糸くずさんの映画レビュー・感想・評価 - 8ページ目

糸くず

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ビッグ・ビッグ・ワールド(2016年製作の映画)

3.9

第29回東京国際映画祭にて。

妹と共に暮らす里親の家族を躊躇なく刺し殺す兄は、まるで人の心を持たないように思えるが、森は罪深き兄妹を抱き止めるのではなく、むしろゆっくりと蝕み、人間界ではなく自然界の
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誕生のゆくえ(2016年製作の映画)

4.0

第29回東京国際映画祭にて。

舞台女優のパリと映画監督のファルハードは、夫婦で、一人息子がいる。パリは妊娠するが、経済的な事情を考慮し、二人は中絶を決意。しかし、処置がうまくいかずに苦悩するパリは中
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あなた自身とあなたのこと(2016年製作の映画)

3.5

第29回東京国際映画祭にて。

わたしには、どう考えても「いつものアレ」以上の何かには思えず、何一つ笑えなかったのだが、なぜか激賞している人が多く、大変困惑している。

どう見ても「その人自身」であり
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アクエリアス(2016年製作の映画)

3.9

第29回東京国際映画祭にて。

今回の映画祭で観た映画の多くに、「わたしがわたしとして尊重されないことへの悲しみと怒り」を切々と感じていたのだが、この映画は、「わたしを踏みにじるな」という強烈な怒りが
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ディアナを見つめて(2015年製作の映画)

2.8

第29回東京国際映画祭にて。

ある日突然、夫から「第2夫人を迎えることに決めた」と言われたディアナの戸惑いと決断。

まず、先に結末から言ってしまうが、ディアナは、自分を尊重してくれない夫に怒りと失
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舟の上、だれかの妻、だれかの夫(2013年製作の映画)

2.8

第29回東京国際映画祭にて。

雷鳴、さざなみ、水の音。群れ集う魚ち、砂浜に打ち上げられたタコ。神秘的で美しい自然が、自然のままにそこに存在する映像詩。

エドウィン監督は、「海に対して根源的な恐怖を
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ダイ・ビューティフル(2016年製作の映画)

4.5

第29回東京国際映画祭にて。

美人コンテストへの出場を仕事とするトランスジェンダーのトリシャの一生を、時間軸を揺り動かしながら描いた怒濤のヒューマンドラマ。

「わたしを踏みにじらないで」という悲痛
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四十年(2016年製作の映画)

3.7

台湾のフォーク歌手たちが、台湾でのフォークソング誕生40周年を記念して開催したコンサートの模様を記録したドキュメンタリー。

ピーター・ポール&マリーやサイモン&ガーファンクルのような、民謡のような素
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サラワク(2016年製作の映画)

3.4

第29回東京国際映画祭にて。

突如失踪した姉の行方を探して旅に出た少年サラワクの成長を描くロードムービー。

淡いグラデーションが美しい空と海、穏やかな波の音。風景の魅力は満点。

一人飛び出すサラ
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ブルカの中の口紅(2016年製作の映画)

3.3

第29回東京国際映画祭にて。

厳格な家庭に育ちながらも、歌手を夢見る女子大生。夫に隠れて始めた訪問販売の仕事で認められていく主婦。婚約者がいながら、仕事のパートナーである恋人と別れられないエステティ
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サーミの血(2016年製作の映画)

4.0

第29回東京国際映画祭にて。

1930年代のスウェーデン、劣等人種として差別されていたサーミ族の少女エレ・マリヤの物語。

どうすることもできない現状に苛立ち、外の世界への脱出を試みる少女の成長を描
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神様の思し召し(2015年製作の映画)

3.5

「週末の空いた時間にふらっと映画館に入って何となく観てみたら意外と面白かった」というような感じの出会い方が一番しっくりくるような肩のこらない軽いコメディを、「東京国際映画祭」という政府公認のビッグイベ>>続きを読む

護送車の中で/クラッシュ(2016年製作の映画)

4.3

第29回東京国際映画祭にて。

エジプトの一番長い日。

軍のクーデターによって、モルシ大統領をリーダーとするムスリム同胞団の政権が倒された2013年のエジプト。AP通信の記者二人が軍に拘束され、トラ
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7分間(2016年製作の映画)

4.0

第29回東京国際映画祭にて。

21世紀の『十二人の怒れる男』、いや、『十一人の怒れる女』か。しかし、『十二人~』は「少年は有罪か無罪か」という、とりあえず白か黒かはっきりとさせることができる問題を扱
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あなた、その川を渡らないで(2014年製作の映画)

3.1

98歳と89歳の老夫婦の穏やかな日常には、驚くべき真実は存在しないけども、愛すべき幸福な日々がある。掃き集めた落ち葉を掛け合ったり、雪合戦をしたり。暗いトイレを怖がるおばあちゃんのために、歌を歌うおじ>>続きを読む

スーサイド・スクワッド(2016年製作の映画)

3.7

「地獄の中でしか生きることができない者たちによる地獄巡り」という、いつものデヴィッド・エアー節だが、今までの映画が灰色の地獄絵図だったとすると、今作はヒット曲で飾り立てられたカラフルでポップな地獄絵図>>続きを読む

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)

4.5

アメリカ映画の王道を行く男に隙なし、迷いなし。

ニューヨークの高層ビルに突っ込む飛行機に身の毛がよだつ、サリーの悪夢。『フライト』とは別の禍々しさ。

『フライト』には、ゼメキスのアメリカに対する信
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俺物語!!(2015年製作の映画)

3.8

少女漫画映画の快作といえば、『ヒロイン失格』が記憶に新しいが、この『俺物語‼』も侮れない出来映え。

まず、それこそ『ヒロイン失格』の桐谷美玲に匹敵する、鈴木亮平のマンガ的演技の秀逸さ。ぶっとい眉毛と
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お父さんと伊藤さん(2015年製作の映画)

3.4

「リリー・フランキー演じる伊藤さんの神のごとき力を前にして、まわりの人物はただひれ伏すのみ」という映画。日本映画におけるリリー・フランキー万能主義、ここに極まれり。

リリーがもっともなことを言う。リ
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メカニック ワールドミッション(2016年製作の映画)

3.2

前作のストイックな一匹狼の殺し屋の物語は完全に捨て去られ、『ミッション・インポッシブル』やOO7シリーズのような派手な道具と殺し満載のスパイアクションに変貌を遂げていたわけだけども、ステイサムに、トム>>続きを読む

ケンとカズ(2015年製作の映画)

4.1

今の日本を舞台に、覚醒剤の密売を題材にした、リアリティ溢れるド直球のノワールを作り出す新人監督のパワーに驚かされる快作。

物語云々よりも、主役のカトウシンスケと毎熊克哉を始めとする役者たちの面構えが
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スプリング・フィーバー(2009年製作の映画)

3.8

愛は漂流する、水に浮かぶ蓮の花のように。

好きな人と一緒にいること。それはとても幸福なことであると同時に、途方もなく困難なことである。その出会いに運命を感じ、互いに惹かれ合ったとしても、初めの衝動だ
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愛しのグランマ(2015年製作の映画)

3.8

歯に衣着せぬ言動のレズビアンのおばあちゃんの大暴れが強烈かつ痛快だけど、この映画は「怒り」の映画ではない。むしろ「許し」の映画である。

誰もが「優しくありたい」と望みながらもうまくできずに、苛立ちや
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レッドタートル ある島の物語(2016年製作の映画)

3.8

劇伴はあるけども、台詞はない「まんが日本昔ばなし」。

『君の名は。』の超特大ヒットにより、記録的大敗を喫したスタジオジブリの新作なわけだけど、負けるのもしょうがないというか、あまりにも意味不明なので
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欲動(2014年製作の映画)

3.6

欲望に突き動かされた女が、初めて知った喜び。

病ゆえに、死の恐怖に脅かされる千紘(斎藤工)。看護士であるがゆえに、死にどこか慣れてしまったユリ(三津谷葉子)。「死に緊迫感を感じられない」ということは
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すれ違いのダイアリーズ(2014年製作の映画)

4.2

社会性と娯楽性を見事に両立させた、心温まる素晴らしい映画。

出会ったことのない男女が日記と水上の学校と子どもたちを通じてお互いを思うラブストーリーであり、教育現場から都会と地方の格差を切り取った社会
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キング・オブ・エジプト(2016年製作の映画)

3.7

ギンギラギンに輝く金ピカの神々がタイマンで殴り合う、雨宮慶太と車田正美が嬉し泣きしそうな超絶バトル・エンタテインメント。

『ダーク・シティ』『ノウイング』のアレックス・プロヤス監督だけあって、神々の
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ゲッタウェイ(1972年製作の映画)

4.0

同じ形の長方形の建物が並ぶ刑務所。動き続ける機織りの機械。同じタイミングで一斉に監房に入る受刑者たち。作った橋の模型を自ら壊すドク(スティーヴ・マックイーン)。刑務所が人間性を奪うことが、この冒頭の数>>続きを読む

後妻業の女(2016年製作の映画)

3.9

人間の生臭さをしたたかに笑い飛ばす犯罪喜劇の佳作。

まず、主役から脇役まで役者の演技が弾けていて、単純に楽しい。

胡散臭さたっぷりの結婚相談所の所長を脂ぎとぎとで演じるトヨエツと、取り憑かれたよう
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シン・ゴジラ(2016年製作の映画)

3.9

最も美しい理想を具現化した現代ニッポンの神話の誕生。

まさに「日本映画の王道」というべきヒューマニズムの精神、人間の良心への信頼を柱にした堂々たる大作である。

愛するものを、大切なものを守るために
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クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)

4.2

「世界は傾いでいるのが普通なのだ」と断言するかのような、濃密な黒沢清ワールドが展開される異形の快(怪)作。

冒頭の日光に満ち溢れた明るい取調室と、明らかに下駄箱としか思えない拳銃の保管庫からして、ど
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貞子vs伽椰子(2016年製作の映画)

4.2

「伽椰子の家に向かう有里(山本美月)たち四人が横並びで歩く姿がまるで『ワイルド・バンチ』のようだ」という話を耳にして、『ワイルド・バンチ』が大好きなわたしはとても楽しみにして観に行った。実際、絵面だけ>>続きを読む