近本光司さんの映画レビュー・感想・評価 - 6ページ目

近本光司

近本光司

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君と別れて(1933年製作の映画)

3.5

穴のあいた靴下。ぼろぼろの靴。すらりとした脚。成瀬は足が好きなんだなあ。足もとが階級をあらわすとでもいわんばかりである。

サッド ヴァケイション(2007年製作の映画)

4.5

あまりに中上健次で、軽く眩暈を起こしそうになった。この映画で浅野忠信が演じている男は秋幸にしか見えない(彼にはケンジという役名が与えられている)。舞台は新宮ではなく北九州。あの深き山々に立罩めていたむ>>続きを読む

妻よ薔薇のやうに(1935年製作の映画)

4.0

一家の主人は長らく東京の家を不在にし、淋しさを募らせた妻は恋慕の思いを綴った短歌ばかり詠んでいる。ひとり娘はあくまで気丈に振る舞って、また三人で仲睦まじく暮らす日々が戻ってくることを夢想している。トー>>続きを読む

悪夢の香り(1977年製作の映画)

4.5

人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である。あまりにも有名なニーム・アームストロングの箴言を前に、タヒミックはわれわれにたいして判断留保を促す。ここでいう人類とは誰のことか。誰にとっ>>続きを読む

EUREKA ユリイカ(2000年製作の映画)

4.0

あくまで想像でしかないのだが、世紀の変わり目に『EUREKA』を観たとき、当時の人びとはこの映画を評するためにはあらたな批評言語を探究しなければならないと感じただろうと思う。ラスコー洞窟の壁画を見たと>>続きを読む

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)(2007年製作の映画)

4.0

重信房子はあと二日で刑期を終えて出所する。獄中でこの映画の完成版を観る機会を与えられたのかどうかはよくわからない。しかし彼女が往年の同志である若松孝二による運動の「総括」をどう受け止めたのかが、わたし>>続きを読む

距ててて(2021年製作の映画)

3.0

二階建ての古民家に暮らす二人を中心に綴られる四篇からなるオムニバス。脚本のもつ力学が絶妙に変てこで、ともすればただ散らかっていきそうなところを、ぎりぎり持ち堪えている。それはまるで、次々と思い掛けぬ闖>>続きを読む

モアナ(1925年製作の映画)

4.5

南太平洋の海に浮かぶ島で、わたしたちとは異なる衣装に身を包み、異なる言語をしゃべり、異なる風俗を実践する者たち。しかし彼らはわたしたちとおなじような顔つきで、おなじような身体性をもち、おなじような喜怒>>続きを読む

ベルイマン島にて(2021年製作の映画)

3.0

この話は映画になると思う? とクリスはトニーに尋ねる。彼女はいままさに滞在中のベルイマン島を舞台にした映画の脚本を準備していて、夫にそのあらすじを語り聞かせるのであった。いうまでもなく、これはミア・ハ>>続きを読む

教育と愛国(2022年製作の映画)

3.5

ゾッとした局面は枚挙にいとまがない。そこいらのホラー映画よりもよっぽどホラーである。’00年以降の公定教科書の記述をめぐる政治的介入に関する小史。従軍慰安婦はたんなる慰安婦と記述を改められ、沖縄の集団>>続きを読む

乾いた人生(1963年製作の映画)

3.5

太陽が疎とましい。わたしはまずその感覚が画面に映っていたことに驚いた。何度か挿入される太陽そのものを捉えたショットは、われわれに一切の感傷を許さず、地獄の焔のようにただ容赦なく大地を照りつける。首を折>>続きを読む

ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック(2020年製作の映画)

2.0

1920年代のパリはウディ・アレンにタイム・トラベルをせしめたわけだが、はたして60年代から70年代のローレル・キャニオンに赴こうとする後世の人びとはどのぐらい存在するのか。CSN&Yの存在を中心に紐>>続きを読む

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)

2.0

ミクロとマクロを接合するための内的論理がめちゃくちゃで、かといってその破天荒が向こう側へと突き抜けていくでもなく、その手前でクリシェにしがみつこうとしてますますへんなことになっている。これはおたくのロ>>続きを読む

月光の囁き(1999年製作の映画)

3.0

性愛の初期衝動が、あまりにまっすぐに、衒いなく描かれていたことに、いくらか面喰らうと同時に、少々辟易としてしまった。これを真正面から受け止めることのできる年齢はすでに過ぎ去ってしまった。谷崎ならばいま>>続きを読む

害虫(2002年製作の映画)

3.5

本作は予算の制約で撮影現場での同時録音を諦め、全編をアフレコで仕上げたというが、それが結果的におおきな効果を上げている。中学校に入ったばかりのサチ子(宮崎あおい)は、きわめて危うげな時期にあって、校内>>続きを読む

麻希のいる世界(2022年製作の映画)

3.5

麻希のいる世界というタイトルは、また同時に麻希のいない世界の到来を予告している。したがってわたしたちは、はじめの砂浜での二人の視線の交換による出会いのシーンから、すでにいずれ来るべき別離の予感を重ね合>>続きを読む

山椒大夫(1954年製作の映画)

3.0

息子は流謫の果てに、往年の気品を喪い見窄らしい格好をした年老いた母と再会を果たす。田中絹代と花柳喜章は湖のほとりで抱きあって、すでに鬼籍に入ってしまった父と妹のことを思い悲嘆に暮れる。満員の場内のあち>>続きを読む

近松物語(1954年製作の映画)

3.5

なるほど、これはすごい映画である。京都で幅を利かせる町人の若き妻であるおさん(香川京子)は、町人に奉公する身分の茂兵衛(長谷川一夫)と禁断の恋に落ち、逃避行を余儀なくされる。やがて二人は不義を働いたと>>続きを読む

雨月物語(1953年製作の映画)

4.5

いちばん最後のショットで、軒先にあるミヤギの墓に息子が供え物をして、そこからすっとカメラが上昇していく。後景には農作業に勤しむ百姓たち。そして「終」。あの瞬間に立ち上がるいいようのない感動の内実はいっ>>続きを読む

お遊さま(1951年製作の映画)

3.0

煤けた障子の向こうに見える庭の立ち木が若葉をつけている。床の間で産褥に苦しむお静は、東京に越してからげっそりと痩せこけた夫に、かつてあの京都の格式高きの旅館で取り持たれた見合いで目にした若葉のことを語>>続きを読む

マリヤのお雪(1935年製作の映画)

2.5

はじめに日本地図が示され、カメラはぐぐっと九州地方のほうへ移っていく。ショットが切り替わり、砲撃を受けている夜道。時代背景の説明はそれでおしまい。本編のなかの科白でかろうじて西南戦争のことだと理解した>>続きを読む

折鶴お千(1935年製作の映画)

3.0

入江たか子が山田五十鈴になり、岡田時彦が夏川大二郎になり、芸人が芸妓になり、検事が医者になっているぐらいで、つまりは『瀧の白糸』とほぼおなじ。日を追って戦争の影が色濃くなっていくなかで、泉鏡花も溝口健>>続きを読む

噂の女(1954年製作の映画)

5.0

画面の外から久我美子の弾くドビュッシーのアラベスクが流れはじめた瞬間から終わりに至るまでの充実が尋常の沙汰ではない。ピアノの旋律に導かれるように廊下を歩く田中絹代を捉えた移動撮影。娘から母が奪い取る仕>>続きを読む

夜の女たち(1948年製作の映画)

2.5

空襲で焼けた教会の瓦礫の傍ら、落ちぶれた女たちが罵り合い、殴り合っては悲嘆に暮れる。ステンドグラスの聖母マリアが見守るなかで、田中絹代は「わてらのような女をもうひとりでも拵えてはあかんのや」と憔悴しき>>続きを読む

瀧の白糸(1933年製作の映画)

3.5

年若の男の立身出世を扶けるためにあくせく働き、しまいには没落してしまう女旅芸人という、まさに泉鏡花のメロドラマの典型。裸馬の相乗りという出逢いから、金沢の犀川にかかる橋での再会。東京で法曹をめざして勉>>続きを読む

セリーヌとジュリーは舟でゆく(1974年製作の映画)

4.5

二人でおなじ夢を見ることができたら、いったいなんてロマンチックで素晴らしいんだろう! あるいはそれすらも夢かもしれない。しかし彼女たちは何度だって出会いなおすことができるのだ。冒頭の、公園の二人の出会>>続きを読む

千の太陽(2013年製作の映画)

3.0

ジブリル・ジオップ・マンベティという孤高の映画作家が生きたダカールを、その姪のマティ・ディオプが訪ねるドキュメンタリー(この映画は叔父ではなく母に捧げられている)。いまとなってはジブリルの名も、40年>>続きを読む

ビッグ・イン・ベトナム(2012年製作の映画)

2.5

社会主義体制にあったベトナムから1988年に脱出したが、アメリカに亡命することは叶わず、トゥルーズを経てマルセイユへと逢着した人びとについてのドキュメンタリー。「故郷喪失」というマティ・ディオプという>>続きを読む