slowさんの映画レビュー・感想・評価

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異人たち(2023年製作の映画)

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息を吸ったばかりの身体から、押し出されるようにため息がもれる。平穏な暮らしとは、あふれる苦しみもそう、ままならない愛や無関心について思い知る日々のことで、それはこの呼吸に慣れていくことと、深く結び付い>>続きを読む

好きだ、(2005年製作の映画)

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大好きだったことを、ある瞬間から、あるいは始めから黒歴史であったかのように拒み、忘れ去ろうとしたことがある。ただ、ものは捨てられることもあるけれど、できごとはそうはいかなくて、都合良く忘れることもまた>>続きを読む

きょうのできごと a day on the planet(2003年製作の映画)

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年始に、大阪湾にクジラが迷い込んだという短いニュースを聞いた。信じ難い災害や、思いも寄らない事故が起こってしまう世の中において、このニュースがどれだけの人の心に残るのだろう、そんなことを思いながら。わ>>続きを読む

夜明けのすべて(2024年製作の映画)

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人それぞれ、抱えているものは違うし、その大きさも、また人それぞれ。不安や苛立ちは容赦なく、日常の風景を絡めとっていってしまう。そんな中にも、守り抜いて来たいくつかの楽しみがあり、新しく生まれるおかしみ>>続きを読む

さすらいの二人(1974年製作の映画)

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右も左も同じに見えているうちは、誰かがまっすぐ羽ばたくための標にでもなろう。何も欲しくはないけれど、誰かにとって必要なものも不要なものも、自分は持っている。そう名もない鳥は言った。ただ、空の素晴らしさ>>続きを読む

冬の旅(1985年製作の映画)

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そこにある他人とそっくりに動かせた体、それを他人のもののように働かせた心を、わたしは知っている。それは止むに止まれず日常を生きるわたしのことでもあると、彼女は知ってくれていただろうか。これは彼女が自分>>続きを読む

ロスト・エリア 真実と幻の出逢う森(2015年製作の映画)

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あの星はとうの昔に消滅していて、ここから望むひかりは、もう存在しないものの過去とわたしとの果てしない距離だ。時間は存在しない。もし、わたしにも残せるものがあるとするなら、せいぜいその光跡にあたる何か、>>続きを読む

ゲルハルト・リヒター・ペインティング(2010年製作の映画)

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色を重ねていくというよりは、時間を重ねていくよう。生まれては消える存在、現象。驚くべき速さで膨張し、数年をかけて収縮する、孵化して間もない、そう見える宇宙の亡骸と、その呻き声。幾ら時を経ても、発見され>>続きを読む

ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人(2008年製作の映画)

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もしかしたら、物の見方というのは、対象によって変わってしまうものではないのかもしれず、そう考えると、ハーブのアーティストに対する姿勢と、ドロシーに対する愛の示し方は、同じもののようにも思えて来る。ハー>>続きを読む

リチャード・リンクレイター 職業:映画監督(2016年製作の映画)

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インディペンデント映画の方が、その作家性を発揮できるという監督は一定数いるのだろうし、その属性を持ちながら、規模の大きな大衆映画も撮ってしまう監督だっているのだろう。それで言うなら、リチャード・リンク>>続きを読む

ビフォア・ミッドナイト(2013年製作の映画)

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生きて来た分の重力がしっかりと見て取れる、嘘のない姿がそこにはあって、一度きりの人生を何回も生きた心は、徒労に終わる結末だけは避けようと、記憶の中の言葉に淡い期待をする。歩き始めた場所が、とうに見えな>>続きを読む

ビフォア・サンセット(2004年製作の映画)

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思い描いた通りの姿は、ここにはない。それよりもずっと素晴らしいと胸を張っていたとしても、こんなはずではなかったと落ち込んでいたとしても、どちらでもなかったとしても、初めてわたしを見る誰かの目には、それ>>続きを読む

ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(1995年製作の映画)

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ジェシーはしっかりアメリカ人で、セリーヌはちゃんとフランス人だ。異なる気質や思想をカードのように切りながら、時間を楽しむふたりのことが、何度観ても素敵でたまらない。古より平坦な今日は、手相ひとつで山に>>続きを読む

4人の食卓(2003年製作の映画)

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まだ、時計の針は止まらないだろう。回らないのは頭の方だ。見たものを見たままに信じるということは、わたしの理解など求めていないということ。それでいて、狂ってしまった感覚と、鈍ってしまった神経とで、ぽっか>>続きを読む

カルマ(2002年製作の映画)

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ここでいう死とは霊になることだろうか。霊とは念のようなものだろうか。念とは感情の強さだろうか。感情とは悲しみでもあるだろうか。悲しみとは想いあってのものだろうか。想いとは愛とも呼べるだろうか。では、死>>続きを読む

ON AIR オンエア 脳・内・感・染(2008年製作の映画)

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この耳を信じられなければ、この目が信じたものも空事のように疑わしくなる。ここで、ここではないどこかで今も続く、絶えるものと絶えない出来事について、わたしはどこまで観察と想像を尽くせるだろう。それが見た>>続きを読む

ONCE ダブリンの街角で(2007年製作の映画)

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彼女が彼と出会ったように、わたしはまさにあの路上でこの物語に出会ったのだと思う。無表情な夜の舗道。飾り気のないショーウィンドウの灯り。何度となく寒空に消えていった歌声が、誰かに届いたその夜に、わたしは>>続きを読む

夜更かし羊が寝る前に 〜君を捜しに行くまでの物語〜(2008年製作の映画)

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初めて観た映画は何だったろう。作品名どころか、それがテレビのロードショーだったか、レンタルビデオだったか、劇場の二本立てアニメだったか、それすら曖昧で思い出せない。ちょっと悔しい。もし、生まれて初めて>>続きを読む

はなしかわって(2011年製作の映画)

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彼はあのブリーフケースを軸にして、まるでパントマイムを披露するかのように、NYを放浪している。それはつまり、彼が常に揺るがない信念を持ち、日々を過ごしているということ。ケースの中に思いやりを詰めて、彼>>続きを読む

DRAGON ドラゴン(2015年製作の映画)

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子供の頃、『エルマーの冒険』という本に夢中になった。大筋は、エルマー少年が囚われの竜の子を助けに行くというもの。これは覚えていたわけではなくて、ネットで調べて、そうだったかな…と。何故かわたしの中では>>続きを読む

かいじゅうたちのいるところ(2009年製作の映画)

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素直じゃなかった。わたしは考えを本当の本当に吐き出せる子供じゃなかった。感情のまま、世界を引き裂かんばかりにNOとはっきり意思を示せる子供じゃなかった。泣きもせず、叫きもせず、そういう意味では手のかか>>続きを読む

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)

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聞いたことのない言語でも、呼んだことのない名でも、声にのせれば、そこに幾らでも価値を見出せるはずなのに、どうして口を閉ざし、耳を塞ぎ、それで何食わぬ顔でいようとするのだろう。あなたたちは、全てをわかろ>>続きを読む

ジェリーフィッシュ(2007年製作の映画)

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さみしさに糸を通して縫い合わせた、ふぞろいな一枚布に包まって、わたしはひとり、そっと息をひそめている。身を寄せ合ったり、遠ざけたり、どちらにしても、何を得られ、何を得られないかというのは不確かで、わた>>続きを読む

LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語(2011年製作の映画)

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世界中の人々からこの映画企画のために寄せられた、とある一日の膨大な記録映像。そのままであれば取り留めのないドキュメント映像だけれど、巧く繋ぎ合わせ映画にすることでフィクションのようにも機能して、観る者>>続きを読む

8月の終わり、9月の初め(1998年製作の映画)

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きっとエンドロールが流れ始めれば、わたしは自然と、この物語で起こったことと、映画では描かれなかったその先の物語について、想いを馳せることになるだろう。もうわりと早い段階から、そういう予感がしていた。そ>>続きを読む

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)

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最近、最寄りにあった最後のレンタルショップが閉店してしまった。いくつかあった行き着けの中でも、一番長く利用したお店だった。年明けに閉店セールがあって参加して来たのだけれど、店内は大勢のお客さんで賑わっ>>続きを読む

怪物(2023年製作の映画)

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世界が美しいわけじゃない。ただ、その横顔は美しく、途端に、ここにあるものと、ここにあったものを、肌のようにひとつなぎにまとうわたしの姿は、あなたの目にどう映っているのだろうかと、胸がさわぐ。伝わらなく>>続きを読む

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)

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忘れてしまうものほど忘れたくなかったのだと、忘れてしまった後に、思い出せはしないから。それを決まり切ったことと言ってしまうのは、もう声や顔の、あのままを覚えていないからだ。目に見えなかったものが明確に>>続きを読む

リコリス・ピザ(2021年製作の映画)

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このレビューはネタバレを含みます

正直わたしにはそこまでグッと来ないPTA作品だったけれど、あの空になったトラックで坂道を転がっていくシーンは凄く良かった。とても映画らしくて、それぞれの感情がこれでもかと伝わって来て、ここを観られただ>>続きを読む

ニューオーダー(2020年製作の映画)

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社会は単純に貧富の差だけで二分されているわけではなく、権力とその上下関係によっても複雑に細分化されている。ただやはり、割りを食うのは回り回って貧困者たちで、困難に直面してもどこかでそれを楽観できる富裕>>続きを読む

英雄の証明(2021年製作の映画)

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この世には目に見えるものより、見えないものの方が圧倒的に多く、わたしたちが言語化できているのはそのほんの一部、それすらも完璧ではなく、誤りは付き物で、その際は慎重に慎重を期さなければならないという戒め>>続きを読む

マルチバース(2019年製作の映画)

3.8

あなたの脳は理解できるか!という挑発的な予告編のあおりに構えて鑑賞してみたけれど、込み入った設定はそこまで重要ではなく、ちょっと不思議な世界観をライトに楽しみたい気分だった今のわたしにはもってこいの作>>続きを読む

パラレル 多次元世界(2018年製作の映画)

3.8

雰囲気はSFアクションをにおわせているけれど、わりと落ち着いたテンポで見せるSFスリラー。これある程度映画を観てきた人にとってはパンチが弱く物足りないかもしれないし、エズバンファンにとっては、監督が真>>続きを読む

パリ13区(2021年製作の映画)

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いじらしさに透ける本性。不完全を肯定する殺し文句。優位に立ちたいという腹にさえ目をつぶれば、描いていた理想と現実が掛け離れていたとしても、わたしの価値だけは担保される。これは欲望や羨望とはまた別の、あ>>続きを読む

X エックス(2022年製作の映画)

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物語自体は昔ながらの「THE B級ホラー」を踏襲した作りで、ポルノ映画を撮りに片田舎にやって来た男女6人が…という安心設計。わたしの中ではすっかりホラー映画のミューズって感じのミア・ゴスが、また体張っ>>続きを読む

親愛なる同志たちへ(2020年製作の映画)

4.0

「ハエ一匹通しません」。2022年にもなって、本作にもあったこのような台詞をリアルで聞くことになるとは思いもしなかった。世界は着々と逆行を始めているのだろうか。誰への感情移入もできず、ファッション性か>>続きを読む

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