近本光司さんの映画レビュー・感想・評価 - 8ページ目

近本光司

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罪の声(2020年製作の映画)

2.0

1984年に世間をさわがせたグリコ森永事件を題材に一本の映画がつくられた。わたしは142分のランタイムに付き合ってみて、そもそもこの事件は実録犯罪ものとするにはまったく向いていないと感じた。当時の報道>>続きを読む

黄龍の村(2021年製作の映画)

2.0

この映画で真っ先に殺されるのは鼻持ちならないリア充たちである。リーダー格の男はあいつら皆殺しにしてやると奮い立った瞬間に呆気なく射殺される。ここでは主人公然と堂々と振る舞っていた者から順に最期を迎え、>>続きを読む

キネマの神様(2021年製作の映画)

3.0

松竹100周年記念映画にあって、山田洋次がオマージュを捧げる清水宏や小津安二郎、城戸史朗といった面々は、自分の死後にこんな映画がつくられたと知ったらなんと言うだろうか。『おかえり寅さん』で渥美清の身体>>続きを読む

英雄の証明(2021年製作の映画)

3.5

ソーシャルメディアの功罪を描く映画は近年量産されている。しかし『英雄の証明』ほどそのことに成功した作品はいまだかつてなかったのではないか。インターネットというバーチャルな空間で虚実ないまぜの投稿が出回>>続きを読む

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)

3.5

エンドロールを眺めながら、わたしの脳裏には、節度、という言葉が浮かんでいた。オーストラリア史上最悪の銃乱射事件の犯人を主人公に据えながら、映画は自罰論をかざして凶行に至るまでの個人の来歴を糾弾するので>>続きを読む

ベルファスト(2021年製作の映画)

2.5

はじめの空撮のモンタージュも、モノクロームの映像にも、故郷喪失をめぐる主題の語り口にもとくに惹かれるところがなかったので、メモ代わりに外郭の話を書く。わたしは北アイルランド問題についての理解が浅く、1>>続きを読む

ベナジルに捧げる3つの歌(2021年製作の映画)

3.0

カブールの難民キャンプの上空にはいつも米軍が打ち上げた白い気球が浮かんでいる。気球にはカメラが搭載され、キャンプの住人たちの暮らしが監視しているのだという。そうした監視下で、被写体となった青年は恋人へ>>続きを読む

とんび(2022年製作の映画)

1.5

重松清のしみったれたノスタルジアをどうしてドラマや映画がこぞって顕彰したがるのかがわからない。手垢に塗れた「古き良き昭和」の表象が平坦に再生産されてゆく画面に2時間余りも付き合わなければならない苦痛。>>続きを読む

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)

4.0

体調をくずした獣人(geek)を病院の入口に捨て置いたとき、ウィレム・デフォーはチャプリンに似た男がポーランドを侵攻したらしいぞ、と脈絡もなく呟いた。それは1939年のことである。以来、旧大陸でのナチ>>続きを読む

シュシュシュの娘(2021年製作の映画)

3.5

外国人排斥運動、公文書改竄、公務員の自殺。こうしたあきらかなモデルをもつ政治的問題が、ここでは埼玉県のうらびれた自治体を舞台にし、矮小化されたスケールで再現されてゆく。このスケールダウンはプロダクショ>>続きを読む

殺しの烙印(1967年製作の映画)

2.5

まるで矢継ぎ早に切り替わる悪夢を観ているかのような。さらに具合の悪いことに、この映画における悪夢から別の悪夢への移行は、目醒めるとそこはまた別の悪夢のうちだったというのではなく、唐突なショットの切り替>>続きを読む

アトランティス(2019年製作の映画)

4.0

この映画は2014年のクリミア併合の5年後に撮られた。舞台は2025年、近未来のウクライナ。10年に及んだ泥沼のロシアとの戦争終結の一年後という設定である。終戦まで従軍していた二人の男たちは、荒涼とし>>続きを読む

女と男のいる舗道(1962年製作の映画)

3.5

11章で、アンナ・カリーナの眼差しがカメラに正対する。わたしはあの眼差しと10年振りの再会を果たしたはずである。当時のことはあまり憶えていないのだが、初見のときよりもずっと彼女の姿が遠く見えてしまった>>続きを読む

ビルマの竪琴 総集編(1956年製作の映画)

4.5

1956年の封切りで映画館に駆けつけた人たちのなかには、かの戦争からの帰還兵も、外地で家族を亡くした者も数多くいたはずである。まだ戦争の記憶が色濃く残るなか、水島がビルマの竪琴で奏でた「仰げば尊し」の>>続きを読む

明日の食卓(2021年製作の映画)

1.5

母たちの肖像。家族とは一種のブラックボックスであって、『アンナ・カレーニナ』の有名な書き出しを引き合いに出すまでもなく、「不幸」の色合いがそれぞれの生活を別様に侵食していくさまを描く。わたしはこの三つ>>続きを読む

弟とアンドロイドと僕(2020年製作の映画)

3.0

「きたないトヨエツ」と「きれいなトヨエツ」がおなじ画面に居座ったとき、この監督はきっとこれが撮りたかったにちがいないと快哉を叫びそうになった。自己の分身としてのアンドロイドをつくる作業に日夜励んでいる>>続きを読む

アネット(2021年製作の映画)

4.0

わたしは驚いた。「神の類人猿」の独演会に居合わせた観客たちが、異口同音に歌をうたいはじめたとき、わたしは大いに驚いてスクリーンのうちの現実で制定されるルールの認識をすぐさまあらためなければならなかった>>続きを読む

リフレクション(2021年製作の映画)

4.5

五つ目のショットで現実と虚構のあいだに張られていたスクリーンが突如として破られる。車輌のフロントガラスはロシア兵の放つ銃弾によって破壊され、以後に続くいくつかのシーンでは、主人公は境界の向こう側で酸鼻>>続きを読む

神々の深き欲望(1968年製作の映画)

3.5

ベトナム戦争へと向かう米軍の航空機、彼岸に見える隣国、内地から来た技師の口ずさむコカ・コーラのCM曲といった細部の描写はあるものの、1968年に沖縄を撮ったにしては、あまりに政治性が欠けている。197>>続きを読む

非常線の女(1933年製作の映画)

3.0

一年振りに再見。若き笠智衆が田中絹代の落とした縫いかけの手袋をそっと柵にかけるシーンでいつも泣いてしまいそうになるが、初期の小津作品のなかでも、じつはあまり見どころのないほうではないかと思っている。

国葬(2019年製作の映画)

3.5

1953年3月3日、ソビエト連邦に属する諸民族の労働者や農民たちのもとにスターリンの死の報せが駆け廻る。モスクワだけではない。ウラジオストクにも、タジンにも、ビリニュスにも、そしてキエフにも。放送を聞>>続きを読む

粛清裁判(2018年製作の映画)

-

もととなった作品がどのようなものかわからないのでなんとも評価を下しがたい。裁判官も、被告人も、すべてが大芝居を打つなかで、判決が下されたあとに歓声を上げる傍聴者たちはおそらく唯一本物なのだろう。

アウステルリッツ(2016年製作の映画)

2.5

これはとても意地悪な映画だ。この意地の悪さはわたしにも身に覚えがある。観光地でカメラを構える人たちをおもしろがって写真に撮る意地の悪さ。その行為は観光名所の手垢に塗れた表象に群がる人たちをどこかで見下>>続きを読む

夜と霧(1955年製作の映画)

3.5

劇場の灯りが点されたあとも、しばらく自席に磔になって、身動きを取ることができなかった。それはわたしだけでなく、あの場所に居合わせたすべての人にとって同様であっただろう。わたしたちの生きる現実の平面に、>>続きを読む

君は永遠にそいつらより若い(2021年製作の映画)

3.0

他人の胸中や過去は、現前するものだけでは決して推し量ることはできない。きわめてシンプルで、当然のことともいえる命題を、この映画はさまざまな仕方で語ろうと試みている。二人で宅飲みをした翌日に自死を選んだ>>続きを読む

真夜中乙女戦争(2021年製作の映画)

1.0

原作小説は書店に平積みになっているのを何度か見かけていたぐらいで、なにも知らない。ただこんなやわな話が、若者から圧倒的な支持をあつめて累計40万部を売り上げているなどと聞くと、ただただ昏い気持になる。>>続きを読む

それから(1985年製作の映画)

2.0

漱石の原作のどこに惹かれ、なにを撮りたかったのか。そのことがなにも画面から伝わってこない。ここではいつもの森田芳光の軽快さと破調は封印され、いわゆる純文学の語りをそのまま実直に映画に移し替えているだけ>>続きを読む

シブがき隊 ボーイズ&ガールズ(1982年製作の映画)

1.0

伊豆の海をほとんど撮らないのはなぜか。海水浴のシーンでも、海のほうから砂浜に抜けるショットはあっても、海を一望するようなショットはなかった。アイドル映画という性格上、「ひと夏だけのメモリー」を過ごす舞>>続きを読む

夢の涯てまでも ディレクターズカット 4K レストア版(1994年製作の映画)

3.0

福音書は「始めに言葉ありき」という一文ではじまったが、黙示録は「最後には映像(images)だけが残っている」という一文で終わるのかもしれない。ヴェンダースは劇中で伝記小説を執筆する人物にそのように語>>続きを読む

たぶん悪魔が(1977年製作の映画)

2.5

シャルルが死を遂げたペール=ラシェーズ墓地には、『レ・ミゼラブル』の主人公であるジャン・ヴァルジャンが埋葬されている。以下、Wikipediaからの引用。

« 彼の亡骸はペール・ラシェーズ墓地の目立
>>続きを読む

パラダイス・ナウ(2005年製作の映画)

4.5

パラダイス・ナウ。来世に訪れる天国と現在という概念は本来相容れないもののはずである。それは占領者であるはずのイスラエルが、パレスチナによる被害を訴え、加害者と被害者の二役を演じていることと似ている。で>>続きを読む

消された存在、__立ち上る不在(2018年製作の映画)

3.0

ベイルートのどこか。壁面に幾重にも貼られてた朽ち果てたポスターに、男は慎重にカッターナイフを入れ、なにかを探り当てようとしている。やがて露わになるのは、かつて15年もの長きに及んだレバノン内戦で行方不>>続きを読む

リトル・パレスティナ(2021年製作の映画)

3.5

流謫の民はまたさらなる流謫を強いられる。パレスチナの人々は1948年のナクバで故郷を喪失し、難民となって命からがら四散した。そのうちシリアのダマスカス郊外に位置するヤルムークと呼ばれる土地に居を構え、>>続きを読む

シティ・オブ・ゴッド(2002年製作の映画)

2.5

この無軌道、この忙しなさ。リオ・デ・ジャネイロに実在する“Cidade de deus(神々の街)”という名のファヴェーラを舞台にした60年から80年にかかる年代記。銃を手にわが者顔で街を闊歩するギャ>>続きを読む