佐藤克巳さんの映画レビュー・感想・評価 - 7ページ目

佐藤克巳

佐藤克巳

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何が彼女をそうさせたか(1930年製作の映画)

5.0

すみ子高津慶子の薄幸の美少女が妙に芦川いづみと被さりながら、傾向映画の名作鈴木重吉監督作品、オーケストラ・サウンド復元版を初めて拝見した。電車に跳ねられ(欠落)、叔父をを頼るが酒飲みの子沢山で、曲馬団>>続きを読む

黄金の弾丸(1927年製作の映画)

3.5

東亜キネマ印南弘監督デヴュー作で、鉱山王射殺事件に使用された黄金の弾丸を巡る、変装の名人怪盗愛の賊と探偵局長猪俣の、手に汗握るクラシックカーの神戸を舞台にしたカーチェイスが素晴らしい推理映画の野心作。>>続きを読む

非常線の女(1933年製作の映画)

5.0

小津安二郎監督のダンディズムな作品系列で、「朗らかに歩め」に連なる与太者が、聖女に翻弄された様に回心して行くストーリーだが、何故か親友清水宏の同年「港の日本娘」と同様毛糸の玉が鍵になっている気がする。>>続きを読む

夜ごとの夢(1933年製作の映画)

4.5

字幕が読みづらい難点はあっても、成瀬巳喜男監督の後年には観られないトラッキング撮影等技巧を凝らした映像で圧倒された。佃島渡船場付近が舞台なのかと思われるが、盛り場の女給栗島すみ子が佃島の安アパートに久>>続きを読む

故郷(1937年製作の映画)

3.5

やはり伊丹万作は脚本家だな。信州の田舎酒屋での噺。兄坂東簑助は、田圃や畠を売って妹夏川静江を東京の高等教育を受けさせたが妹は、理屈ばかり捏ねて働く事をしない。意見の対立で家を出た妹が、1年後再び故郷に>>続きを読む

人妻椿 後篇(1936年製作の映画)

2.0

余りに川崎弘子の悲劇と、佐分利信のお目出度振りにメロドラマを超えてホラー映画である。芸者の女将岡村文子と悪党河村黎吉の恐ろしさは絶品で「飾り窓の女」を彷彿とさせる程だった。唯一の救いは、和尚上山草人の>>続きを読む

人妻椿 前篇(1936年製作の映画)

2.5

メロドラマと言えば心中物だったが、この作品では人妻子連れとなり、後年の同じく野村浩将監督のビッグヒット作「愛染かつら」への結節点となった松竹の記念碑。とりわけ、笠智衆の悪役は希少価値かな。

港の日本娘(1933年製作の映画)

5.0

「泣き濡れた春の女よ」お浜岡田嘉子の前段とも思われる?砂子及川道子の横浜の清純可憐な女学生の転落物語を、清水宏監督が邦画離れしたフレッシュな映像感覚で描かれたサイレントの青春映画の傑作。親友ドラ井上雪>>続きを読む

泣き濡れた春の女よ(1933年製作の映画)

4.5

「大学の若旦那」とは対象的な清水宏監督トーキー第1作で、雪深い北海道の炭坑と酒場を舞台にした和製ウエスタン風活劇。大日向傳の男っぷりの良さに惚れた年増のマダム岡田嘉子と、うら若い女給千早晶子の女の情念>>続きを読む

金環蝕(1934年製作の映画)

4.0

藤井貢の決断力の無さに腹が立って仕方がなかったが、正直、男は案外こんなもん。注目は何と言っても、田中絹代のライバル川崎弘子と、この作品がデヴュー作の桑野通子の美の饗宴。女学校での村一番のお嬢さんから、>>続きを読む

人情紙風船(1937年製作の映画)

5.0

天才山中貞雄監督の遺作となった日本最高峰の時代劇映画であろう。河竹黙阿弥原作をかなり改変した三村伸太郎脚本により、家主助高屋助蔵の江戸の溜まり場下町長屋住人の強かな生き様と、主人公髪結新三中村翫右衛門>>続きを読む

奥様に知らすべからず(1937年製作の映画)

4.0

助監督に就いた小津安二郎「淑女は何を忘れたか」の続篇と考えたい、渋谷実監督のデヴュー作で斎藤達雄、坂本武が恐妻家の悲喜劇を描いた佳作。お互いの妻岡村文子、吉川満子が化粧品店で口論となり、坂本が侮辱した>>続きを読む

東京の女性(1939年製作の映画)

4.0

原節子主演、丹羽文雄原作、伏水修監督の荒削りだが骨太の戦前キャリアウーマンの物語で、鈴木英夫監督、司葉子主演「その場所に女ありて」の様な衝撃的な秀作。父は失業の上交通事故で重症、自動車会社でタイピスト>>続きを読む

大学は出たけれど(1929年製作の映画)

3.5

11分でも貴重な小津安二郎監督作品。大恐慌下、高田稔がただ一つの就職口受付業務を大学生のプライドから断る。下宿へ帰ると郷里から就職を祝して母と田中絹代が来ていた。誤魔化しは効かず田中にサンデー毎日を指>>続きを読む

与太者と小町娘(1935年製作の映画)

4.5

野村浩将監督のヒットシリーズで、「令嬢と与太者」から11作全て演出の1本だが、サウンド版サイレント映画のドタバタアクション喜劇の傑作だった。磯野秋雄、三井秀男、阿部正三郎の3人組が、山の木樵組のお荷物>>続きを読む

(1929年製作の映画)

3.0

内田吐夢監督の初サイレント映画体験。笑えない喜劇で、階級対立を描く傾向映画の一種と見る。主演島耕二の絶叫字幕とオーバーアクション、それに滝花久子の献身的ヒロインが花を添える。

河内山宗俊(1936年製作の映画)

5.0

音声良好、カラー調整の改訂版で今回拝見したが、学生の頃文芸座で観た時以来の認識に劇的変化。甘酒の露店売りでデヴューした原節子の初々しさと、河内山宗俊河原崎長一郎とヤクザ用心棒中村翫右衛門の路地裏での壮>>続きを読む

浪華悲歌(1936年製作の映画)

5.0

戦前の貴重な溝口健二監督作品の中でも最もインパクトがある山田五十鈴主演の傑作。ワンシーンワンショットやロングショットの溝口独特のテクニックと、陰影深い大阪の情感が見事で、浄瑠璃をキーワードにした構成も>>続きを読む

婦系図(おんなけいず)(1934年製作の映画)

3.5

泉鏡花原作の新派劇定番の初映画化で、蒲田撮影所長、筆頭監督として松竹映画に君臨した野村芳亭監督の力作。早瀬主税を岡譲二、お蔦を田中絹代が好演し、気を衒わず正攻法で貫かれたお蔦の非業の死に力点を置いた演>>続きを読む

森の鍛冶屋(1929年製作の映画)

3.5

田中絹代と破局した頃の清水宏監督作品で18分の短縮版ではあらすじを知った程度であるが、ロケーション等に瑞々しい清水らしい感覚が窺えた。また「狂った一頁」にも出演の父井上正夫の演技に凄みがあった。

丹下左膳餘話 百萬兩の壺(1935年製作の映画)

5.0

天分の才を惜しまれて28歳で戦死した、黒澤明と一つしか違わない山中貞雄監督の、残存する3本の作品中唯一の小津風時代劇。大河内傳次郎の当たり役ニヒルなアウトローヒーロー丹下左膳を、射手場の女将喜代三の居>>続きを読む

エノケンの近藤勇(1935年製作の映画)

4.0

大藤信郎の闇夜の月のアニメーションやボレロの池田屋騒動のエンディング等の八方破の近藤勇榎本健一は秀逸だが、二役坂本龍馬は余計で、龍馬暗殺は時代が合致していない。エノケンのリズム感は流石で、カエル跳びの>>続きを読む

和製喧嘩友達(1929年製作の映画)

3.5

たった残存14分でも、小津安二郎監督の才気みなぎる至福の時間だった。バスター・キートンの喜劇を観る様な、鮮やかでスピード感たっぷりの人情喜劇。渡辺篤と吉谷久雄の運ちゃんコンビが、路上で拾った娘浪花友子>>続きを読む

浪子(1932年製作の映画)

2.0

田中純一郎著「日本映画発達史」で知る、溝口健二の師匠で名高い田中栄三監督作品だが、1920年代革新的作品を演出、脚本した面影は無く、水谷八重子主演の新派劇そのままの古さは拭えない。

お小夜恋姿(1934年製作の映画)

3.5

温泉街旅館の看板娘田中絹代が、画家山内光とモデル坪内美子との三角関係になり坪内が川に身投げして山内は去って行く。というストーリーは売れない作家斎藤達雄の駄目小説だった。一転、現実の田中がタクシー運転手>>続きを読む

坊っちゃん(1935年製作の映画)

3.5

山本嘉次郎監督が、著名な夏目漱石原作で知友宇留姫木浩を主役の坊ちゃんに抜擢し、スターの地位に押し上げた蛮カラ青春映画の佳作。うらなり藤原釜足が九州左遷された不正に腹に据えかねた宇留木が山嵐丸山定夫とタ>>続きを読む

大学の若旦那(1933年製作の映画)

5.0

サウンド版サイレント映画屈指の名作であると共に、東宝「若大将」シリーズの原点として高く評価されるべき清水宏監督の青春映画決定版。慶大ラグビー部出身日本代表でもあった主人公藤井貢が、醤油問屋の若旦那で文>>続きを読む

音楽喜劇 ほろよひ人生(1933年製作の映画)

5.0

この作品の2年前チャップリン「街の灯」に近似した雰囲気を持つ木村荘十二監督のPCLトーキー第1号作品。プラットフォームでアイスクリーム売り藤原釜足が、同じくエビスビールの売り子千葉早智子に恋をし、彼女>>続きを読む

噂の娘(1935年製作の映画)

5.0

成瀬巳喜男監督の「妻よ薔薇のやうに」と対を成す、亡くなった母、婿入り養子の父御橋公、酒店を切り盛りする姉千葉早智子、水商売妾伊藤智子、その娘で同居するモガ妹梅園龍子、放蕩の祖父汐見洋、姉の資産家息子大>>続きを読む

母の戀文(1935年製作の映画)

3.5

1960年代後半のCX「お嫁さん」シリーズを彷彿とさせるホームコメディの先駆的作品として貴重な野村浩将監督の佳作。出来過ぎた嫁坪内美子と柔道四段で模範的サラリーマン亭主小林十九二の熱々夫婦振りと、坪内>>続きを読む

春琴抄 お琴と佐助(1935年製作の映画)

5.0

道修町薬種店の盲目のこいさん田中絹代と、一切の世話を請け負って丁稚奉公する高田浩吉の、音の世界に埋没して一生を貫く谷崎潤一郎の耽美的小説を見事映像化した島津保次郎監督の傑作。明治初期の上方情緒溢れた豪>>続きを読む

人生のお荷物(1935年製作の映画)

5.0

五所平之助監督の男親の本音を吐露した蒲田調ホームドラマの異色作で、直接的には父斎藤達雄と母吉川満子の晩年に生まれた長男葉山正雄をお荷物としているが、現代においては子供を出産、養育する事自体がリスクとす>>続きを読む

婚約三羽烏(1937年製作の映画)

4.0

巨匠島津保次郎監督の遊び心で企画されたのか、松竹初代三羽烏が共演したロマンティックコメディの佳作。社長令嬢高峰三枝子のアイデアでマネキンボーイに採用された、三宅邦子と同棲の仲佐野周二と、見合い話が進行>>続きを読む

花嫁日記(1934年製作の映画)

2.5

初期トーキー映画の渡辺邦男監督作品だからおそらく早撮りで製作された楽天的喜劇なのだが、余りに内容が散漫過ぎる。

戦国群盗伝 前篇 虎狼(1937年製作の映画)

5.0

鳴滝組のペンネーム梶原金八脚本、滝沢英輔監督の元祖時代劇アクション映画の傑作。残念ながら総集篇カラー着色で拝見したが、醍醐味はジョン・フォード顔負けの西部劇の域に達した野心作に相違なかった。山中貞雄の>>続きを読む

男の償ひ 後篇(1937年製作の映画)

3.0

旅館経営する田中絹代の家族に不幸が相次ぎ今更と現れた佐分利信との別離後、またしても夫夏川大二郎と長男を失い、田中は発狂してしまう。この惨状に至り佐分利は、男の償いとは?手遅れでしょ。人間って多かれ少な>>続きを読む