niameyさんの映画レビュー・感想・評価

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パリ、テキサス(1984年製作の映画)

3.9

対象に愛情を注ぐうえで、丁度よい距離というものがある。誰もがゼロ距離で相手を愛せる訳ではない。劇中ではその辺りの葛藤がうっすら描かれていた。

例えば、息子を手放しつつ養育費の送金は続けた母親や、再会
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胸騒ぎ(2022年製作の映画)

3.7

衝突や和解のシーンもあって、文化的な背景の違いから来るすれ違いを描いた作品だとミスリードされてしまった。実際は、もっと常軌を逸した話だった。

公式サイトには善意が悪意を暴走させるとある。その意味する
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ベルリン・天使の詩(1987年製作の映画)

3.5

寂しいと訴えるマリオンにダミエルは惹かれていく。心の声を聞き、寄り添ってもそれ以上は干渉できない天使の孤独が、人間の寂しさに共鳴したのだろうか。

天使は人間を見守ることしかできない。胸の内を覗けても
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不死身ラヴァーズ(2024年製作の映画)

3.7

このレビューはネタバレを含みます

運命の相手に起きる存在の消滅と、記憶の消失が描かれる。前半部から後半部にかけてテイストが異なり、いつの間にか違う映画を見せられている気がした。

道理に反する展開も散見されるが、とにかく長谷部の発する
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悪は存在しない(2023年製作の映画)

4.1

このレビューはネタバレを含みます

聳える木々の梢を、煽りの構図で映し出す長回しの移動シーンから物語は始まる。思えばあれは、巧に抱えられた花が見た最期の風景だったのかも知れない。

花が手負いの鹿に襲われるのを、意図あって巧は傍観してい
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バジーノイズ(2023年製作の映画)

4.2

閉じた世界で創作を続ける清澄が、音楽を接点に仲間と観客という同伴者を得て、自身を開放していく物語に見えた。

生産する側と消費する側が両サイドから描かれる。後者である潮に所どころ共感した。推しの作品を
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ティファニーで朝食を 4K(1961年製作の映画)

3.8

所有することを厭うホリーの胸中に興味が向いた。彼女は猫も男性も所有しようとしない。ポールのことを弟の名前で呼び、猫に至っては名前すら付けない。

一見すると、移り気なホリーに翻弄されるポールの姿を描い
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辰巳(2023年製作の映画)

3.9

葵が主人公でも作品は成立するのだと思う。しかし、映画のタイトルにある通り、フォーカスされるのは辰巳の側だ。

両者は変化していく。葵は復讐のために、辰巳は孤独ゆえに。より描きたかったのは、葵を大切に思
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メメント(2000年製作の映画)

3.6

このレビューはネタバレを含みます

10分に満たないシークエンスが次々に映し出される。一見すると互いに脈絡がなく、記憶が10分しか持たない主人公の見ている世界を追体験しているようだ。

前向性健忘症をどう乗り越え、亡き妻の復讐を果たすの
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異人たち(2023年製作の映画)

3.8

生者が死者と再会するという面妖な話だ。脚本家であるアダムが書いた台本による劇中劇にも、孤独ゆえに精神の均衡を崩した彼が見た白昼夢にも思える。

亡者との対話を通し、過去の自分にかけるべき言葉を得て、心
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リンダはチキンがたべたい!(2023年製作の映画)

3.5

このレビューはネタバレを含みます

登場人物をイメージカラーでベタ塗りする斬新さや、必要でない対象物は描き込まず省略する大胆さなど、演出に独創性があり見ているだけで楽しかった。

料理のために鶏肉を調達するという日常的な話が、見る見る脱
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ゴッドランド/GODLAND(2022年製作の映画)

3.8

このレビューはネタバレを含みます

時に、信仰は心の拠り所となり、その力を以て不可能を可能にもする。しかし、過酷な自然の環境下ではどうだろうか。

今作では、アイスランドという苛烈な地にあって信仰は成立するのか、またはしないのかが描かれ
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ローマの休日 4K レストア版(1953年製作の映画)

4.4

アン王女の世慣れない初々しい感じと、ジョーの常に紳士然とした小粋な感じが上品な雰囲気作りに一役買っていた。

各々の持つ秘密が、作品に程良い緊張感を与えている。すなわち、アン王女は学生であると身分を偽
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アイアンクロー(2023年製作の映画)

3.8

このレビューはネタバレを含みます

父親に頭を押さえつけられ身動きが取れない息子たちの姿を見て、アイアンクローには、プロレス技に加え、家父長制という隠れた意味があったように思えた。

フォン・エリック家を襲う不幸を描いた作品という触れ込
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パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜(2023年製作の映画)

3.7

このレビューはネタバレを含みます

ネグレクトを受けて恵まれない子供時代を過ごしたヤジッドが、努力の末にパティスリーの世界選手権へ挑むまでを描いた、実話を元にした成功譚だった。

世界選手権の観客席に実母の幻影を見て、そこからインスピレ
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オッペンハイマー(2023年製作の映画)

3.6

原子爆弾を生み出したオッペンハイマーは、いかなる倫理的な葛藤を抱えていたのかというところに関心があった。

しかし、作中では赤狩りの描写が比重の多くを占めており、そもそも彼の内面にあるコンフリクトは主
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ペナルティループ(2024年製作の映画)

3.6

ループというやり直しの中で、人はどう癒えていくのかを描いた作品に見えた。

被害者遺族と加害者という間柄を越えて、名前のない関係を築いていく彼らの姿に、映画という創作媒体だからこそできる表現の自由さを
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デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章(2024年製作の映画)

4.1

原作未読。存亡の危機に瀕した人類の行く末を、仲良し女子高生グループの視点から追いかけた作品だと予想していた。

だが、中盤から路線が変わり、記憶のエピソードを介して、門出と凰蘭の関係性が重点的に描かれ
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ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)

3.8

このレビューはネタバレを含みます

寒々とした深夜のブリュッセルを舞台に物語は進む。ラストシーンに短く挿入される明るい南国の情景を目にして、おぼろげに原題の意味を掴めた気がする。

主人公の故郷であるマグレブの海で、移民2世の娘が友人た
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12日の殺人(2022年製作の映画)

3.5

男性と女性の間に横たわる深い隔たりから生じてしまうバイアスや、難航する殺人事件の捜査に携わる警察官の苦悩と逡巡が、ありのままに淡々と描かれる。

未解決事件を取り扱った作品であるが故に消化不良感は残っ
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セッション(2014年製作の映画)

4.1

教える者と教わる者が互いに狂気を持ち合わせていた時に、どのような化学反応が起こるのかが暴力的に描かれる。

JVC音楽祭での騙し討ちは、ただの私的な報復にしては手が込みすぎている。フレッチャーは彼なり
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DOGMAN ドッグマン(2023年製作の映画)

3.9

このレビューはネタバレを含みます

犬の力を借りて檻の外に出ようとするシーンが繰り返し描かれる。少年の時は生きるために、中年の時は死ぬために。

その反復には、どのような意味が込められていたのかと考えてしまう。最初は肉体的な自由を求めた
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きっと地上には満天の星(2020年製作の映画)

3.6

誰が見ても困難な状況に置かれているのに、どの福祉の網からもすり抜けてしまう人がいる。劇中では、当事者の視点から、その理由の一端が明かされる。

娘と引き離されてしまうことを恐れて、母親は人目を忍びアン
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コットンテール(2022年製作の映画)

3.9

息子は父親の世界に入れてもらえないと孤独感を募らせており、父親は息子夫婦にとって自分は邪魔だと疎外感を抱いている。描かれるのは互いの不在だ。

道中で、同じ境遇の親子に出会ったり、戻れない昔の回想にふ
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スケアクロウ(1973年製作の映画)

3.9

ロードムービーの面白さは、道中で得た知識や経験を通し、何者かが良くも悪くも変化していくところにあると感じる。

今作の見所は、徐々に態度を軟化させるマックスの姿だった。序盤こそ粗野で神経質な印象を受け
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落下の解剖学(2023年製作の映画)

3.8

新情報が出される度に、検察側の主張にも弁護側の反論にも同調してしまいそうになる、見応えある裁判映画だった。

夫であり父親であり、不遇の作家でもあるサミュエルの転落死を巡って、法廷では家族の赤裸々な姿
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ナイト・オン・ザ・プラネット(1991年製作の映画)

3.9

タクシーという仮初めの密室を、舞台に据えようとした発想に敬服する。ホテルの客室や列車の客席では、ここまでの臨場感や緊張感は出せなかったと思う。

加えて、世界の各都市で同じ夜に起きる出来事という設定も
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ボーはおそれている(2023年製作の映画)

3.6

このレビューはネタバレを含みます

レジで小銭が足りず警察を呼ばれたり、無法者の集団に住居を占拠されたり、嫌悪感を催すエピソードが容赦なく続く。

フィクションとはいえ、話が出来すぎていて不自然さを感じる。マーサの顛末から、全てはボーを
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瞳をとじて(2023年製作の映画)

3.8

このレビューはネタバレを含みます

失われたものに捧げる叙情詩のような作品だった。未完で終わった作品に、絶たれてしまった経歴に、行方をくらました親友に、再びスポットライトが当たる。

ネットの無いゴールポストを守ろうとするミゲルの姿が印
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夜明けのすべて(2024年製作の映画)

3.7

原作既読。かなりの改変がなされており、もはや別物だと思えた。宇宙の要素が持ち込まれ、外界との繋がりという新しい視点が加わったような気がする。

何かを抱えた者同士が、互いを足掛かりにして、閉じた世界の
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リバー・ランズ・スルー・イット(1992年製作の映画)

3.8

このレビューはネタバレを含みます

常識と教養があり秀才である学者肌の兄と、人懐こいがどこか危うげな芸術家肌の弟という対称的な兄弟が登場する。

家族を扱ったドラマ映画に分類されるのだろうか。フライフィッシングを通して、無言の内に互いの
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コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)

3.9

誰でも心の内に静けさを秘めているのではないかと思う。9歳の少女コットについても、それは同じだ。彼女の寡黙は内面の静けさの表出だったように見えた。

沈黙も悪くないとショーンはコットに語る。彼女へのシン
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燈火(ネオン)は消えず/消えゆく燈火(2022年製作の映画)

3.6

夜の闇に浮かぶネオンは人の心を惹きつける。都会的で懐古的なイメージと、幻惑的で退廃的なイメージを併せ持ち、見る者に名状しがたい感情を抱かせる。

ネオンは光の書道という台詞が印象に残った。作る者からの
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哀れなるものたち(2023年製作の映画)

3.8

このレビューはネタバレを含みます

大陸を横断する旅路の果てに、目覚ましい変貌を遂げるベラの姿が描かれる。

日本の情宣ポスターでは、大きなベラの傍らに男性陣が小さく配されている。快不快に関わらず、彼らとの接触が変化の契機になったという
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千年女優(2001年製作の映画)

4.1

千代子は鍵の君を追いかける。最初は彼に預かり物を返すため、最後はただ追いかけたいがために。自己愛というよりは、俳優の職業病のようにも見えた。

言い換えれば、千年女優とは、鍵の君を追いかける自分自身を
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僕らの世界が交わるまで(2022年製作の映画)

3.5

自己愛が強いという意味で、互いに似通っている息子と母親が登場する。賞賛を得るためなら、時として他者の感情をも軽んじてしまうところはそっくりだ。

あらぬ方を向いて交わることのなかった両者が、それぞれ現
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