近本光司さんの映画レビュー・感想・評価 - 9ページ目

近本光司

近本光司

映画(908)
ドラマ(11)
アニメ(0)

東京画 2K レストア版(1985年製作の映画)

2.5

ヴィム・ヴェンダースは小津安二郎の映画をこよなく愛した。そしていま小津が撮った東京の風景はどのくらい残っているのか、あるいはもう失われてしまったのかという問いを携え、小津が世を去ってから20年後の、1>>続きを読む

都市とモードのビデオノート(1989年製作の映画)

3.5

山本耀司はヴィム・ヴェンダースが構えるビデオカメラに向かって、完全なるシンメトリーは壊したくなってしまう、非対称でなければ落ち着かないと語る。そのビデオフッテージの映像を収めた35mmのフィルムカメラ>>続きを読む

アメリカの友人 4K レストア版(1977年製作の映画)

4.5

ブルーノ・ガンツが ♪ Baby, you can drive my car… とビートルズの歌詞を口ずさんだとき、わたしは完全にやられてしまったと思った。この映画ではリアリティが宙吊りにされている。>>続きを読む

アポロンの地獄(1967年製作の映画)

-

赤子は定められた運命から逃げることはできなかった。やがてかれは神託どおりに父を殺し、母と情を通じた。『オイディプス王』の数奇な人生に、パゾリーニは自分の半生を重ね合わせていたという。だが人物たちに語ら>>続きを読む

テオレマ 4Kスキャン版(1968年製作の映画)

4.0

パゾリーニは不本意なシーンをいっさい撮らない。それは観客にとっては不親切な態度ともいえる。あの青年がどのような経緯でブルジョワ一家の世話になることになったのか、どのような理由で邸宅を去ってミラノへ向か>>続きを読む

湖のランスロ(1974年製作の映画)

2.0

ブレッソンがわからない。『バルタザールどこへ行く』、『少女ムシェット』、『やさしい女』、『白夜』と、これまで60年代後半から70年代にかけての作品を観てきたが、ブレッソンは観れば観るだけその思いが強く>>続きを読む

MEMORIA メモリア(2021年製作の映画)

4.0

記憶とは音である。わたしはまずアピチャッポンがこの映画で示す認識を興味ぶかく思った。わたしにとって記憶とは一義的にはまずイメージであって、意味に変換される以前の世界の音がイメージに付帯することはめった>>続きを読む

ウエスト・サイド・ストーリー(2021年製作の映画)

4.0

マンハッタンのウエスト・サイドは再開発によっていまにも土地の記憶が葬られようとしている。ギャングの残党たちは毀れゆく廃墟となったシマを怯えながら歩きまわる。61年の映画版と較べてなによりもまず印象的だ>>続きを読む

ボストン市庁舎(2020年製作の映画)

3.5

すごく普通のことをいうが、これはきわめて民主主義的な映画である。近年のフレデリック・ワイズマンは、たとえば『ジャクソン・ハイツ』がそうだったように、ますます民主主義への、あるいみではナイーヴな期待を強>>続きを読む

白い牛のバラッド(2020年製作の映画)

4.0

「赦しとは求めて得られるものではない。恩寵のように天上から降り注ぐ何ものかであって、それが到来するまで人は待ち続けなければならないのだ」という四方田犬彦の言が、より痛切な響きをもってあらたに了解される>>続きを読む

どっこい! 人間節-寿・自由労働者の街(1975年製作の映画)

3.0

1974年は田中角栄が列島改造を推し進めていた年に相当する。日本は高度経済成長期を経て、資本主義大国として世界に名を馳せようとしていたころである。小川プロはその暗部ともいえる、三大ドヤ街のひとつとして>>続きを読む

風が吹くまま(1999年製作の映画)

4.5

天国は美しいところだと人はいう。だがわたしにはぶどう酒のほうが美しい、という詩を千年前に書きつけて死んだオマル・ハイヤームは、いまごろキアロスタミが撮ったようなペルシャの大地よりも美しい場所にいるのだ>>続きを読む

トラベラー(1974年製作の映画)

3.5

テヘランから遠く離れた町の夜はひどく暗い。家を抜けだして路地を駆ける少年の姿は闇に溶け、夜行バスでは隣に座る乗客の顔を見分けることもできない。長い長い夜をぬけて少年はテヘランへ辿り着くのだが、お目当て>>続きを読む

ホームワーク(1989年製作の映画)

2.5

ウスマン・センベーヌは1965年、ジャン・ルーシュに向かって次のように言い放った。「きみはわれわれアフリカ人をまるで昆虫のように眼差す」。イラン人がイランへカメラを向けたこのドキュメンタリーを観て、わ>>続きを読む

南極料理人(2009年製作の映画)

3.5

これはなかなかにおもしろい。『面白南極料理人』という原作がどのようなものなのかわからないが、ウイルスですら死滅する南極大陸のドームふじ基地へ「左遷」させられた8人の共同生活を、徹底的にオフビートなコメ>>続きを読む

ウエスト・サイド物語(1961年製作の映画)

4.5

この映画の筋書きにはあまりに瑕疵が多い。まったく納得のいかないご都合主義的な展開の数々。しかしそれがもはやどうでもよくなってくるぐらいの強度をもった奇跡的なシーンがいくつか存在する。わたしはこの映画を>>続きを読む

ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ(1975年製作の映画)

2.5

紛うことなき失敗作である。セルジュ・ゲンズブールが同名の曲をもとに自身で脚本を書き、はじめてメガホンを握った作品。ゲンズブールを多少なりとも知っていることもあって、おそらく彼がこの映画でやりたかったで>>続きを読む

Summer of 85(2020年製作の映画)

1.5

フランソワ・オゾンはいくつか観ている。彼はファズビンダーを私淑し、『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(未見)をもとにした作品が今年のベルリナーレに選出されているそうだが、ファズビンダーが『Summer>>続きを読む

泣けない男たち(2017年製作の映画)

4.0

ロシアがウクライナに対する戦争をはじめた忌まわしき日に観た。ボスニアの景勝地に位置するホテルでひっそりと催されるセラピーに、90年代にボスニア紛争に従軍した男たちが集められる。かつて血で血を洗う戦火を>>続きを読む

四月(1962年製作の映画)

4.0

若年の男たちはおなじ労働着を身に纏い、どこかへ向かっている。中年の男たちはどこかへ大きな家具を運搬している。老年の男たちは街のそこかしこに腰を掛け楽器を奏でている。男たちが跋扈する旧市街をステップを踏>>続きを読む

落葉(1966年製作の映画)

3.5

イオセリアーニは、大規模工業的な生産様式の伸長によってグルジアの伝統文化が瓦解しはじめ、彼らの生活様式にめまぐるしい変化が訪れつつあるということにとりわけ自覚的にカメラを向けた映画作家であった。まるで>>続きを読む

前科者(2022年製作の映画)

1.5

あらゆる勘違いが積みあがってできた代物。所与の状況のうちに生きて発話をする者がひとりもいない。俳優たちは脚本というテキストに縛られた憐れな存在と化している。一方で伏線回収という神話に取り憑かれたホンは>>続きを読む

天国と大地の間で(2019年製作の映画)

2.5

関係不和に陥ったパレスチナ人の夫婦は離婚の手続きを取るべく、西岸から妻の生まれ故郷であるイスラエルのナザレへと向かうことになる。しかし鉄格子とイスラエル兵が待ち受ける検問所をくぐってたどり着いたナザレ>>続きを読む

馬鹿たちの行進(1975年製作の映画)

3.5

1970年代初頭のソウル。朴正煕大統領の独裁政権下で、男たちは三年の兵役が義務付けられ、夜間には外出禁止令が敷かれ、長髪を垂らせば風紀を乱すというかどで警察に拘束され剃髪させられる。そうした韓国社会で>>続きを読む

裁かるゝジャンヌ(1928年製作の映画)

5.0

神の声を聴いた女は目を見ひらいて天を見上げる。権力を傘に着る男たちはその女を見下ろしている。神か、悪魔か。誰もがなにかに取り憑かれている。皮膚の肌理。皺。頬を伝う涙。瞳。スクリーンを仰ぎ見るわたしたち>>続きを読む

の・ようなもの(1981年製作の映画)

2.5

掴みどころのない、ある狂騒へと向かおうとするムードだけが濃密に立罩める東京下町の讃歌。映画は高らかにバブル到来の予感を告げる。隅田川の近くにある団地の世帯にのみとどく地域テレビによって、住人たちは緩や>>続きを読む

国境の夜想曲(2020年製作の映画)

3.0

この映画への態度はにわかに決定しがたい。中東地域の戦争によって歪められている現実を、入念に計算されたカメラポジションから固定したカメラで静かに追っていく。あらゆるショットが美しく、編集のリズムも絶妙に>>続きを読む

狼をさがして(2020年製作の映画)

3.0

1970年代の半ば、すでに日本人は学生闘争の挫折を経験し、深い絶望と当惑のなかにいたはずである。少なくともわたしはそのような認識でいた。だが1974年に、左翼思想をもつ日本人(本国人)たちが、植民地戦>>続きを読む

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)

2.5

このありふれた恋愛映画そのものに云々するつもりはない。可もなく不可もなく、感動も退屈も憶えなかった。池松壮亮が暮らすアパートの部屋の間取りはいいなあ、とか、短パンを履く國村隼はずるいなあ、などとどうで>>続きを読む

ブルジョワジーの秘かな愉しみ(1972年製作の映画)

3.5

いったい何度部屋の呼び鈴が鳴っただろうか。パリのブルジョワたちはあらゆる闖入者にその欲望を宙吊りにさせられてしまう。演者たちはみなシーシュポス的な不条理に囚われたまま、おなじ道を何度も何度も歩かされる>>続きを読む

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)

3.5

聾唖者に音楽をどのように感得させうるか。映画はそのような困難に果敢に挑んでいる。

三度目の、正直(2021年製作の映画)

2.0

三度目の、とそこに読点を打つ日本語のリズムが受け入れられない。はじめから終わりまで、この映画のもつ生来のリズム感が絶望的に耐えがたい。まるでハマグチの悪いところを凝縮したような。もっと観たいと思わせる>>続きを読む