佐藤克巳さんの映画レビュー・感想・評価 - 8ページ目

佐藤克巳

佐藤克巳

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男の償ひ 前篇(1937年製作の映画)

3.5

「愛染かつら」で野村浩将監督の名声を挙げた前年作らしい、吉屋信子原作の家族制度の悲劇を扱ったメロドラマ。親類で幼馴染の桑野通子の見合いの当て擦りに、田中絹代からのプロポーズで進んだ縁談を打算的に受けた>>続きを読む

エノケンの青春酔虎伝(1934年製作の映画)

4.0

榎本健一が山本嘉次郎監督とのコンビで、東宝ドル箱ミュージカル喜劇エノケンシリーズの記念すべき第1作となった秀作。デヴュー前から浅草で二人座長だった二村定一と歌い踊りの学友が、エノケンが千葉早智子との新>>続きを読む

子宝騒動(1935年製作の映画)

4.0

和製チャップリン小倉繁が本領発揮したドタバタを通り越してシュールな爽快感が味わえる斎藤寅次郎監督の秀作喜劇。貧乏過ぎても平然とした亭主が、子沢山に更に妻の出産で金策に追われるが、次々ドジを踏む。最後は>>続きを読む

石川五右ヱ門の法事(1930年製作の映画)

3.5

このレビューはネタバレを含みます

貴重な斎藤寅次郎監督の渡辺篤を中心としたドタバタ喜劇の佳作。当時の芸人の反射神経の鋭さ、パントマイムの鮮やかさで、動きだけで十分笑えるテンポの良さに感服した。

長恨(1926年製作の映画)

4.0

伊藤大輔監督の才気溢れる十数分間の醍醐味満喫。大河内傳次郎の「忠次旅日記」で未消化だった決死の立回りが堪能出来、俯瞰や移動撮影を凝らしたモンタージュの迫力は「雄呂血」をも超えている。

忠次旅日記 御用篇(1927年製作の映画)

4.5

娯楽映画の画期となった記念碑的傑作。六方を踏む歌舞伎の手法をふんだんに盛り込み、迫力ある形相のアップとフラッシュバックが際立つ劇画を読む様な鮮やかな演出が見事な伊藤大輔監督の快心作。三部作の三部で欠落>>続きを読む

花ちりぬ(1938年製作の映画)

5.0

助監督に市川崑の名があり、後年「日本橋」が良く似た作風の傑作だったなぁと得心が行った。その師匠格の石田民三監督の、蛤御門の変に於ける祇園茶屋の廓の女のみで舞台構成された森本薫原作の花街物映画の傑作中の>>続きを読む

ラヂオの女王(1935年製作の映画)

4.0

フィルムの状態が良くなく矢倉茂雄監督初見だが、当時のP.C.L撮影所やラジオ局、複葉機の飛行場等の情景が興味深く、玉手箱をひっくり返した様な愉快なロマンティックコメディの佳作。ラヂオの女王千葉早智子の>>続きを読む

東京の英雄(1935年製作の映画)

3.5

1935年に至ってもサウンド版が隆盛だったが、おそらく活動弁士、楽隊の失業者対策だったか?音楽に乗って映像はスムースだが、台詞はサイレントのギクシャク感は如何ともし難い。だが本作の場合には、倫理観の違>>続きを読む

花籠の歌(1937年製作の映画)

3.5

父河村黎吉が経営するトンカツ屋は、看板娘田中絹代と華僑系李さん徳大寺伸の腕で大繁盛していたが、田中が学生佐野周二と結婚して跡取りになると、失恋した徳大寺が去り店が下火となった銀座物語だが、五所平之助監>>続きを読む

私の兄さん(1934年製作の映画)

4.0

優等生兄河村黎吉を金子信雄、不良の二枚目弟林長二郎を小林旭に置き換えて、見合いを嫌って逃亡したヒロイン田中絹代を浅丘ルリ子にとくりゃあ、日活青春映画だよね。つまり、大親分島津保次郎監督の遊び心は、現代>>続きを読む

朧夜の女(1936年製作の映画)

5.0

五所平之助監督松竹最盛期の、明治の名残りを持つ下町風情が染み入る人情悲劇の傑作。町衆からも信頼された紺屋主人坂本武が、未亡人で牛鍋屋女中で働く妹飯田蝶子の息子徳大寺伸がバーの女給飯塚敏子との不始末を被>>続きを読む

花嫁の寝言(1933年製作の映画)

4.0

軽妙洒脱な五所平之助監督の秀作喜劇。姉妹篇の破壊力には及ばないが、江川宇礼雄他三人組が、一人抜け駆けして就職し女房田中絹代と新婚の小林十九二の家に、花嫁の寝言を聞く為押し掛け騒動となるが、一人別行動の>>続きを読む

花婿の寝言(1935年製作の映画)

4.5

この当時アメリカと同時進行で始まったスクリューボールコメディの日本代表五所平之助監督の秀作。タイトルに五所亭、監督名ごしょから笑わせる。当代美男美女林長二郎と川崎弘子が夫婦で仲睦まじ過ぎる関係に、同僚>>続きを読む

一人息子(1936年製作の映画)

5.0

真打小津安二郎監督の初のトーキー映画は、ペーソス溢れるリアリズムの粋をいく傑作。息子日守新一は上京して24歳、既に妻坪内美子と赤ん坊を抱える夜間教師で、双六では上がりに近いと、母飯田蝶子を落胆させる。>>続きを読む

妻よ薔薇のやうに(1935年製作の映画)

5.0

旧来の定番「父帰る」をイメージする母の兄藤原釜足からしたら、父丸山定夫の行動は許せない理不尽な行為だろうが、母伊藤智子は薄々気づいていた筈で、夫婦間の性格の不一致は決定的。美しく利発に育った娘千葉早智>>続きを読む

虞美人草(1941年製作の映画)

4.0

20世紀初頭の電気の時代を象徴する上野の東京勧業博覧会を見事再現した中川信夫監督の価値ある秀作。日露戦争で世界に度肝を抜いた日本の光と影を、会場の電燈と恩師荒屋のランプに感じた。また、夏目漱石の原作を>>続きを読む

隣の八重ちゃん(1934年製作の映画)

5.0

城戸四郎、島津保次郎監督の築き上げた松竹蒲田調映画の最高峰だろう。日常何気ないエピソードを切り取り、淡々とした風情を醸し出す小市民の平和な日々。東京近郊のサラリーマン家庭の女学生八重ちゃん逢初夢子、そ>>続きを読む

男性対女性(1936年製作の映画)

4.0

興行主の娘田中絹代と生糸貿易商の長男で考古学者佐分利信との冷めた恋愛劇には閉口するが、巴里帰りの同じく次男で舞台演出家上原謙と劇場照明係桑野通子が、レヴューを通じて親密を深めるバックステージ物としては>>続きを読む

恋の花咲く 伊豆の踊子(1933年製作の映画)

5.0

「マダムと女房」でトーキー映画の先陣を切った五所平之助監督が、再びサイレンに回帰し誰もが知る文芸作品に挑戦した傑作。伏見晃が内容を大幅に増補して出来た「五所の伊豆の踊子」であり、踊子田中絹代の兄小林十>>続きを読む

上陸第一歩(1932年製作の映画)

5.0

サイレント映画の集大成「生まれてはみたけれど」と同年に誕生した、日本のトーキー映画時代到来を予見させる島津保次郎監督の傑作。岡譲二の眼光鋭い容貌は後年の仲代達也を彷彿とさせ、港の女に新派の水谷八重子を>>続きを読む

嫁ぐ日まで(1940年製作の映画)

5.0

小市民映画のパイオニア島津保次郎監督の、東宝でのお手並み拝見の2作目珠玉の名品。亡き母親の代わりに家事一切をこなす割烹着姿の若き原節子が、父御橋公の後妻沢村貞子を快く受け入れ嫁いで行く迄を丹念に描写し>>続きを読む

女性の勝利(1946年製作の映画)

2.5

冷徹な眼光の検察官松本克平が溝口健二監督の様に思えた。その妻桑野通子は、三浦光子の犯した嬰児殺害事件で、妹で弁護士田中絹代がこれを法廷闘争にするため画策し、その間に立って苦しむ。実はこの映画の撮影中、>>続きを読む

伊豆の娘たち(1945年製作の映画)

4.0

終戦まもなく撮られた五所平之助監督の抒情豊かなヒューマンコメディの佳作。人情味溢れる演技でバイプレイヤーからのし上がって台頭した河村黎吉が、韮山の食堂を営み気の良い父親、店の手伝いと家事に追われ働き者>>続きを読む

戸田家の兄妹(1941年製作の映画)

5.0

カラー着色版で再見した。前半の音声の乱れは酷かったのだが、後半からは色彩も含めて素晴らしく、小津安二郎監督の戦後集大成となった「東京物語」とも相通じる家族の肖像が巧みに描かれ既に小津調は完成していた。>>続きを読む

(1941年製作の映画)

3.5

そのままタイトルの通り吉村公三郎監督の花道の世界を通じた田中絹代独壇場の芸道物の佳作と評価出来る。田中と上原謙とくれば、すれ違いメロドラマの大ヒット作「愛染かつら」を連想したが、田中が前年溝口健二「浪>>続きを読む

家庭日記(1938年製作の映画)

4.5

吉屋信子原作、清水宏監督の先進的女性映画の秀作だが、主人公佐分利信の偽善者振りには感心出来ない。理容室経営の三宅邦子を、打算で資産家の娘高杉早苗に婿入りし棄てた挙句、どの面下げて薬局店主に押し付けを画>>続きを読む

兄とその妹(1939年製作の映画)

5.0

小津安二郎と共に日本映画を牽引してきた島津保次郎監督が、これを最後に松竹を去る置き土産としては、余りにも偉大な作品を残し彼の代表作とした。真っ正直で武骨な生き様しか出来ない兄佐分利信と、才色兼備で兄想>>続きを読む

誘惑(1948年製作の映画)

3.0

新藤兼人脚本、吉村公三郎監督の作品として期待したが、単なるよろめきドラマでがっかりした。佐分利信の妻杉村春子が病養所を抜け出し自宅に突然現れた瞬間は、まるでホラー映画になるかって思った。そして原節子の>>続きを読む

良人の貞操 前篇 春来れば(1937年製作の映画)

3.5

カラー着色版の総集篇で初見。前半、夫高田稔と妻千葉草智子が仲人したが未亡人となった入江たか子が子連れで上京三人の円満な関係だったが、千葉の妹高峰秀子が「猫に鰹」と軽口を叩くが、後半それが現実となり悲劇>>続きを読む

母の曲 前篇(1937年製作の映画)

5.0

カラー着色版で総集篇で拝見したが、「淑女は何を忘れたか」では白黒、カラーの違和感は無く堪能したのだが、本作の場合は数段感動が上回る結果となった。おそらく、総集篇で内容が詰まって引き締まった効果ではある>>続きを読む

金色夜叉(1937年製作の映画)

3.0

新派の定番演目で、何度も映画化された清水宏監督の凡作だが、有名な熱海の海岸シーンを簡単に済まし、お宮川崎弘子が貫一夏川大二郎の学友佐分利信のボート練習場を訪ねた際の佐分利の立ち振る舞いの斬新な印象は強>>続きを読む

淑女は何を忘れたか(1937年製作の映画)

5.0

小津安二郎監督初期の総まとめした様な、モダンでユーモラスでセンス抜群の上質喜劇の傑作。今回は、カラー着色版で拝見したが、この映画の鮮度が倍化した印象。大阪から上京した姪桑野通子の、野球のプレーをジョー>>続きを読む

旅路(1953年製作の映画)

3.5

同年名作メロドラマ「君の名は」で佐田啓二と岸恵子がブレイクする直前に、大佛次郎の悲恋小説を丁寧に描いた中村登監督の水準作であるが、佐田の故郷を訪ね別れを告げる岸に対し、あのギャンブラー気質からすると、>>続きを読む

都会の横顔(1953年製作の映画)

4.0

銀座をロケーション撮影で生き生きとスケッチした清水宏監督の風俗映画の佳作。几帳面で闊達な靴磨き有馬稲子が迷子を見つけ、街を陽気に闊歩するサンドイッチマン池部良に母親探しを依頼。その池部もしるこ屋で見失>>続きを読む

安城家の舞踏會(1947年製作の映画)

5.0

GHQが敗戦日本に押し付けた改革の一つで皇室の藩屏たる華族制度を解体、多額の財産税を課せられため、上流階級の没落が起こった。邸宅が闇商売の成金清水将夫からの借金で差押えられようとする名門伯爵家で、当惑>>続きを読む