近本光司さんの映画レビュー・感想・評価 - 7ページ目

近本光司

近本光司

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オルメイヤーの阿房宮(2011年製作の映画)

2.0

この映画がおもしろくないのは、コンラッドの原作(未読)のせいではないか。1894年に刊行されたコンラッドの一作目を、どうしてキャリア晩年のアケルマンが映画の主題として選択したのか、映像を観てもいまいち>>続きを読む

ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマン(1975年製作の映画)

4.5

ジャンヌ・ディールマンの規則正しき生活のすべてを映しているようでいて、排泄のシーンは描かれない。彼女はもちろん涙を流すことはないし、情事にいたっても汗をかくこともない。あらゆる体液の描写が画面から排除>>続きを読む

私、君、彼、彼女(1974年製作の映画)

4.0

廊下のように狭い、日の当たらない薄暗いアパルトマンのひと部屋で、女はなにかを待ち続けている。マットレスに横たわる。家具の配置を変える。壁ぎわにうずくまる。長い手紙を書く。スプーンで砂糖を貪り食う。まる>>続きを読む

ホーホケキョ となりの山田くん(1999年製作の映画)

3.5

高畑勲はとてもあやうい映画作家だと感じた。ひとつの屋根の下で暮らす三世代からなる家族の日常の場面をいくつも並べた愉快なショート・ストーリーズ。ひとつ間違えれば旧来的な家族観礼賛のようにも見えかねないが>>続きを読む

おもひでぽろぽろ(1991年製作の映画)

5.0

たとえばフロントライトに照らされて、雨露に濡れた草木がきらきらと蛍のように光輝いていたこと。居た堪れずに本家を飛びだしたタエ子がテーブルの上に残したボウルの氷水がゆらゆらと音を立てて揺れていたこと。エ>>続きを読む

満月の夜(1984年製作の映画)

4.0

ロメールのベスト5作についてしゃべるのはたのしい。これはたぶん5位。『北の橋』を観て、パスカル・オジェに思いを馳せて、しばらくぶりに見なおした。なかなか適当な形容が見当たらないのだが、とにかく気持ちが>>続きを読む

35杯のラムショット(2008年製作の映画)

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酩酊状態で劇場に駆けつけて、最前列で自分の頭よりはるかに高いスクリーンを見上げて観た。途中睡魔におそわれたこともあり、なんの映画なのかよくわからないまま幕切れに。目が醒めたら車がエンストを起こしていた>>続きを読む

トゥキ・ブキ ハイエナの旅(1973年製作の映画)

4.0

エドワード・G・ロビンソンの物語は何度でも再開されうる。ジャン・ルーシュが1958年のアビジャンでウマル・ガンダを主人公に抜擢して『おれは黒人(Moi, un Noir)』を撮ってから15年後のダカー>>続きを読む

親愛なる同志たちへ(2020年製作の映画)

4.0

なによりもまず、オープニング・クレジットが英語表記だったことに目がいった。冷戦体制下のアメリカで『暴走機関車』(’85)といった作品を撮った過去のある齢八十四のロシア国籍の映画監督は、「親愛なる同志た>>続きを読む

パリ13区(2021年製作の映画)

3.5

パリ13区の20階の一室のインターフォンを介してかつてのルームメイトたちが言葉を交わす、その最後のシーンで、この映画は純粋なラブ・ストーリーを描いていたのだとようやく理解した。そのような諒解がゆっくり>>続きを読む

アンラッキー・セックス またはイカれたポルノ(2021年製作の映画)

3.5

口元をマスクで覆った妙齢の女がブカレストの街をひたすらに歩き倒す。わたしはパンデミック以後に外国にいったことがないので、ヨーロッパの街並みをマスクをつけた者たちが往来する映像を目にするだけでいくらか新>>続きを読む

3つの鍵(2021年製作の映画)

2.0

モレッティは『幸福なラザロ』に嫉妬したのではないか。このような憶測はアルバ・ロルヴァルケルが出演していたからという程度のたよりない類推でしかないのかもしれないが、あるいは彼女の妹の監督作品を意識してい>>続きを読む

女子高生に殺されたい(2022年製作の映画)

2.5

本編では自己他殺性愛と直訳されていたが恐怖性愛(Autoassasinophilia)というものの存在をわたしははじめて知った。性愛の世界は奥が深く、城定監督の食指がこの主題に反応したのも納得がいく。>>続きを読む

ペルセポネーの泪(2021年製作の映画)

1.0

信越放送にいったいなにが起きたのか? 気でも触れてしまったのだろうか? と心配になってしまう珍品系の類。ビジュアルから察するに、いかにもご当地の感動的なヒューマンドラマの類だとおもって見始めたら、時空>>続きを読む

うみべの女の子(2021年製作の映画)

1.5

浅野いにおの原作がどうなのかは知らない。しかしこれだけ死の気配が無菌化されてしまったら、なにもかも台無しではないか。閉塞的な港町で悶々とした日々を送る中学生たちの自意識も、その自意識の表出であるところ>>続きを読む

王手飛車取り(1956年製作の映画)

3.5

不倫相手から贈られた毛皮のコートをどうやって夫にそうと悟られずにクロゼットに迎え入れるかを画策するというだけの、きわめてシンプルな話。しかしまるでピカソが描いたバルセロナ時代の初期作品のような、未来の>>続きを読む

北の橋(1981年製作の映画)

4.0

パリの湿った空気のなかの幹線道路を捉えた冒頭のショットに猛烈な既視感を憶え、これはどこで観たんだっけと記憶を辿っていたら、ロメールの『満月の夜』(’84)の冒頭のパンショットだと思い当たった。いうまで>>続きを読む

チリの闘い(1978年製作の映画)

3.5

わたしたちはすでに、1973年9月11日のクーデタによって悲劇的な終焉を迎えたアジェンデ政権のあとに訪れた、さらなる悲劇の顛末を知っている。それだけに第三部で民衆の力(poder popular)を信>>続きを読む

真珠のボタン(2015年製作の映画)

2.5

『夢のアンデス』(’19)、『光のノスタルジア』(’10)、『真珠のボタン』(’15)とグスマンの近年の3作を続けて観て、これらの作品でかれがやっていることはすべておなじだということにようやく思い至っ>>続きを読む

光のノスタルジア(2010年製作の映画)

2.5

宇宙から眺め下すと、チリのアタカマ砂漠は青い球体についた茶色い染みのように見えるという。二十世紀以降、青い惑星の染みのもとに、世界中から天文学者と考古学者たちが集まってくる。前者は巨大な望遠鏡を設えて>>続きを読む

夢のアンデス(2019年製作の映画)

2.5

かつてパウリーナ・フローレスの『恥さらし』という小説を読んだときのこと。1990年代から現代に至るまでのチリを舞台にしたこの短編集に、いわゆるマジックリアリズム的な筆致を期待していたわたしは、この若き>>続きを読む

明け方の若者たち(2021年製作の映画)

1.0

ノロい、ノロすぎる。わたしは若者たちの生態をよくわかっていますというふうな顔つきをしているのが許せない。これ見よがしにディテールを描きこむことが演出なのだと履き違えてるようにしか思えない。ひとつのこと>>続きを読む

ずっと独身でいるつもり?(2021年製作の映画)

3.0

現代の東京に生きる女性たちの群像。ライター稼業で同年代の女性のアイコン的な存在として名を上げた主人公(田中みな実)を中心に、彼女を支持して独身を貫く女性(市川実日子)、子育て生活を送る既婚女性(徳永え>>続きを読む

ミュジコフィリア(2021年製作の映画)

1.0

絶望的にお話がつまらない。家父長的な天才音楽家の父のもとに生まれた嫡子と私生児の兄弟のあいだの相剋と和解という主題だけ聞けば、まるで古代ギリシアの戯曲かのような壮大な印象を受けるのだが、それが京都の音>>続きを読む

虎の尾を踏む男達(1945年製作の映画)

4.0

なにからなにまで小気味がいい。敗戦をまたいで製作されていたが、二度の検閲の憂き目に遭い、公開は『羅生門』で国際的名声を得たあとの1952年。黒澤初の時代劇とされていて(『姿三四郎』はちがうんだ)、平氏>>続きを読む

續姿三四郎(1945年製作の映画)

2.0

『姿三四郎』の成功を受けて製作された続きもの。監督本人にもあまりやる気はなかったという。柔道で名声を得ながらも慎ましく生きる姿三四郎が唐手の使い手である兄弟(前編で倒した檜垣の弟たち)に挑まれるという>>続きを読む

一番美しく(1944年製作の映画)

2.5

戦時下の増産体制で、レンズ工場で働く女子工員たちの悲喜こもごもを描いた国策映画。男子の1/2の増産をめざせと命じられた女工たちは、みずから女だからって舐めてもらっちゃ困ると雇用者に訴え、2/3という目>>続きを読む

姿三四郎(1943年製作の映画)

3.5

明治15年は1882年。江戸の風情が残る東京の町に柔術家を目指して上京する姿三四郎が、柔道の師範に出会い、柔道家として、人間として成長していくという筋書き。ふるい柔術と新興の柔道の対立が興味ぶかいのだ>>続きを読む

魔界転生(1981年製作の映画)

2.5

深作欣二はまるでブレーキを踏むつもりがない。それどころかそもそも彼の乗車する躯体にはブレーキすら備わっていないようである。そしてまた角川春樹もとにかく深作欣二が二時間にわたりアクセルペダルを踏みつづけ>>続きを読む

柳生一族の陰謀(1978年製作の映画)

2.5

殺し、殺され、きり、きられ。この時代劇にやくざ映画と性質を違えているところはほとんどない。役者陣が髷を結って袴を履き、拳銃の代わりに日本刀で襲いかかるというだけで、ここで働いている深作欣二のダイナミズ>>続きを読む

カンゾー先生(1998年製作の映画)

3.5

なによりもまず配役の妙が光る。ウィキペディアによれば、カンゾー先生の役はまず北村和夫に打診するも断られ、三國連太郎が起用されるも降板。緒形拳が懇願するも今村昌平が断り、柄本明が演ずることになったという>>続きを読む

天国と地獄(1963年製作の映画)

5.0

いくつかの黒澤明作品も含めたとしても、これは東宝スコープで撮られたもっともすぐれた作品ではないだろうか。以後につくられたサスペンス基調の映画が欲張りすぎるがために悉く失敗してきたのは、つくり手たちが『>>続きを読む

純愛物語(1957年製作の映画)

2.0

タイトルからしてベタなメロドラマがはじまるのかと身構えていたのだが、むしろ戦後間もない混乱がそのまま活写されたような重苦しい雰囲気を湛えた作品であった。非行少年少女を主人公に据えているといういみでは、>>続きを読む

海辺の金魚(2021年製作の映画)

1.5

どれだけ肯定的に観ようとも至るところで生ぬるさを憶えてしまう。この映画にあっては事実は小説より奇なりという箴言がなによりも強く思い起こされる。劇中のかき氷事件はあきらかに「和歌山毒物カレー事件」をモデ>>続きを読む

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)

2.5

まずはじめに圧倒的な災厄が降り掛かる。大地震と津波という抗いようもない災厄は数多くの生命を無慈悲に奪い、遺された者たちの生活ひとつひとつを、その基盤となる行政の在りかたをも歪めてしまった。その歪みをど>>続きを読む

高津川(2019年製作の映画)

4.0

高津川の土地に生きる人たちにとって、これはきっと宝物のような映画になったにちがいないという確かな感触がある。地方の町おこしのためにつくられた観光映画は日本全国に余りある。その類いの作品と何がちがうのか>>続きを読む