが、なんのなんの、脇を固める他の俳優陣も、なんと豪華なこと。

市川崑といえば光と影の巧みな使い方にいつも唸らされるのだが、今作はそれの極みではないだ
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乳房よ永遠なれ(1955年製作の映画)

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日本映画史の中で二人目の女性映画監督となる田中絹代の長編三作目。

この三作目で、田中絹代にしか出せない個性を獲得したように思う。

なにしろ1953年の時点で不遇の人生を生きた女性を主人公に、女性が
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殺し屋(1956年製作の映画)

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タルコフスキーの、映画学校の学生だった頃の作品。これは興味深い。

その後の、あの神秘的で筆舌に尽くしがたいあの緊張感を湛えたタルコフスキー作品とは、完全に別物の作風。

けれどここに若き日のタルコフ
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Tuesday(原題)(2015年製作の映画)

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こちらも、『Laps 』同様、シャーロット・ウェルズのホームページにて、鑑賞。

こちらは、完全に『aftersun 』の雛型。

母親と父親が離婚してしまって、Tuesday にしか会えない父親の部
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Laps(原題)(2017年製作の映画)

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昨年の『 aftersun』が素晴らしく、こちらも鑑賞。

音の切り取り方とか、一つのカットから次のカットへの切り替えのテンポ感とかによって、主人公の女性が体験する不快な出来事を自分も実体験したかのよ
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Here(2023年製作の映画)

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今年に入って、一番の驚き。

ベルギーのバス・ドゥヴォスという監督を知ったこと。

前作、『Ghost Tropic 』も素晴らしかった。そしてこの作品も静謐でありながら根底に力強いメッセージが流れて
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新・平家物語(1955年製作の映画)

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溝口健二に駄作なし。

けれどこの平忠盛〜清盛・親子を中心にした歴史物語の映画化は、ちょっと苦労した痕も見受けられる。

歴史的にはこの後、もっと力を持っていく武士たちのその直前の息吹みたいなものをさ
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夏の妹(1972年製作の映画)

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大島渚という人は、この時代を象徴する表現者… というか、この時代をリアルに知っている人には共鳴できる反骨精神があるというか。

この作品はある意味、それを象徴していると思う。

沖縄が日本に復帰する少
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サウダージを胸に(2022年製作の映画)

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ブラジル映画祭in東京、2024にて。

手ぶれカメラ、ざらざらした画質、時折焦点があやふやになるショット、…
これらのことにより、観始めた時はドキュメンタリーかと思った。
…なんの事前情報も入れずに
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ピリオド オブ・ザ マウスマン(2018年製作の映画)

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20分のインディーズ的アニメーション。
ってことでちょっとした電車移動の折に鑑賞。

気軽に観れるものだけれどこういう終わり方は嫌いじゃない。

きっとみんな、前世の記憶のカケラは魂のどこかに隠れてい
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エリス&トム(2023年製作の映画)

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ブラジル映画祭 in 東京、2024にて。

今回のブラジル映画祭の、私的目玉。

映画祭期間中でこの作品が観られる最後の日に。さすがに満席、ソールドアウトだった。(席が取れなくて劇場の受付の方に食っ
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プレーザ(2022年製作の映画)

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これが実際にあったこと… それ自体は驚きだった。

たった一人のシングルマザーの努力によって、こういうことが改善されていく方向に進んでいった。
… けれどラストに綴られたその後の実状を見ると、プレーザ
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ピシンギーニャ‐愛情深い男(2021年製作の映画)

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ブラジル映画祭 in 東京、にて。

20世紀ブラジル・ポピュラー音楽史の巨人、ピシンギーニャの苦悩と栄光の半生を綴った物語。

名曲、「Carinhoso 」や「Rosa 」は知っていても、ここで史
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エドゥアルドとモニカ(2022年製作の映画)

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ブラジル映画祭 in 東京、にて。

‘80年代… 、ブラジルの首都・ブラジリアを舞台にした恋愛ドラマ。

ブラジルの伝説的ロックバンド、Legião Urbana の同名曲、『Eduardo e M
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ミレニアム・マンボ(2001年製作の映画)

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90年代後半から、2000年入ってしばらくの頃、この映画で垣間見られる空気感… 、ここ日本でも似た雰囲気が漂っていた。

でもこの作品の主人公・ビッキーの恋愛事情は、ミレニアムというものを区切りに変わ
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ウェンディ&ルーシー(2008年製作の映画)

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ウェンディには家族関係のこと、経済面のこと、… いろいろ事情がありそうだし、スーパーの店員、警備員、車修理工場の社長、その誰も、悪いわけじゃない。

ウェンディのことを気にかけてくれる警備員が、別れの
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ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争(2023年製作の映画)

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この、生涯通してパンクでアナーキーな作品をクリエイトしてきた作家の、一年半ほど前のこの世からの去り方には心底驚かされた。

今回、またもや、驚かされた。

なんせ、存在しない映画の予告編がこうやって上
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ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)

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主人公・ハディージャとその同僚たちは退社したと思しき仲間の話題に花を咲かせている。
「故郷に帰っても自慢してるはずよ。」
そう、この話題の種の同僚は移民労働者で、その話題をしているハディージャと同僚た
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落下の解剖学(2023年製作の映画)

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深い。
深すぎる… 。
まるで、雪渓に不気味な口を開いたクレバスのように、深い。

実のところ、サンドラは夫サミュエルを殺めたのだろうか?
勿論、この作品の肝はそこではない。

事故、自殺、他殺、…
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夜明けのすべて(2024年製作の映画)

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夜明けのすべて、とは、

すべての、夜明けを待ち侘びる者たちの物語。

「夜の闇があるから、遥か遠くのものの存在も分かることができる。」

パニック障害や、PMS の症状は経験したことがないけれど、「
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恋文(1953年製作の映画)

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日本の映画史において、二人目になる女性映画監督・田中絹代の第一作目。

これ、観始めてしばらくは、1953年公開ということもあり、さすがに時代錯誤的な描写が多いなと思わないではなかった。

主人公・礼
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ラ・ジュテ(1962年製作の映画)

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「せつない」という気持ちを、とても斬新な見せ方で紡いだ三十分弱の物語。
静止画、モノクロ、語られる静かな言葉。

その、ずっと続く静止画の中、突然動きだす女性。
心の中に生き続けていたありし日の誰か。
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