櫻さんの映画レビュー・感想・評価 - 10ページ目

おいしい家族(2019年製作の映画)

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何にでも名前があるんだね。少ししかめた顔で彼女が言っていた、この言葉について考えてみる。波が寄せたり返したりしていた海辺は思ったよりも狭くて、広いはずの海が私たちを閉じ込めているみたいだった。名前もそ>>続きを読む

Laundry ランドリー(2001年製作の映画)

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空はいつも太陽を隠したまま曇っていて、それでも蜂蜜色の日光が染みだすように淡く辺りを照らしていた。新品の靴を履いて外に出た日。曲がり角をまがったすぐのところに水たまりがあって、不意をつかれて踏んでしま>>続きを読む

あの夏、いちばん静かな海。(1991年製作の映画)

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波と波がぶつかってできた水の粒が、日光に照らされてきらきらしてる。はじまりは丁度そこでひっそりと消えかかったまま佇んでいたんだ。砂は手で掴んだそばから落ちていってしまうけれど、夏はいつもそんな感じで終>>続きを読む

ある船頭の話(2019年製作の映画)

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川の水面は瞬く間に表情をかえながら、静かにただそこにある。風に幾本もの線を描かれながら波打ったり、そこらじゅうに円をたくさん描いたり、かと思えば日光を眩く反射させたり、時には雨や強風にあおわれて暴れ出>>続きを読む

5時から7時までのクレオ(1961年製作の映画)

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あなたのことが好きです、大切です。言葉やそれを表現するいくつかの行動を抱えきれないほど貰っても、生まれた時から手の中にあった孤独はいつまでも無くなっていかない。それ自体は悲しいことでも寂しいことでもな>>続きを読む

砂の女(1964年製作の映画)

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本当にうつくしいものというのは怖い。さらさらと高いところから落ちていく砂。他の何よりも欲がなくてうつくしくて、無自覚なまでに重力とか自然の摂理とかに従順でとても人知では追いつかない。そんなものに囲まれ>>続きを読む

南京の基督(キリスト)(1995年製作の映画)

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白い百合が綺麗に咲き乱れた後、一枚ずつ花びらが落ちる。その落ちた花びらには、赤い血が染みていく。花の命はいつの世も短い。

しがみつくように十字架に向かって祈りを捧げている少女、家族を養っていくために
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第七天国(1927年製作の映画)

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あなたと私が一緒に暮らすだけで、そこは天国。地下で影に隠れて生きているのだとしても、戦火と土に埋もれそうになっても、上を向けば空があることを忘れない。あなたと暮らした部屋の開け放した窓からは、手を伸ば>>続きを読む

サンライズ(1927年製作の映画)

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あなたのいるところが、私にとってこの世でいちばん美しい灯のともる場所。病めるときも健やかなるときも、暗闇で迷った瞳をやさしく照らし、揺らいだ心を包みこんでくれる。ぼおっと燃える炎のようでも、燦々と眩く>>続きを読む

帰れない二人(2018年製作の映画)

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あなたにとって年を重ねることってどんな気持ちですか。ただひとりだけを心に映して、壮大な大地を彷徨うその強さは、どこから湧いてくるのですか。あなたがスクリーンの中に現れたその瞬間から、一本の線がぴんと張>>続きを読む

萌の朱雀(1997年製作の映画)

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見渡すかぎり緑に囲まれていた。草が風にゆれていた。風鈴の音が聞こえる。やさしく照らされた台所にのぼる湯気。「おはよう」と交わす声。みんなでちゃぶ台を囲んで食べたごはん。手を握ってくれた時の温もり。なん>>続きを読む

退屈な日々にさようならを(2016年製作の映画)

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私たちは、いつの間にかテレビ番組や漫画や本や映画で植え付けられた、夢やら希望やらを目指して生きてしまっている、恐らく。必ずしもそんなものを追わなければならない理由も価値もないのに、疑うことなく容易く手>>続きを読む

セックスと嘘とビデオテープ(1989年製作の映画)

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自分が何かを模倣したことで手にした幸福に、心から満たされることはできない。溜息をつく時、何か靄のようなものとともに出ていく、あの鈍色をした諦めにじっと身を浸して佇んでいる気になる。または、自分の中にあ>>続きを読む

DISTANCE/ディスタンス(2001年製作の映画)

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どれほど近くにいた人でも、同じ答えを出すことはできなかった。近付こうとしても遠のいていく他者である、あなた。あなたの言葉は分からないと突き放してしまったあの日。溶けたアイスでべたべたした手に触れて交わ>>続きを読む

マイ・エンジェル(2018年製作の映画)

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愛してる、が砂糖菓子や街のネオンと同じくらい冷たく感じた。言葉が心に落ちていく前に、泡沫となって消えていく。青い空も青い海もここから見えるけれど、欲しいのはそんなものではなかった。安心して明日の朝、お>>続きを読む

HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ(2017年製作の映画)

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何もかもを手にした気になって酔いしれることも、危険な香りがすることがわかっていながら甘い蜜を求めて突き進むことも、こんな一瞬のうちに消えていくくせに、ざらざらと摩擦を起こして去っていく夏の日々の中では>>続きを読む

静かなる叫び(2009年製作の映画)

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静寂をその身ひとつで示してしまえる雪が淡々と落ちていき、知らないうちに積もって小高く盛り上がった山みたいになっていく。ただ自分の吐息ばかりがうるさく耳に響く中で、誰にも聞こえない叫びの振動は、衰弱する>>続きを読む

鉄道運転士の花束(2016年製作の映画)

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はじめて産声をあげてから、どこへ向かっていこうか。鉄道線路のようにあらかじめ決められた道はなく、わたしたちは道なき道を進んでいく。後戻りできないその足は、一向に晴れることのない霧の中では時々無理やりに>>続きを読む

双生児 GEMINI(1999年製作の映画)

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どこか磁場が揺らいでしまったような不気味さと、湯気のような妖しげな佇まいの人間。色気は演じるものではなくて、いつの間にか立ち込めるものだ。もうこれだけで視覚からの琴線への刺激がびしびしと伝わってくる。>>続きを読む

ブルー・マインド(2017年製作の映画)

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最初の満ち潮に目をそらして、皮膚の下で蠢く得体のしれない何かに怯えていた。よくよく見ると皮膚は一枚の平らな布のようなものではなくて、でこぼこした細かいかけらの集合体で、個々が剥がれ落ちそうなほどに脆く>>続きを読む

孤独なふりした世界で(2018年製作の映画)

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たったひとりだけでいるよりも、大勢の中にいる方がずっと孤独を感じる。人と会う前には、んっと息を止める。はじめましての挨拶や表情ひとつでもう、そこに居ていいのかだめなのか全て審査されている気持ちになる。>>続きを読む

秋津温泉(1962年製作の映画)

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生きることと死ぬことは反対なようで、どこか混ざり合っている。人を愛することと待つことは、違うようでどこか似ている。実像と影、それぞれが触れ合いながらもぴったり重なることはない。この世がそうであるように>>続きを読む

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