海さんの映画レビュー・感想・評価 - 10ページ目

ホンモノの気持ち(2018年製作の映画)

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時々思う。わたしの中に生まれる気持ちは、今まで観てきた映画や、読んできた小説や、聞いてきた話の真似事をしているだけで、本当に新しく生まれた感情なんか、どこにもないんじゃないか。その疑いさえも、どこかで>>続きを読む

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版(1991年製作の映画)

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飴玉が缶の中で遊ぶような軽い靴の音、カーテンを揺らしていた夏の風、きみを待ち伏せた保健室の匂い、母の美しいドレスの手触り、午後に溶け込むなだらかな影、真夏の新緑、オレンジ・ジュース、汗をかいた硝子、お>>続きを読む

こねこ(1996年製作の映画)

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あなたはきっと、神さまがついうっかりうっとりして、雲の上から落としてしまった天使なんだと思う。ほかの誰も持ってない温かさで、どんなことばでもたどり着けなかった心の底に、あくびをするくらい簡単に入り込ん>>続きを読む

ビューティフル・デイ(2017年製作の映画)

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わたしはあなたじゃない。あなたは彼女じゃない。その境目すら曖昧だから、わたしには、今日があの日に見えるだろう。傷一つないように見えたあなたの肌に、小さな傷あとがいくつも見えるだろう。失ったものと、手に>>続きを読む

ラブレス(2017年製作の映画)

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言い争いの途中で開けられて、そしてまた閉じられた扉。冷たい扉と壁の間で、声を殺して涙を流す少年。淋しさだけが頼りだったはずの明かりは、もうどんな色も持たない。空っぽの愛の結晶。その小さな白い頬に、流れ>>続きを読む

ポーラー・エクスプレス(2004年製作の映画)

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小学生の頃、ちょうど今くらいの、12月の冬の寒い夜に、妹と二人でこの映画を観た。母は確か夜勤で、二人で映画でも観なさいと、レンタルショップに連れて行ってもらったことを思い出す。あの時住んでいたアパート>>続きを読む

エターナル・サンシャイン(2004年製作の映画)

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世界一の優しさよりもひとまわりだけ大きく腕を広げて、あなたを待っていたい。あなたがオレンジに、深いブルーに、夜明けのように色を変えながら、わたしの腕に飛び込んだら、その時は世界で一番小さくぎゅっとなっ>>続きを読む

ディストピア パンドラの少女(2016年製作の映画)

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人類のほとんどが生きた肉を求めて彷徨う屍と化した近未来。子供たちは、生まれた瞬間から感染していながらも、思考し、知性を持ち、成長していく。彼らは、愛するということ、学ぶということを知っている。ことばを>>続きを読む

インターステラー(2014年製作の映画)

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「天にありては星、地にありては花、人にありては愛、これ世に美しきものの最たらずや。」人は空を見上げ、星を数え、それらを銀の線で結び星の物語を作った。赤い星はもう、とっくに死んでいるかもしれない炎で、青>>続きを読む

くちづけ(2013年製作の映画)

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わたしが涙を流すことで、このひとたちの悲しみと苦しみを奪っちゃいけない。だから泣かない、感動もしない、彼らが右へ行くのならわたしは左へ向かっていく、彼らが世界を変えるために戦うのなら、わたしは世界に変>>続きを読む

ファニーゲーム U.S.A.(2007年製作の映画)

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このリビングは舞台という虚構であり、この2人組は肉を詰めただけの白い袋であり、はっきりと目に見えて憎むべき悪はここにあれど、正体は別の場所にある。「卵」のように些細なことから生まれ、「礼儀」のように茶>>続きを読む

宇宙飛行士の医者(2008年製作の映画)

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生か死か、花か涙か、愛か未来か。画面の中に、苦悩と悲哀が霧となって漂う。言葉が飛び交い、寒さの中ではひとの手のひらだけが色を持つよう。救いや、理由や、価値や、道標に、形を変えていくべき一筋の希望が、こ>>続きを読む

偶然(1982年製作の映画)

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窓の外で烏が鳴いて、背の高い木が風に揺れて、カーテンのすぐ下で、猫が丸まって眠っています。いくつもの偶然が重なって、いくつもの秋にそれと同じ数の冬が重なって、生きて、生きて、生きた今、わたしはここで、>>続きを読む

静かなる叫び(2009年製作の映画)

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雪が降り、街灯を濡らし、温度の差で、窓が曇る。離してしまった手を、この手の内に感じる。口にした言葉が白く可視化される。空を飛ぶ大きな鉄の塊。浴室で服を脱ぐ。光に闇が、闇に光が漏れるのを見つける。ひたと>>続きを読む

ドリーマーズ(2003年製作の映画)

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「街が部屋に入ってきた。」目が覚めるように霧が晴れるように、夢とうつつの住人がはっきりといれかわる。瞼の裏側とその向こう側。眠たい目を擦りながら見続けていたはずの現実は、いつの間にか夢に変わっていたね>>続きを読む

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 後編 永遠の物語(2012年製作の映画)

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振り向けば、あなたが居た。大きく開かれた目が、不安そうにわたしを見つめている。だからわたしは思う、今夜、ひとの体温に色が与えられるなら、きっとその瞳の色が選ばれると。あなたは冷たく暗い水の底まで、わた>>続きを読む

灼熱の魂(2010年製作の映画)

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あなたがわたしと共にあるかぎり、あなたがあなたであるかぎり、わたしはあなたを愛し続ける。憎しみの渦の中で、戦争の炎の中で、冷たい水のその中で、あなたを抱きしめて決して離さない。わたしのこの愛が報復に代>>続きを読む

その街のこども 劇場版(2010年製作の映画)

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鳥の渡る街があります。夜になれば暗やみに包まれて、窓が灯る。眠れない夜があり、朝がくる。カーテンを開ける。誰かをつきはなし、誰かに出会う、街があります。知らないあいだに子猫は大きくなる。曲がり角の建物>>続きを読む

セッション9(2001年製作の映画)

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失いたくない、変わりたくない、知りたくない、という願いがあれば、失ってしまうかもしれない、変わってしまうかもしれない、気づかれてしまうかもしれないという恐怖が生まれます。今にも悪魔は後ろに迫っているの>>続きを読む

アナザー プラネット(2011年製作の映画)

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もしもわたしが、もうひとつの地球にいくことができたならどうするだろう。猫を連れて行けないのなら絶対に無理だ、断りたい、と思ったけれど、もうひとつの地球にもわたしの家に猫は居て、同じように眠ったり甘えた>>続きを読む

小説家を見つけたら(2000年製作の映画)

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君の身体が四季を受け止める。これから雨は数え切れないほどに降り、いくつもの春が訪れて、あふれるほどの言葉が届くだろう。いつか誰かが君に気づく時、君の中には、わたしはどれくらい残っているだろうか。

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エンドレス・ポエトリー(2016年製作の映画)

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いつかわたしがこの命を終え次の人生に生まれ落ちたとき、その人生が映画と全く関わりのないものだったとしても、こんな映画がわたしの知らないところで誰かの人生をすくい、誰かに光を教え、誰かの世界に愛を映し、>>続きを読む

四月の永い夢(2017年製作の映画)

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死ぬ事は生まれる事にもどこか似ていた。どれだけ長い時間をここで過ごせば、あなたに寄り添う事ができたのだろう。あなたと生きた思い出よりも、いつのまにか自分だけの思い出が、こんなに増えてしまっていた。この>>続きを読む

ミスミソウ(2017年製作の映画)

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膝を折り、身体を丸める。胎児のように、あるいは春を待つあの花のように。この夢からもう覚めよう。覚めたいよ。次は何も起きないように。奇跡はいらない。奇跡がないと越えられないほどの、きびしい冬なんていらな>>続きを読む

泳ぎすぎた夜(2017年製作の映画)

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雪は鳴る。冬には音階があり、たからくんの世界にはつかまえた先から逃げていくほどたくさんの音があそんでいる。わたしたち、眠っているあいだのことなんて知っているはずもないのに、どうして髪を撫でる手のひらに>>続きを読む

はじまりの街(2016年製作の映画)

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孤独も不安も怒りも行き場がなかった、帰る場所はいつも一つで、一人になって隠れる場所もなかった。でも、冬の布団は温かく、涙の一粒も無駄に落とす事はなく、不幸だと思った事も、あなたの事を憎んだ事も、一度だ>>続きを読む

ぼくの名前はズッキーニ(2016年製作の映画)

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四本指の小さな手が、いくつも背中に触れてきて、愛の言葉を聞きたがる。愛ってどんなもの、どこにあって、どんなに特別なものなの?答えはその小さな胸の中だけにあるのよ。どこにも行かず、どこにも行けず、ずっと>>続きを読む

東京物語(1953年製作の映画)

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いつか分かる時がくる。
そう言われてきたいくつかの事が、確かに今その通りになり、そして多くの事が、まだ「いつか」のままここに残っている。そのうちどれくらいが、わたしには来ない「いつか」なんだろう。途方
>>続きを読む

話の話(1979年製作の映画)

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幼い頃、からだが弱かったわたしは、よく熱が出て寝込んで、そうすると、いつも同じ夢を見た。丸まって眠るそばで小さな白い花が一つ咲く。ぼんやりと光っているその花は、言葉を話しはしないけれど、わたしには花の>>続きを読む

ガタカ(1997年製作の映画)

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空を貫いていくロケットを見つめるアイリーン。彼女の心臓の一部はあのずっと向こう、宇宙のどこかで、今も本当に宿るべきだった身体をさがしているのかもしれない。あなたの事をいとしいと感じるわたしのこの心に間>>続きを読む

犬ヶ島(2018年製作の映画)

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迷子札、小さな歯、青いあざ、ビスケット。感情できみに近づくたび、空気が夜に近づくたびに、まぶたの裏側にずっとあった、たった一つの願いが零れます。同じ夜を越えて、同じ涙を流した少年と犬。「いい子だね」と>>続きを読む

ジェリーフィッシュ(2007年製作の映画)

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何度夏を繰り返してひとは大人になって、そしてまた子供に戻るのだろう。生まれる事のなかった命と、今生きている命と、死んでいった命。わたしが知らなければきっと誰も知る事のなかった詩。あなたが居なければきっ>>続きを読む

早春(1970年製作の映画)

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プールサイド歩くときに爪先立ちするタイプの子供だった。海水浴場のシャワーや更衣室も苦手。あの空間ってありえないほど不潔だと今も思うけど、この映画は隅から隅まで好きだったし、不潔は綺麗のためにあった。

マイ・ブルーベリー・ナイツ(2007年製作の映画)

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わたしたちいつもそうかもしれない。旅に出るのも、誰かを失って悲しむのも、誰かを好きになるのだって、「心の底から」はいつも違うところに、置いてけぼりなのかもしれない。いつかあんなに好きだったはずの場所、>>続きを読む

アイ・オリジンズ(2014年製作の映画)

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あいしているの愛のところが、月と綺麗のどちらに含まれているのかは分からないけれど、お酒で熱くなった頬を冷ましたくて上を向いたわたしに、気がついてくれたのは、あなただった。さよならを言われるのが怖かった>>続きを読む

雨の日は会えない、晴れた日は君を想う(2015年製作の映画)

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つかもうとすると逃げて、目を閉じた一瞬に上映される記憶。そのすべてが何でもないこと、もう思い出せもしないこと、忘れたまま伝えないままに生きていくはずだったこと。浴室に冷蔵庫にテレビに鏡に映るここにない>>続きを読む