自分の歳の数より多くのことを知ってしまったその眼は、空を切り裂けるだけの鋭さをもっているのに、それをしないやさしさを宿して頭の上をひろがる青をじっとみつめている。知ってしまった数だけ、きみをひとり大人>>続きを読む
つながれていく、手から手へ。まなざしのむこうは、目に見えないいのちが眠っている。
かなしみはひとつの穴であり、かすかだがそれでも燃えている炎のようでもある気がした。喪失はいつからかはじまりの顔をして>>続きを読む
映画。暗闇に映写されていく光。ひとつの部屋で複数人と見ることのできる夢。光と闇、その濃淡は変貌自在であるからこそ、より鮮やかでうつくしいものになる。
これは現実を生きるわたしたちの社会にもいえること>>続きを読む
きっと死ぬまでくりかえす。それぞれ別の性格の生きものみたいな頭と身体と心は、一緒でなければ生きていけないから窮屈に感じるし、予告なしにすべて投げ出したくなる。大人になってもあやうさが抜けきれないでいる>>続きを読む
あなたはたったひとりで風の中に立っていた。明るい場所にいても紛れている、微細な闇も見逃さないような鋭利で昏いまなざしで明日のことばかり見つめながら、清濁うまく併せ呑もうして喉につかえさせる。抱えこめる>>続きを読む
目蓋をこすって見つめたら、一瞬ぼやけてから鮮明になっていく。闇の黒に消えていった背中ばかりを頭の中にうつしている。夢のつづきを見ている心地でいるのに、進むことしかできない時間は生活をつれてくる。生きて>>続きを読む
「大丈夫、あなたは一人じゃない」のキャッチコピーが救いではなくて、むしろ地獄の度合いを上げているよな、と公式サイトをひらくと出てくる言葉にむかって呟いた。なんかテレビとかできらきらした人たちが歌うそれ>>続きを読む
一度まちがえたら、それでおしまいの人生なんて。この踏みはずし方はできすぎている気がするけれど、それでも目を離せなかったのは、つくり話みたいなこの転落は、残念ながらそこかしこに潜んでいると思うから。誰か>>続きを読む
「ここにいていいよ」よりも「すでにここにいるんだよ」と、ふるえるようにして存在しているすべてに言いたくてたまらなくて、そのたびに言葉に通り過ぎていかれてきた。生まれてきたのなら、いなくなっていい存在な>>続きを読む
いってかえってくる。もしも生きて死ぬことがこれだけだったのなら、饒舌さを着こんで悲しみにくれることも、瞳の奥を燃すほどの怒りに沈むこともなかった。誰かを愛してはじめてほんとうの孤独を知るのが人の常と語>>続きを読む
すけるような空の青に溶けてしまいそうな横顔たち。人が生きている。それだけなのだけど、さびしくてきれいだった。あの時、口に出さずに飲みこんだ言葉は、もう二度とあの子に言うことは叶わない。これはいいやと、>>続きを読む
音はものがたり。光はたましい。わたしが纏っていたのは光だったし、何枚にも層になったれきしだった。入れ物はいつもやわらかな温度をもって、それをおおっている。音をきく。ものがたりは見つけられるより先に、そ>>続きを読む
ひとは誰もがこころに別れた誰かの面影を映写しながら、べつの誰かがやってくるのをまっている。
きみの目の奥の闇は、いくら見つめてもわからない。潤んだ漆黒はこちらから見えるすべてであり、ふかく魅惑的な夢>>続きを読む
月のクレーターそっくりにあいた心の穴を隠しもせずほうっておいて、ふいてくる風がこちらに微笑むのを待っている。そんな映画に映る星々みたいな孤独を、わたしはずっと見つめていたい。ここに映る人たちはとても無>>続きを読む
白鳥のダンスのように腕をひろげる。あなたを愛していると、魂ごと燃えていることを、体全体で表現するために。
いとおしいその顔にキスをする。頬は薔薇色にかわって、あなたが大切だと花束を抱くみたいに抱きし>>続きを読む
正解なんて千差万別なのだから、いくつになっても迷ってしまうね。そのどれもが光と闇の両方を持っているから、たとえば最良のひとつを見つけ出したとして、目の前をやさしく照らしたり、行方しれずの暗闇にまねいて>>続きを読む
思えば空洞なのは生まれてきた時からだった。わたし、という事象はこの世界で生きていくために借りてきた器に入ってさまよい、時がきたらすっとそこから去っていく。だから荷物は軽いほうがいい。歩き方から心臓の音>>続きを読む
誰かを弔うように、彼らはよく黒い服を身に纏っている。うっすらと霧に包まれながら、水面に映る像はふるえていて、まるで心象風景のように見える。彼らにはもう、ふるさとがない。疲れた身体を休ませる場所がない。>>続きを読む
たとえば幸福が時の花なら、ひとときも同じ瞬間なんてないのだった。目を伏せてできあがった睫毛の影、困ったり笑ったりするたびによく動く眉毛の一本一本、時々盛り上がる頬の山、唇がつくる三日月のかたち。いとお>>続きを読む
本作でのお岩さんは、気の弱い夫に巻き込まれて薬殺されたのに、夫を恨むことなく、こちらへ来てくれるのをただ待っていた、哀しくも健気な女性であった。いつの世も、なぜ女は恨みぶかき性質を過剰に描か>>続きを読む
人は環境やまわりの人によって、いとも簡単に自尊心は削られてしまう。もしも影で気にかけてくれる、やさしいまなざしの人がいたのだとしても、その他大勢の嘲笑に埋もれて見えなくなってしまうのはどうしたって救わ>>続きを読む
あまりにも壮大で、受け止めきれた気がしていない。ながいながい時間だったのに、忙しなくひとつひとつがかけて行ってしまうから。スクリーンに飛び込んだのは私たちで、訳もわからないのは私たちだった。こんな風に>>続きを読む
目を覚ましている時、抑えつけられている欲望は夢の中でひらかれる。しかし、いつもすんでのところで成就はしない。
男は欲望に溺れるように夢うつつを彷徨い、女は何も知らないふりをして片目を瞑る。円満を持続>>続きを読む
こぼれないようにどうか、と下を向きながら歩くようになった。脳内をうねりながら、音を立てずにぶつぶつと巡るいくつかの哀しみ、怒り、憎しみ、諦めたちが耳元でうるさい。それらはきっと誰にも聞こえない。陽光が>>続きを読む
さあ、芝居の前はお辞儀して。
愛している、愛していない。
笑うべきか、泣くべきか。
男も女も意地っ張りだけど、ひとりきりなら本音をぽろりとこぼす。
面倒だけど、かわいらしいよね。
口ききたくない時>>続きを読む
原題を直訳すると「自分の人生を生きる」。
こちらの方が断然すきだ。今いる人生の他に、もうひとつ別の人生があるのだとしても、ここにいるのは私の責任。人生は仕方ないことばかりだけど、真実は誤りの中にもある>>続きを読む
永遠を誓うことってできるのか、と問うてくる。
私とあなたという二者関係であれば安定していたように見えたが、第三者が介入することで脆さが浮かびあがる。たとえ傷つける/傷つくとしても、真実を語り合うことで>>続きを読む
あの日、出会ったもの/出会わなかったもの。街の雑踏や乱立する建物、漂流する風や反射する光の中で薄れてしまうのに、ふと思い出す記憶の断片たち。その煌めきが目蓋の裏に残っている。今ももうすぐ過去になって、>>続きを読む
少年をおそう容赦のない孤独。
母はその手を離し、大切にしていたカブトムシは逃げ、ひと夏の友は何も告げずに去っていく。
遠くへ行きたいと願っても、子ども故に自由が限られてしまう侘しさよ。
いつの世も壊して再構築の繰り返し。古きは新しきに押しつぶされ、日陰にさらされる。生きていて、悔いのないことってあるのかしら。
家族の繋がりは、血縁なのか、戸籍なのか、時間なのか。その解答は当人たちにしか分からないが、当人たちもそれぞれが何を考えているのか理解し得ない。晴れ間の傘が、夫婦間の断絶をより濃くさせる。その苦悩の果て>>続きを読む
過去を忘却して生きていくには十字架が重すぎた。映画内で雨が降ると男女の関係性が変化すると言うけど、その鮮やかで自然なことよ。現状の理解や納得の上で実る色恋などないのではなかろうか、と思ってしまう。司葉>>続きを読む
たとえ華やかでなくても、権威より静かな日常の方を愛する。贅沢よりユーモア。笠智衆が最高にすっとぼけおじさんでかわいい。こんなの嫌いなわけないよ。
起きて、ご飯つくって、食べて、声を出す。超シンプル。それだけなのにいいんだよな。みじかい文節で切った言葉が、表情や温度が色つきで浮かぶよう。そして消えていく。あるいは沁みていく。
「わたしたち みんな 孤独な魂」と歌う透き通った声が耳に響く帰路で見た、暮れかかった空と、上から降ってくる光たち。怒りや苦しみやかなしみが真っ黒に渦巻く日だって、それらはたった今できたばかりのようにあ>>続きを読む
最初に見たアンナは映画の中で魅力的に踊っていた。その瞳の奥にどこまでも吸い込まれそうになりながら、うつくしさに酔いしれた。少しハスキーな声もすきになった。あまりの引力を持つその存在の外側だけでも色褪せ>>続きを読む