いがらむさんの映画レビュー・感想・評価

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悪は存在しない(2023年製作の映画)

4.2

冒頭の「EVIL DOES NOT EXIST」の青と赤のゴシック体がゴダールというか、ザジフィルムズ的な意匠で、それに続く叙情が過ぎる石橋英子の音楽と、90度真上を仰ぎ見るような枯れ木を移動ショット>>続きを読む

宗方姉妹(1950年製作の映画)

4.0

小津らしからぬ、どこか不穏な画調に支配されたこの東宝映画は、何かを破壊する人々の可笑しくも哀しい人生譚を書いている。妹の高峰秀子もとても自分の人生を大事にしてるとは思えないし、姉は宿命的な何かに耐えな>>続きを読む

夜明けのすべて(2024年製作の映画)

4.1

心理が題材の物語の映画化、となると何か文学的で嫌な予感がするのだが、「夜明けのすべて」を感情のドラマではなく肉体のドラマにせしめているのはやはり監督の卓抜な運動神経か。泣いたり、怒ったり、笑ったり感情>>続きを読む

ボーはおそれている(2023年製作の映画)

3.7

強迫観念の映像化、という新しい試みにトライするその姿勢がアーティスト。とてもオーソドックスな撮り方でマジックリアリズム的な世界を具現化する不思議な監督。そして彼に好き勝手映画を撮らせる不思議な映画界。>>続きを読む

近松物語(1954年製作の映画)

4.2

あ、すごい。これはすごいものを見ている、と言う感覚。芸術は細部に宿り、大枠の物語の真っ当な語り口の誠実さ。全く古びない時代劇のそれは、チャンバラのアクションではなく女の愛の具体化で宇宙に触れるロードム>>続きを読む

千年女優(2001年製作の映画)

3.9

アニメ映画でこんなリアリズム溢れるポストモダンな語り口があったんだ。衣装の意匠、素晴らしい。黒い外套とハットに赤いマフラー、これだけでこの映画勝ちでしょ。ロケットで上を見上げるキービジュアル的なカット>>続きを読む

キル・ビル Vol.1(2003年製作の映画)

3.9

冒頭の白黒画面が妙にショットの説得力があるから、その後どんなにゆるゆると荒唐無稽な語り口になったって引き込まれてしまう。まさにタランティーノあるある。飛行機とかアニメとかね。あのアニメのシーン、作家が>>続きを読む

アウトレイジ(2010年製作の映画)

4.7

何がこんなに違うのか…冒頭の匿名的なスーツの男たちの立ち姿を横切るトラックショット-その過程で主人公である大友もあっさり横切る-から、黒塗りのベンツと日差しの中、男たちが立ちすくむロングショット、この>>続きを読む

父ありき(1942年製作の映画)

4.5

仕事道具だったり釣り竿だったり、いつでも何かを手に携えた父子がまるで追いかけっこをするようにすれ違っては合流する。この哀しみをなんと呼ぼう。なぜこの映画には美しい人生みたいなものが映っているんだろう。>>続きを読む

何も変えてはならない(2009年製作の映画)

3.7

やっと見れた。ポンと置かれたカメラは通常のドキュメンタリーのように忙しなく被写体を追いかけ回したりしない。ただ目の前に起こっていることを記録するだけなのだが、なぜだろう、撮っている人間の高揚感をこのフ>>続きを読む

王国(あるいはその家について)(2018年製作の映画)

3.6

これは反復するミニマルミュージックのような映画だ。痛ましい主題をもつ脚本にボイスが吹き込まれる様子が、様々な重奏で執拗に繰り返される。その時の役者たちの顔がなんとも言えず素晴らしい。本読みのセリフがな>>続きを読む

お茶漬の味(1952年製作の映画)

4.3

なにかをともに飲む、という行為がコミュニケーションの成立なのだととりあえず仮定してみると、この映画を作った小津安二郎とはとても明瞭な思考原理で世界を作り、宇宙に触れた作家なのだと改めて認識させられる。>>続きを読む

(2023年製作の映画)

3.7

見るものから言葉を奪う作品。いわゆる教養的な歴史的事実を乱暴に笑い飛ばし、機械的に暴力と殺戮が目の前を横切る。並々ならぬ役者たちに期待を寄せて足を運んだものは感想に戸惑うこと間違い無いが、その破滅願望>>続きを読む

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)

3.8

反復のロマンチシズムを追求した一作は、ヴェンダースが敬愛する作家に捧げてるものなのだろうか。視覚的にシンプルな装置の中で、孤独であり壮年である清貧な男の生がおよそ2週間ばかり繰り返される。周りにいる人>>続きを読む

ソナチネ(1993年製作の映画)

4.0

タイトルが天才…音楽用語だとは分かるが、どこか意味の理解を拒むような孤高の佇まいをたたえたこの一語に、映画のあり方を語らせる恐ろしさ。どこを切っても絵画のような屋内・戸外の風景の数々を、詩情を拝した殺>>続きを読む

カナリア(2004年製作の映画)

3.7

頭に白い包帯をつけ、ボロボロな白いTシャツと少し大きめの白いズボンを身につけた無表情の青年が、まさにスターの様相を讃えていて冒頭から良い映画になる予感がする。彼と行動を共にすることになる少女と出会う瞬>>続きを読む

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)

4.3

ウェス・アンダーソンの野心の加速はとどまるところを知らない。シンメトリックな世界云々ではなく、物語を入れ子構造にしてしまった。それも、演劇という装置を用いて。シェイクスピアとかの戯曲を読むように幕と場>>続きを読む

イ・チャンドン アイロニーの芸術(2022年製作の映画)

4.0

彼の映画を愛好してきた人間にとっては垂涎ものの一作。ムン・ソリ、ソルギョング、ソン・ガンホ、チョン・ドヨン、、監督本人がロケ地を巡るのと並行して挿入される俳優たちが証言するシークェンスがよい。自己作品>>続きを読む

グリーンフィッシュ(1997年製作の映画)

3.9

イ・チャンドンの誠実さがとくと味わえるデビュー作。ファーストシークエンス、駆け抜ける汽車で見つめ合う男女の視線を繋げるピンク色のハンカチーフ。この繊細さが暴力に満ち満ちた世界を生きる2人のこれからを暗>>続きを読む

うなぎ(1997年製作の映画)

3.8

暴力と性に囚われてしまった人間たちの哀しい重喜劇。人はなぜ愛するものを破壊してしまうのだろうか。妻を殺めてしまった男の業を水が見つめ続ける。やたら騒がしいそんなドラマを晴れた川辺で静かに締めくくる。上>>続きを読む

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)

4.4

メタファー的に画面を埋め尽くす花鳥風月と、精霊の擬態化たち。お話自体はあちらの世界に行って大切なものを取り返す、そしてたとえ残酷な現実が待っていてもその世界に帰っていくという単純極まりないものだが、ま>>続きを読む

バートン・フィンク(1991年製作の映画)

4.1

理想主義で神経質そうな黒縁メガネとリーゼントの劇作家は、自らの精神世界の病理の深淵をミステリアスなホテルの一室と接続させる。「バードマン」や「ドライブ・マイ・カー」のように演劇業界を題材にした作品はと>>続きを読む

エル(1952年製作の映画)

4.5

映画の演出力が何なのか、たくさん映画を見ても分からなくなる。その分からなさこそが映画館で映画を見続ける理由なのだが、「エル」には映画監督の凄みのようなものだけが映っているように感じてならない。登場人物>>続きを読む

エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版(1994年製作の映画)

4.3

人の気持ちは分からない。そして全てがすれ違う。笑ってしまうくらいにすれ違うのがこの「恋愛時代」。ドラマツルギーとか、起承転結とか、そういうのにあえて逆らうように淡々とビートを刻むように人々の移動と会話>>続きを読む

3-4x10月(1990年製作の映画)

4.0

北野武の映画における様々な現象は奇妙に抽象化されて記号と化してしまう。草野球も沖縄も、あるいは殺しでさえも。だからこそ書き割りのように平板なはずの舞台装置が執拗に繰り返されると、時空が歪んだような気に>>続きを読む

その男、凶暴につき(1989年製作の映画)

4.5

隅田川を1艘の船がゆく。頭上にかかる橋を見上げると同じ画面内で橋上から空き缶が投げられる。次のカットで空き缶を投げたいたずらな小学生たちが逃げ去るように画面奥にかけていくと、まるで西部劇の主人公のよう>>続きを読む

ノーカントリー(2007年製作の映画)

4.3

静の活劇と呼ぶべき、2000年代の撮影技術の進化とその限界が生み出す創意工夫が際立つ「ミスティック・リバー」、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」に並ぶ傑作。両手をだらんと下げ、決して走らない、立ちすくむ>>続きを読む

さらば夏の光(1968年製作の映画)

3.7

どれだけ映画を見てもまだ見たことの画面がある。それは新しく作られた作品だけではなく55年前に公開された作品が運んでくることもある。それこそが映画のマジックだと思う。ポルトガルはリスボンから始まるこの映>>続きを読む

路地へ 中上健次の残したフィルム(2000年製作の映画)

3.6

中上健次が残した言葉「路地」。この言葉で一本の映画ができてしまう力がある。紀州に導かれる中年の男の不思議な旅。何か肉を感じさせる和歌山弁に乗せた中上健次の残した文章が、映像と詩のあわいに溶けてゆく。そ>>続きを読む

こわれゆく女(1974年製作の映画)

3.9

荷台に乗る子どもたちとビールを回し飲むピーターフォーク。三脚に乗せたキャメラがガタガタと画面を揺らせながらその様子を見届ける。美しいシークエンスである。映画作りを段取り性から解放しよう。家の中で起こる>>続きを読む

殺し屋ネルソン(1957年製作の映画)

4.0

語りの経済学を突き詰めたソリッドでクールで見るものの眼球を突き刺すような一作。接吻をしながら頭上の電球を捻り(一度失敗する様も含めて)電気を消したりつけたりする動きが示すように、現在では考えられない運>>続きを読む

怪物(2023年製作の映画)

4.3

自分はこういう人間だと悟られまいと振る舞う人間の性のように、こういう物語だと悟られまいと振る舞う脚本の慎ましやかな抵抗が気高くて震える。観念の映像化ではなく1人の少年の戸惑いと恋慕を肉の哀しみとして(>>続きを読む

アルマゲドン・タイム ある日々の肖像(2022年製作の映画)

3.6

これは戸惑いの映画だ。全てがお行儀良くフィルムに収められ、匂い立つ感情がない。痛みも喜びも悲しみも、大袈裟さと繊細さとは無縁にフィルムに定着していき、流れるように上映時間が過ぎ去る。そして、この閉塞感>>続きを読む

儀式(1971年製作の映画)

3.6

峻厳な撮影と演出が作り出すファルス(笑劇)。人物配置、あらゆる芝居、カメラワーク、隅から隅までコントロールされたシネマスコープの画面を見ながら、血の骨の複雑怪奇なエロスを存分に語り尽くす。眉毛を剃った>>続きを読む

カルメンという名の女(1983年製作の映画)

3.7

ゴダールが奏でる尽きせぬシネマでもフィルムでもムービーでもない(そのすべてである)映画の魅力。常に自己批判的で自己陶酔的な作風をどう処理しようか(冒頭のヴェネツィア金獅子賞うんぬんの描写)。カメラをポ>>続きを読む

トリとロキタ(2022年製作の映画)

4.6

ダルデンヌ兄弟の映画を見るとこれしか映画じゃないと言いたくなるような強度がある。絶対にここで起こってることしか描かない語り口と劇判がないことを忘れさせる人物たちの躍動、そして簡単に視線を逸らさせてくれ>>続きを読む

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