寝木裕和さんの映画レビュー・感想・評価 - 4ページ目

寝木裕和

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君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)

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長編12作目、ジブリ創設から40年近く経って辿りついた、光と闇… 生と死の間のマジック・リアリズム。

人間の「闇」を垣間見せつつもそれを「悪」としてまつり上げない一貫したジブリの世界観。「亡き母への
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クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち(2011年製作の映画)

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究極の美を追求することに命をかけているダンサー、スタッフ。

作中、スタッフの一人がこんなことを言う。

「大事なことは、お客さんに夢を与えることだ。」

ヌードショーと、例えばジブリなどが描くファン
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マリア・ブラウンの結婚(1978年製作の映画)

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たしかに、夫婦の愛の物語… な、表向きの顔はある。
でも、この作品に通底しているのは、戦争によってドイツという国が辿ってきた道と、マリアたちの道が巧みにリンクして描かれているということ。

「私が幸せ
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天使の影(1976年製作の映画)

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退廃的な雰囲気に満ちているのに、要所要所の絵の美しさ。
主人公・娼婦のリリーがユダヤ人の裏社会のボスに見染められ、経済的には裕福になっていってからもその退廃的な世界観は変わらない。いや、むしろ濃厚にな
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ハズバンズ(1970年製作の映画)

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正直なところ、笑えない。
笑えないくらいの、中年男三人の度を超えた馬鹿騒ぎ。
それなのに、その笑えないどんちゃん騒ぎをこれほど長い尺で延々と、真面目に撮り続ける(演じ続ける)ジョン・カサヴェテスという
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メルビンとハワード(1980年製作の映画)

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人生についての映画は有史以来それこそ星の数ほどあるだろうけれど…。
それは凡そ、「人生はこんなに素晴らしいものなんだ」というのと、「人生なんて所詮こんなくだらないことの連続なんだ」と語りかけるもののど
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フィフィ・マルタンガル(2001年製作の映画)

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@渋谷ユーロスペース
『みんなのジャック・ロジエ』にて。

この作品は結果として寡作だったジャック・ロジエ監督の遺作となってしまったもの。

これまでの彼の作品とは違い、ここでは作中、それまで顔見知り
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アデュー・フィリピーヌ 2Kレストア(1962年製作の映画)

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@渋谷ユーロスペース
『みんなのジャック・ロジエ』にて。

ジャック・ロジエ長編デビュー作… にして、この時すでにその後のお家芸、ヴァカンス路線の物語を描いている。

若い二人の娘と、まもなくアルジェ
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トルテュ島の遭難者たち 4Kレストア(1976年製作の映画)

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@渋谷ユーロスペース
『みんなのジャック・ロジエ』にて。

なんだろう、… この、一向に着地しない感じの冒険劇。

それなのに、「バナナ万引き事件」の疑いが晴れたことによって、主人公ジャン・アルチュー
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エル(1952年製作の映画)

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財力もあり、街の人々からの人望も厚い、中年男性フランシスコが生まれて初めてグロリアという女性に恋をしてしまってから詳らかになっていく彼の狂気性。異常なまでの嫉妬心。
街の誰も、彼のその部分は知らない。
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番兵、気をつけろ!(1937年製作の映画)

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ブニュエルとグレミヨンの合作による、ミュージカル活劇。

ひょんなことからシングルマザーになって経済的にも困窮していたカンデラスを二人の男が救いの手を差し伸べて進んでいく物語。

その一人、滑稽で間の
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メーヌ・オセアン 4Kレストア(1985年製作の映画)

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@渋谷ユーロスペース
『みんなのジャック・ロジエ』にて。

「無駄なものの中にこそ、大切なものがある」

… なんていう、説教臭いテーマを潜ませるために、こんなに無軌道とも言える物語の進ませ方を選んだ
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スサーナ(1950年製作の映画)

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少年院から脱走する性悪女スサーナ… けれど、冒頭のその脱走シーンであまりにあっさり牢の格子が外れるところから笑いを誘う。

巧みに悲劇のヒロインを演じとある農場に匿われてからも、分かりやすいお色気悩殺
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マリとユリ(1977年製作の映画)

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とある工場の寮長をしているマリと、そこで働く若きユリ。

仕事柄、「厳格であらねば」という雰囲気を醸すマリ。

なのに、自由に生き、感情の赴くまま他者に対して主張していくユリに、徐々に心を開いていく。
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海辺のポーリーヌ(1983年製作の映画)

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それぞれの立場で、それぞれに身勝手な、大人たちの恋愛と、大人たちに憧れながらも、無垢な気持ちを大事にしているポーリーヌの、ひと夏の絵日記のような作品。

「言葉多き者は災いの元」

エリック・ロメール
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ドント・クライ プリティ・ガールズ!(1970年製作の映画)

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この作品はなんといっても当時のハンガリー・ロックが前面にフューチャーされていることが映画全体の世界観を形成していると言えるだろう。

撮影当時ハンガリー国内では、ロックが政府から統制される対象の風当た
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バルドー/ゴダール(1963年製作の映画)

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@渋谷ユーロスペース
『みんなのジャック・ロジェ』にて。

こちらは『パパラッツィ』とは違い、ゴダール作『軽蔑』の中身に肉薄する… と思いきゃ、こちらも所々脱線する(笑 B.B.でもゴダールでもなく
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パパラッツィ(1963年製作の映画)

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@渋谷ユーロスペース
『みんなのジャック・ロジェ』にて。

ゴダール『軽蔑』の撮影時に、主演のブリジット・バルドーを追いかけるパパラッチ達…… を追いかけるジャック・ロジェ。

ドキュメンタリーなのに
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サントメール ある被告(2022年製作の映画)

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フランスで実際に起きた、セネガルにルーツを持つ女性による、海辺に自分の幼女を置き去りにして溺死させた事件についての映画。

アリス・ディオップ監督は、実際の裁判で使われた言葉をそのまま役者に台詞として
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ダゲール街の人々(1976年製作の映画)

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とある街、そこに暮らす人々の姿をとらえた作品。

そんなふうに言うとどこにでもあるドキュメントのように思われるかもしれないけれど、アニエス・ヴァルダにかかれば一味違う。

彼女らしい優しさとリスペクト
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ノスタルジア(1983年製作の映画)

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ノスタルジア。
郷愁。

この言葉の意味だけだと、美しいものであるように響く。

もちろん、美しさもあるのだけれど、その中には痛みもある。

一見、関連性もなく、取り止めもないように入ってくる一つ一つ
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セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター(2014年製作の映画)

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ルワンダで人間の残酷さと野蛮さに心底疲弊して絶望したとき、生まれ故郷の渇ききって荒れ果てた大地に植林をすることを思い立つ。

奇跡的に再生した森林はセバスチャン・サルガドの渇ききった心の中にも一筋の希
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CLOSE/クロース(2022年製作の映画)

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この作品のティーザー映像を観た時、これも『怪物』と似たようなプロットなのかな… などと思ったのだが、こちらは少し違うものだった。

人は、他者に対してレッテルを貼りたがる。
そのことは大人でも子供でも
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カランコエの花(2016年製作の映画)

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『怪物』を観たのなら、この作品は観た?… と友人に薦められ、鑑賞。

こちらは『怪物』よりももっと性的マイノリティの問題に重きをおいた物語。

しかし、LGBTQ に関する映画を撮りたいのに撮ってしま
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怪物(2023年製作の映画)

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きちんと時流の問題をその時に適した観せ方で紡ぐという計算高さを持ち、なおかつ芸術性としても優れている。

… その二つがなんとも絶妙なバランスで成り立っている。

是枝監督はこの作品は性的マイノリティ
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ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマン(1975年製作の映画)

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変わり映えしない、反復される日常の中で、それが大昔から強いられてきたヒエラルキーのシステムによる「おまえはこうあるべき」という社会的束縛だと気づいた時。
少しずつ繰り返されてきた日常の中に、狂気が入り
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ラ・ポワント・クールト(1955年製作の映画)

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倦怠期… というほど結婚してから年数を経てるわけではないが、その関係に少し疲れが見えてきた夫婦の静かな言葉のやりとり。
そしてこの作品のもう一つの側面として映し出されたドキュメント、南仏のとある漁村で
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アメリカの影(1959年製作の映画)

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1965年当時、このジョン・カサヴェテスのデビュー作は、なかなかに実験的で冒険に満ちた作品に見えたのではないだろうか。

即興的な台本、そこに添えられたチャールズ・ミンガスの音楽も同じく即興。

ヒュ
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アーカイヴ(2020年製作の映画)

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典型的なシックス・センス的なパンチライン。

しかしこのオチだとしたら、「その状態」になってしまっている主人公・ジョージ・アルモアが見ている夢… J1、J2 との微妙な感情の隔たりは、なにを象徴してい
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赤線地帯(1956年製作の映画)

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溝口健二監督の遺作。
…だからなのだろうか、今の目で見るとなんと豪華な俳優陣だろうか。
溝口監督はこの作品の撮影時には体の不調を口に出していたのだとか。

落語好きな人は寄席でこういう話しをよく聞くか
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EO イーオー(2022年製作の映画)

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不条理で欲深い人間という生き物を、観客である私たちがEO というロバの目線でそっと観ている… この作品に入りこむうち、いつのまにかそう感じてしまう。

愚鈍でのろまだというイメージのロバが、スコリモフ
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ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)

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物語の設定は面白いと思ったし、こういうプロットのサスペンスは最後まで飽きることなく観てしまう魅力があるのでその点は良かったのだが。

この作品に関しては最後のオチが釈然とせず、気持ちが萎えてしまった。
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ファウスト(1994年製作の映画)

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『正しい』とか『正しくない』とかでは測れない、人間の奥底に潜む欲に身を委ねさえすれば得られるかもしれない、一瞬の刹那的な愉楽。
それを望むことは果たして極刑に値することなのだろうか。
…という、現代な
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酔いどれ天使(1948年製作の映画)

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かなり久しぶりに鑑賞。
もちろん、細かいディテールまではまったくと言っていいほど覚えていなかった。

やはり本作が映画出演3作目とは思えない三船敏郎の存在感に圧倒される。

最後に女学生に主人公・真田
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aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)

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特別な気持ちにさせてくれたということは、間違いなくて。
ただそれは、自分自身のとてもパーソナルな経験と、この作品が不思議な共鳴したからなのか。

でも、おそらく大切な人との別れを経験している人ならば、
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波紋(2023年製作の映画)

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胃食道逆流症になってしまったような… 。
つまり、少しばかり食べ過ぎ(詰め込みすぎ)かなと感じた。

原発事故→被曝の問題、高齢単身者の孤立のこと、怪しげな新興宗教に救いを求めるしかない閉塞した世の中
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