役所広司は、主人公である平山そのものだった。
ほかの誰もあの役を演じることはできないと思わせる、役と役者の圧倒的なシンクロだった。
毎朝定時に起き、淡々と支度をし、黙々と仕事のトイレ清掃をこなし、銭>>続きを読む
今泉力哉作品には、どれも独特の「軽さ」がある。
その軽さゆえにサラッと観てしまい、思いのほか掴みどころがなくて困ることもあるだろう。
この軽さの効用を挙げるとしたら、説教臭く重々しくないぶん、構えず>>続きを読む
子供と大人の境界線。
自分と他人の境界線。
思春期とは、こうした「線」を跨いでいこうとする時期だ。
「子供は優しくない」と言えばやや語弊があるが、自分のみならず他者の痛みをわかってこそ優しさならば、>>続きを読む
映画自体の完成度についてはとても評価できるし、伝説的な『ブレードランナー』の続編という重圧を製作陣は見事に跳ね除けていたと思う。
ただ個人的な注目は、アナ・デ・アルマスが演じたAI搭載のホログラム・>>続きを読む
青二才にはわかるまい。身も心もオジサンになってこそ理解できるのが『紅の豚』という映画の決定的な魅力である。
糸井重里による有名なキャッチコピー「カッコイイとは、こういうことさ。」からもわかるとおり、>>続きを読む
だいたい「君たちはどう生きるか」という大そうな命題なのだから、作中で具体的なディテールをくどくど説明するのも野暮だ。
当たり前だが、どう生きるかは他人から指図されるようなものでもなく、自分で考えるし>>続きを読む
美術館でファッションの祭典を開くというのは、実はそれ自体がかなりスキャンダラスなことだ。
ファッションと美術もしくはアート。一見近いようでいて遠い間柄で、仲が良いというわけでもないことが、この映画の>>続きを読む
そんなに世の女性を追い詰めなくてもいいじゃないか。
「ずっと独身でいるつもり?」などという余計なお世話としか言いようがないタイトルからして心底そう思うが、もちろん、作り手が結婚を押し付けているわけで>>続きを読む
デヴィッド・ボウイの華麗なるキャリアで、もっとも彼らしさが出ていたのは、シンガーやパフォーマーとして名声を得てからよりも、むしろデビューから世に認めてもらうまでの黎明期だったのではないか。『デヴィッド>>続きを読む
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正直、高く評価するには難がある映画と言わざるを得ない。
セリフというセリフが「自己陶酔ポエム」であり、登場人物それぞれが自分や自分の置かれた環境に酔っているように思えてならないのだ。
私、あなたの夢>>続きを読む
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主人公の市井ふみ(深川麻衣)が、早々にプロポーズしてきた男に持論をぶちまける。
「今まで付き合ってきたひとと自分は何が違うの?そのひとたちとは別れたのに、なんで私と別れないって言い切れるの?」
そん>>続きを読む
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主人公の荒川青(若葉竜也)は、まるで穴が空いているのに膨らんだままの風船のようだ。
下北沢で古着屋を営むお人好しの青が、個性豊かな女性たちに次々と振り回される。浮気された彼女にフラれたり、とつぜん自>>続きを読む
今から15年ほど前、仕事で付き合いのあった某スタイリストから「WOWOWですごくいい番組を観た」とすすめられたのがきっかけでDVDを購入。かっこいいことにしか興味がないと言い張る彼のお眼鏡にかなったそ>>続きを読む
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いろんな意味で「あおい映画」。
主演俳優も「(宮崎)あおい」なら中身も「青い」。
「若い」とも言えるし、つまりは「青臭い」と言うこともできる。
でも、だからといってバカにするつもりもない。
バンドや>>続きを読む
文字通りの生理現象をいかに擬人化するのか?
いったいこの映画でどんなメッセージを届けたいのか?
作り手の真意を推しはかりたくなっていざ鑑賞。
ピンクのハートにギョロ目、厚ぼったい唇、十字架の鼻という>>続きを読む
理想とする自分と、現実の自分との間には常にギャップがあり、その開きを「コンプレックス(劣等感)」と呼ぶ。誰しもそのズレに苦しみ、なかなか自分を受け入れることができないということは、現代人の宿痾と言って>>続きを読む
今風に言えば「あざとい女子」、森川葵が演じるキリコは、男目線のかわいさにのみ価値を置き、同性を敵に回しても平気で、友人がいない、過食症のメンヘラ女子。名前が『おんなのこきらい』だけど、良くも悪くも「女>>続きを読む
人生の新たな一歩を踏み出す映画に、安定したお決まりの構図があるとしたら、「男は年上でだいたい中年、女はぐっと年下で若い。そして2人は恋愛関係にはならない」である。
ニューヨークの音楽業界を舞台とした>>続きを読む
つい先日、1996年の大ヒットドラマ『ロングバケーション』を観直す機会があった。あの時分には大学生で、つまりロンバケ世代のど真ん中で、なんなら当時印象に残ったセリフだってそらで言えるぐらいだけど、21>>続きを読む
1968年に公開された英仏合作映画『あの胸にもういちど』(原題:The Girl On A Motorcycle、仏語でLa Motocyclette)。この映画に影響を受けた著名人は多いというフェテ>>続きを読む
2019年のこと。空前の大ヒットとなった『ボヘミアン・ラプソディ』には目もくれず観に行ったのが『エリック・クラプトン 12小節の人生(Life In 12 Bars)』。全国で華々しく公開されていたボ>>続きを読む
『We Margiela マルジェラと私たち』は、高級ファッションブランド「メゾン マルタン マルジェラ」を作り上げた人々の声を集めた、2018年のドキュメンタリー映画。とはいえ、その“声”のなかに、>>続きを読む
若さとは、「疾走している心の状態」。
その行き先はいつも不明確で、常に不安や失敗がつきまとう。
決してまっすぐではない道で、迷ったり戻ったり、ぶつかったり、あるいは寄り道しながらも、溢れんばかりのエネ>>続きを読む
3時間は長い、ということを言い訳に数年間放置していた『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、向き合ってみると「毒」の話であったように思う。
「毒」も「薬」も、身体精神への影響という意味では同じで、都合の>>続きを読む
『窓辺にて』を観て以来の“にわか今泉力哉通”だけど、最新作『ちひろさん』でも、“はっきりさせない”という今泉作品の癖にすっかりやられてしまった。
有村架純演じる「ちひろ」は、小さな港町の弁当屋で働く>>続きを読む
『窓辺にて』のテーマは「手放す」。そう聞くと、せっかく手に入れたものを捨ててしまうという、どこかネガティブな印象を与えるものだが、同時に「手放すことで、手に入れられるものもある」ということが、この映画>>続きを読む