佐藤克巳さんの映画レビュー・感想・評価 - 6ページ目

佐藤克巳

佐藤克巳

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朱と緑 緑の巻(1937年製作の映画)

4.5

前篇朱の巻は謎多きメロドラマで、しがない大阪の会社員上原謙が、東京の紡績会社重役奈良真養の娘高杉早苗と、大阪の仲人業岡村文子の娘高峰三枝子との三角関係で、大阪に家出した高杉と駈落ち状態に、割って入る奈>>続きを読む

浅草の灯(1937年製作の映画)

5.0

1937年、この年日華事変が起こった。時代空気が一変。そんな年に、松竹オールスターによる島津保次郎監督の革命的娯楽映画の決定版が誕生した。しかし、無残にも、戦後GHQが本篇をズタズタに切り裂いた。主役>>続きを読む

女人哀愁(1937年製作の映画)

5.0

山中貞雄と共に中国戦線に出征した小津安二郎「淑女は何を忘れたか」と同年に、成瀬巳喜男監督は本作で、小津のユーモアの籠った哀愁ある作風とは別方向の、哀感溢れる現実直視で人間を捉える作風を確立したのではな>>続きを読む

崇禅寺馬場(1928年製作の映画)

3.5

ノースター剣戟路線で旋風を巻き起こしたマキノ正博監督の秀作とされているが、松浦築枝の快刀乱麻を断つ活躍だけしか不明。しかし、松浦の追手からのただ一人の防戦で死力を尽くす長い立ち回りシーンは流石のものが>>続きを読む

田園交響楽(1938年製作の映画)

4.0

アンドレ・ジッドの同名小説の翻訳の域を出ないが、デヴュー間もない山本薩夫監督の力量が窺える佳作。北海道の牧師高田稔が、盲目の身寄りのない少女原節子を人道的に保護し、クリスチャンの教育を施す。利発な原は>>続きを読む

彦六大いに笑ふ(1936年製作の映画)

5.0

プロレタリア劇作家三好十郎原作、脚本の重厚な人間模様が感動を呼ぶ木村荘十二監督が心血を注いだ力作。浅草の一廓に地上げ屋小杉義男がカフェ店主小島洋々を引き連れ、最後まで抵抗するビリヤード店主彦六徳川夢声>>続きを読む

エノケンの孫悟空 後編(1940年製作の映画)

5.0

「オズの魔法使い」を土台にディズニー入りのSFファンタジー映画の傑作に豹変した。三蔵法師一行は、砂漠、オアシスを抜けヒマラヤ山脈に差し掛かり、案内役の百科事典を抱えた小さな妖精中村メイコを先頭に、森の>>続きを読む

エノケンの孫悟空 前編(1940年製作の映画)

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娯楽映画に特殊技術撮影が導入された初の試みとして成功した山本嘉次郎監督、特技スタッフ円谷英二の功績には敬意を表さねばなるまい。観世音菩薩花井蘭子に導かれ、三蔵法師柳田貞一の護衛を授かる3人は、孫悟空榎>>続きを読む

サーカス五人組(1935年製作の映画)

4.0

古川緑波原作、ジンタとはおそらく仁丹のデザインからの連想の様だが、ドサ芸人の悲境が侘しい成瀬巳喜男監督の佳作。サーカス男団員のストライキで、団長丸山定夫一人と娘堤真佐子、梅園龍子他女団員だけになり、マ>>続きを読む

朝の並木路(1936年製作の映画)

5.0

小津調の完成品「一人息子」と同年、成瀬巳喜男監督は本作によって成瀬調と呼ぶべき完成品に仕上げた女の劇場の傑作。女学校出の22歳田舎娘千葉早智子が上京し、同郷のカフェ女給赤木蘭子の部屋に同居、懸命に職探>>続きを読む

君と行く路(1936年製作の映画)

4.5

私の祖父母の青春映画であり、成瀬巳喜男監督「乙女ごころ三人姉妹」以降の作品に、東宝青春路線の元祖的傾向を発見した気持ち。遺産分けで鎌倉別荘に住む妾母清川玉枝、長男大川平八郎、次男佐伯秀男に、隣の成金別>>続きを読む

女優と詩人(1935年製作の映画)

5.0

「腰弁頑張れ」のスラップスティックコメディの傑作で評価された成瀬巳喜男監督が、再び放った喜劇は、女優妻千葉早智子と売れない詩人夫宇留木浩主演のスクリューボールコメディの怪作だった。妻の稼ぎに依存で頭が>>続きを読む

兄いもうと(1936年製作の映画)

4.5

ミュージカル喜劇の傑作「ほろよい人生」で異彩を放った木村荘十二監督が、地元で石材職人の兄丸山定夫と東京から帰郷して死産する憂き目にあった妹竹久千恵子の相剋の喧嘩を描きながら、真に潜む兄妹愛を浮き彫りに>>続きを読む

虹立つ丘(1938年製作の映画)

2.9

松竹の名子役から東宝に引き抜かれて同年の「綴方教室」で少女スターになった高峰秀子が明るく快活なホテルの売り子を演じて爽やかな佳作。デコちゃんの命名者の兄岸井明との二人暮らしが、部屋の机の片隅に置いてあ>>続きを読む

東京の宿(1935年製作の映画)

5.0

日本サイレント映画挽歌的な小津安二郎監督の喜八物シリーズ最終作で、「男はつらいよ」なんぞとは全く事にした結末となった人情喜劇映画の傑作。床を踏み抜くとどん底に堕ちる厳しい現実。妻に逃げられた喜八坂本武>>続きを読む

母を恋はずや(1934年製作の映画)

4.5

第1巻と第9巻が欠落しているので前後を推測するしかないが、父岩田祐吉に前妻があり長男大日向傳と後妻吉川満子に次男三井秀男の異母兄弟は、事実を知らずに仲の良い学童時代を過ごす。父とのピクニックを楽しみに>>続きを読む

桃中軒雲右衛門(1936年製作の映画)

4.0

女を描いて定評のある成瀬巳喜男監督が、何故に芸道物に走ったか興味が尽きない。芸に生きる人間に普通の人格者たれを徹底的に拒絶し、共に苦労し九州からのし上がった愛妻細川ちか子にも芸人としての最期を求め、そ>>続きを読む

十字路(1928年製作の映画)

5.0

衣笠貞之助監督が、試行錯誤しながらのドイツ表現主義映画を標榜した新感覚実験映画第2段で、姉千早晶子と弟阪東寿之助の兄弟愛と過酷な運命が十字路を交差する様に切々と響く時代劇映画の金字塔。弟が、狂乱の盛り>>続きを読む

赤西蠣太(1936年製作の映画)

5.0

猫の日に観るに相応しい伊丹万作監督の軽妙洒脱な時代劇の傑作。猫は、伊達家に潜入した間者赤西蠣太片岡千恵蔵が天井裏に隠した大事な書付を鼠から守る守護神。志賀直哉原作の伊達騒動をベースにした機知に富んだ作>>続きを読む

斬人斬馬剣(1929年製作の映画)

3.5

26分再編集版の伊藤大輔監督の傾向映画色が強く押し出された馬上アクションと歌舞伎の荒事が堪能出来る一品。月形龍之介の刺客浪人を掻き集める下りは「七人の侍」の志村喬そっくり。

限りなき舗道(1934年製作の映画)

4.0

この作品を最後に松竹蒲田を去る成瀬巳喜男監督の心情を吐露した様な内容の、煌びやかな銀座を舞台にした女の自立を描いた力作。デヴュー作で主演忍節子の喫茶店女給が、交通事故によって人生の岐路に立たされ上流名>>続きを読む

君と別れて(1933年製作の映画)

5.0

城戸四郎が「二人の小津は要らない」と言わしめた成瀬巳喜男監督の、日本サイレント映画最高峰の青春ラブロマンス。芸者母吉川満子は、不良の仲間入りした中学生息子磯野秋雄を改心させたい一心で、日頃磯野と仲の良>>続きを読む

突貫小僧(1929年製作の映画)

4.0

チャップリン、キートン級のドライでシャープな小津安二郎監督のドタバタ短篇喜劇の傑作。人さらい日和と悪漢斎藤達雄が、街路で遊ぶ突貫小僧の気を引く為、百面相ごっこが愉快過ぎる。そう言えば「生まれてはみたけ>>続きを読む

情熱の詩人琢木 ふるさと篇(1936年製作の映画)

3.0

石川啄木の生涯を知ればある程度憶測がつくが、故郷で代用教員になり生徒達の人気者だった今日で云う所の熱血先生が、校長等と対立し学校から追放される青春映画として当時評価が高い熊谷久虎監督作品なのだが、音声>>続きを読む

東京の女(1933年製作の映画)

5.0

小津安二郎監督の小品乍ら、ローアングル、対面の特徴的クローズアップ等、小津作品らしい画面のポジションが確立された記念碑的傑作。学生生活を満喫する弟江川宇礼雄をタイピストと翻訳のアルバイトで二人っきりの>>続きを読む

瀧の白糸(1933年製作の映画)

5.0

女優初のプロダクションを設立し頂点に達していた入江たか子の入江の為の映画造りになっているが、スランプ気味だった溝口健二監督を得意の鏡花的世界で甦らせたサイレント映画の傑作。学生の頃文芸座で初見時、フィ>>続きを読む

浮草物語(1934年製作の映画)

5.0

クリアな画質で再見して認識が激変。坂本武の喜八物と言っても前作「出来ごころ」と全く風情の違う、河原乞食ドサ回一座の集団劇と、坂本の愛人飯田蝶子、その子三井秀男との人情劇が見事融合した小津安二郎監督のサ>>続きを読む

家族会議(1936年製作の映画)

4.6

画質の乱れ、斎藤達雄、坂本武、飯田蝶子等有力な出演者が登場しない所をみると完全版では無い様だ。それでも島津保次郎監督の力量が窺える力作である。東京の株屋佐分利信と大阪の資産家娘及川道子は相思相愛だが、>>続きを読む

有りがたうさん(1936年製作の映画)

5.0

モノクロも素晴らしいがカラー調整版だと更に魅力アップした、清水宏監督の全篇オールロケ青春ロードムービーのヌーベルヴァーグ的作品で、おそらく1930年代現代劇の頂点に位置する傑作だと思う。道の狭い天城街>>続きを読む

雪之丞変化 第一篇(1935年製作の映画)

5.0

残念だけど今回もカラー調整版総集篇でしか観れ無いようだ。松竹時代の林長二郎育ての親衣笠貞之助監督が、歌舞伎女形出身林の特性をフルに活かした、長崎の仇は江戸で打つ式の復讐劇三部作の傑作としての評価は不変>>続きを読む

女医絹代先生(1937年製作の映画)

3.0

開業医田中絹代と勤務医佐分利信の親の仇同士で同級生が織りなす野村浩将監督の無難な青春喜劇。仲を取り持つ東山光子が好演。

新道 後篇良太の巻(1936年製作の映画)

5.0

田中絹代と最も息の合う五所平之助監督とのコンビ作でも松竹時代最高作となった、菊池寛原作の長編通俗映画の傑作。信州で療養中の母吉川満子を見舞いに行く途次、田中と妹高峰秀子は、グライダー飛行家佐野周二と出>>続きを読む

祇園の姉妹(1936年製作の映画)

5.0

溝口健二監督の余りにも有名なワンシーン・ワンカットの名作と評価される傑作に間違いは無いが、90分超の作品が一部フィルムが現存せず70分弱である事を考慮しなければならない。新藤兼人著「シナリオ人生」だっ>>続きを読む

乙女ごころ三人姉妹(1935年製作の映画)

5.0

浅草歓楽街が変貌しつつあった。映画街の形成、レコードの普及、キャバレーでのダンスの隆盛。そんな中、時代遅れの三味線を弾いて唄いながら飲み屋を廻る門付堤真佐子と、母林千歳から許されダンサーとなった妹梅園>>続きを読む

鏡山競艶録(1938年製作の映画)

3.5

新興京都作品と云えば現在の東映京都なので或いは大奥物の元祖かもしれないが、阪妻を売り出した寿々喜多呂九平監督の、島原大夫中村芳子の艶やかな立ち振舞いを堪能した。姫殺害を企み悪巧みをする大奥の局鈴木澄子>>続きを読む

出来ごころ(1933年製作の映画)

4.5

小津安二郎監督の戦後復帰作「長屋紳士録」の世界であり、山田洋次に引き継がれた坂本武主演の喜八物シリーズの第1作。冒頭の寄席浪花節でのやり取りからして、下町人情を秀逸に描いた傑作なのだが、小津映画の醍醐>>続きを読む