えそじまさんの映画レビュー・感想・評価 - 6ページ目

テオレマ 4Kスキャン版(1968年製作の映画)

4.5

物質にとらわれた現代のブルジョア一家が青い眼の美しい訪問者と一人ずつセックスして家庭崩壊、母は若い男との肉体関係に囚われ、長男は抽象絵画に目覚め、長女は硬直症になり、父は全裸で発狂、メイドは神聖化され>>続きを読む

詩人の血(1930年製作の映画)

3.9

今にも崩壊寸前の塔が完全に崩壊するまでの一瞬を永遠に拡張したような詩的世界。これがノワイユ子爵夫妻から資金提供を受けた詩人コクトーの映像処女作となる。異界へ通じる鏡、空中浮遊、逆回転と『オルフェ』の技>>続きを読む

めまい(1958年製作の映画)

4.2

ヒロインの実体が最後まで存在しないまま、みんなの視線が強固に理念化された女性像の周囲を旋回しつづけて、実体もまたサンフランシスコを旋回する。ジェームズ・スチュワートは偽装されたイメージを追う、それを元>>続きを読む

女優ナナ(1926年製作の映画)

3.7

ナナの生き方は醜いが、こうやって根っから自由奔放な女性が過剰な貪欲さで生きることを余儀なくしてきたのが男の歴史ではなかったか。カンカン!

THE BATMAN-ザ・バットマンー(2022年製作の映画)

3.9

上と下の構造で真っ先に思い浮かんだのは黒澤明の『天国と地獄』だった。バットマンは降りる。善と悪、富裕と貧困、真実と嘘、自己犠牲と復讐、表と裏の境界にひろがる混沌にどっぷり浸かって、泥クサく這いずりまわ>>続きを読む

悪魔のやから(1976年製作の映画)

4.0

か、カオスだ…完全に狂ってる。『マルタ』の盗作問題をめぐる半自伝的な狂騒のなかにも一貫した強者と弱者、支配と隷属、サドとマゾの相互依存関係。目論見通り(?)あまりの狂いっぷりに笑うしかないのだけど、ど>>続きを読む

哀しみのトリスターナ(1970年製作の映画)

4.3

魅力的な所有物として縛りつけられてきたトリスターナの反逆。この作品のカトリーヌ・ドヌーヴの演技が一番好きだ。

貴族や中産階級の男が自分たちを差し置いて「貞淑」に執着するようになったのは、家父長制が定
>>続きを読む

山猫(1963年製作の映画)

4.8

目も眩むほどの絢爛を尽くしたシチリア貴族の灯滅せんと増すデカダンスな耀きに、〈時〉を甘受する老公爵の陶酔。かくして孤高の山猫は眠った。だがこのあまりにも壮麗な一大歴史絵巻から得られる感情は永遠に生きて>>続きを読む

ミークス・カットオフ(2010年製作の映画)

4.6

男の主体性、女の他者性といった人類史的な呪縛から解放された大地の映画。"女性的な役割"をこなすミシェル・ウィリアムズが、どこからともなく現れた先住民族という新たな他者の存在を契機にしてライフルを持つ。>>続きを読む

アシク・ケリブ(1988年製作の映画)

3.7

貧しい吟遊詩人の恋路、格差の障壁、勝利! とにかく音楽のコラージュがすばらしい。(東洋の弦楽器と「ツィゴイネルワイゼン」、「アヴェ・マリア」と異教的朗唱、イスラムの旋律にバレエ「ジゼル」)

亡き盟友
>>続きを読む

ウェンディ&ルーシー(2008年製作の映画)

4.3

顔立ちの整った白人女性のどん底ホームレス生活という状況自体、起こりうる現実かといえばそうでもない気がするが、それは俺の狭い価値観のなかで起こりえないだけで、実際起こりうるんだろう。これが幼い子供であれ>>続きを読む

スリ(掏摸)(1959年製作の映画)

4.7

※3回目の鑑賞を終えて、再投稿。

やっぱり脚本はドストエフスキーの『罪と罰』から強い影響を受けていると思う。「歪んだ社会への反発である犯罪は才能ある者の特権だ」と主張しながら、罪悪感と恐れに蝕まれて
>>続きを読む

勝手に逃げろ/人生(1980年製作の映画)

3.8

劇物語に回帰ゴダール。商業映画といってもゴダールはゴダール。脱都会志向の象徴である元テレビウーマン、都会の経済的自己責任に追いやられた被搾取の象徴である売春婦。愛されたい欲望と支配したい性欲に引き裂か>>続きを読む

オールド・ジョイ(2006年製作の映画)

4.0

軽い調子ではじまる旧友同士の小旅行。びっくりするぐらい何も起こらない。一方は根無し草の旅をつづけるモラトリアム的な男。かたや俗世に家庭を持ち、もうすぐ一児の親にもなる男。二人の視線は遠慮がちに交わらず>>続きを読む

ダイナマイトどんどん(1978年製作の映画)

3.9

これが民主主義の喧嘩かぁ。全員極道の任侠野球大会。田中邦衛のアル中無双が個人的にはピークだった。「焼酎じゃ、鬼殺しの焼酎じゃ」「おっちゃっけ♪」「殺せ殺せぶっ殺せ」応援団はパンパン。菅原文太、田中邦衛>>続きを読む

リバー・オブ・グラス(1994年製作の映画)

4.4

厭になっちゃうくらいカラッと晴れ渡ったマイアミの空の下にCOZY(居心地)と名付けられた女性主人公のやるせなさ。ニューシネマチックなロードムービーの様相を帯びながらも、そこには犯罪、旅、ロマンスといっ>>続きを読む

田園に死す(1974年製作の映画)

3.8

地獄の筆おろし映画。原体験って正確な記憶じゃなくって、誇張されたイメージなんだよな。サーカスへの異様な執着とか、純粋にグロテスクな性観念、メタ的な構成とか、確かに和製フェリーニだった。ホドロフスキーよ>>続きを読む

ダムネーション 天罰(1988年製作の映画)

4.2

ドストエフスキーの書いた貧困窟の世界をそのまま映像で読んでいるような感覚。絵に描いたような荒廃の街にさまよう、虚ろな人間たちと野犬の群れ。悪臭をかき消す激しい雨に、魂を蝕んでいく濃霧。

その辺の酔っ
>>続きを読む

トリュフォーの思春期(1976年製作の映画)

5.0

ここまでまっすぐに子供を捉えた映画ってほかにあるだろうか。大人が持つ理想を演じさせているような、よくある身勝手な不自由さをまったく感じない。宗教や文学の世界よりもはるかに神秘的で、冒険と生命力に満ちた>>続きを読む

フェイシズ(1968年製作の映画)

4.2

バカ騒ぎ、虚無、バカ騒ぎ、虚無、バカ騒ぎ、虚無、バカ騒ぎ、虚無──あらゆる感情表現というのがぜんぶ演じられているものだとして、顔は仮面で、じゃあそれらを突き動かしている核の部分はいったいどこにあるのか>>続きを読む

間奏曲(1957年製作の映画)

4.6

このレビューはネタバレを含みます

異国ドイツを舞台に、波乱の予感がプンプンするアナーキーな天才指揮者と安泰な医師との狭間で揺れるアメリカ人女性。メロドラマの鉄板というか、当然(?)指揮者は既婚者である。おそろしいのは、その妻が精神を病>>続きを読む

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)

4.5

イーストウッド自身がそのフィルモグラフィを通してゆっくりと歩んできたような、思想の変化の終着点がここにあるのかもしれない。悪人に有無を言わさぬ度を越えた正義の暴力、いかにもアメリカ的な力強いヒーロー像>>続きを読む

国境の町(1933年製作の映画)

4.8

帝政ロシアから第一次大戦、革命と激動の時代に翻弄される労働者を描いた、戦争=大量生産の図式。郊外の町に暮らす無垢な青年たちは、"偉大さ"が帝国主義の思想にのみ基づく場合の捏造された美徳「大義」のために>>続きを読む

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(2021年製作の映画)

4.3

このレビューはネタバレを含みます

絶対に実現できないであろうとかつて誰もが思っていたがゆえにもはや誰も望んですらいなかったものへの可能性を示し、失望のリスクを捨ててまで抱えてしまった期待通りの形でそれを実現してくれた。久々に素直に童心>>続きを読む

小早川家の秋(1961年製作の映画)

5.0

後期の小津に共通した特権ともいえる、不自然な映像の戯れと物語の連繫がここにも完成されていた。どんな意味が込められているのか、そもそも意味があるのかどうかすら分からないが、その映像と物語の戯れあいが、蓮>>続きを読む

青いガーディニア/ブルー・ガーディニア(1953年製作の映画)

3.7

ひび割れた鏡という印象と、水の流れを思わせる編集上の技法を巧みにすり替えながら、主人公の潜在意識的な不安を同時に進行させていくあざやかな手腕。なんとなくヒッチコック感がある。

道化師の夜(1953年製作の映画)

3.9

当時のハリエット・アンデルセンに対するベルイマン自身の悪魔のような嫉妬心、それによる関係の悪化の末、ひとり激しい人間嫌いを爆発させて書いた脚本だという。後の『第七の封印』のラストにつながる望遠がいくつ>>続きを読む

吶喊(とっかん)(1975年製作の映画)

3.8

学生運動も終息した時期につくられた岡本喜八の戊辰戦争。一貫して描かれる戦争の愚劣さ、変革の時代にもがく若者の活力、その行動原理が基本的に「セックス!金!オモロいこと!」である面白さ。やっぱりリズムがい>>続きを読む

ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結(2021年製作の映画)

3.6

まさに自殺部隊って感じで良かった。開き直ったようなポップ&グロテスクでMCUとの差別化も達成されている気がする。しかも妙に芸術的だ。ジェームズ・ガンはどこにいてもしっかり異質な個性を発揮していて凄いな>>続きを読む

激怒(1936年製作の映画)

4.7

Twitterじゃん。さぞ気持ちいいんだろうなあ、正義は。

ザ・ファブル 殺さない殺し屋(2021年製作の映画)

3.5

原作から切り離して観ることを前作で学んだ結果、思いのほか楽しめた。ハリウッド顔負けの近接アクションは本当に凄い。不殺の念押し直後に絶対生き残れない高さからバンバン人落としてるのはちょっと笑ってしまった>>続きを読む

ベニスに死す(1971年製作の映画)

4.0

老いた芸術家としての誇りが、少年の持つ自然体な美によって一瞬で敗北する残酷と陶酔のよろこび。死の迫るベニスの曇天に少年の神々しい透明感を求め視線をすべらせていくうち、いつのまにか時間を忘れて、アッシェ>>続きを読む

偶然と想像(2021年製作の映画)

4.8

妙に機械的で独特なリズムをもった言葉と言葉の連鎖のなかで、なんだかしょうもないものをみせられているような、高尚なものをみているような、はてどっちだろうこれはと聴きながら眺めているうちに、気づくと会話の>>続きを読む

陽気な中尉さん(1931年製作の映画)

4.0

小国の王女とヴァイオリニストと陽気な中尉さんの不思議な三角関係を描いたミュージカルコメディ。話の進み方も演出も軽やかで、分かりやすく素晴らしい。歌声も素敵な。反戦を違和感なくしっかり盛り込んでくるあた>>続きを読む

女と男のいる舗道(1962年製作の映画)

4.5

画家が愛する妻の肖像を描くように、絵の魔力がまったく生けるがごとく描かれた表情にあるように、まさに狂ったように、「我がアンナ・カリーナ」に近づくカメラへ感情を捧げるゴダール