私たちが生きる「根」を深く問い返す傑作。エドワード・サイードの生涯を辿りながら、彼が自らの存在を賭けて向き合い続けたパレスティナ問題の核心にある「故郷」と「根」の問題に迫っていく。
サイードだけでな>>続きを読む
一つのところに決してとどまらない加藤和彦の生き様を描くなら、彼の曲を並べればいい。そのシンプルさが潔く、そして正解だったと思う。ザ・フォーク・クルセダーズからサディスティック・ミカ・バンド、そしてヨー>>続きを読む
水俣病のことを考える時、いつも頭に浮かぶ感覚があります。「水俣は東京からあまりに遠すぎた」。
この「遠すぎた」にはいろいろな意味があります。地理的に遠すぎたため、東京人にとってはどこかで起こっている「>>続きを読む
さすがに古いなと思う表現方法と、時を経ても色褪せないなと思う描写が半々で同居する作品でした。4Kレストアで鑑賞すると、さらに紫禁城に行ってみたくなりますね。ラストは特に、現在の全く体制の異なる中華人民>>続きを読む
本田靖春の『誘拐』が愛読書のひとつなので描きたい内容も興味深かったですし、石原さとみの演技も見事でした。その意味でも無駄な作品ではないと思います。
しかし配役があまりにも慣れ親しんだ伝統的な性役割分>>続きを読む
いつものクリストファー・ノーランが実在の人物と実際の事件でSFをやったら、めちゃくちゃグロテスクだったって話でした。もちろんサイエンスよりのSFなので、殺されていく「敵」の顔は見えません。エフェクトを>>続きを読む
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が素晴らしかったので、期待度高めでいきました。さすがに期待しすぎたなと、少し反省しています。
まず映像は見事でした。波打ち際でピアノを奏でるシーンの麗しさは圧巻ですし、森>>続きを読む
糞尿や血液の描写は少し作り物感があり、そこは残念でした。こういうストーリーであればこそ、血糊の感じなどにはもう少し拘って欲しかったです。
ただ作品の全体の流れはすごく良かったです。所々で差し込まれる>>続きを読む
監督が撮影中に亡くなったと知っていたので、もっと激しい作品なのかと思っていた。しかし戦場という日常を生きた人々を静かに映し出す真摯な目線が印象的な作品であり、想像をいい意味で裏切ってくれた。
何より>>続きを読む
東京国際フォーラムで生のオーケストラとともに鑑賞しました。ストーリーの陳腐さやご都合主義の度合いだけを見れば2.0なのですが、生オーケストラがあまりに良かったので、完全にはまりました。
映画館だと音>>続きを読む
丁寧かつセンセーショナルに頼らない構成が素敵でした。主人公たちは映画館に来れない(いつ発作が起こるか分からない)人物でしょう。そうでない観客に向けて静かに語りかける、しかし説教臭くないという絶妙な心地>>続きを読む
世間知らずの中流階級のガキと劣等感が折り重なったために感情のコントロールが出来なくなってしまったおっさんが織り成すドタバタ劇。たまにはこういう作品も入れておかないとダメな気がする。
ガキもおっさんも>>続きを読む
静と動のバランスが絶妙で、静かなのに飽きないという素晴らしい作品でした。西部開拓時代のオレゴンで一稼ぎするバディものと説明すると、なんとなくテンションの高いアクション作品のような気がします。もちろんラ>>続きを読む
映画作品として表現されると、観客は次に何が起こるのだろうという非日常的な想定をしてしまう。しかし次に何も起こらないのが日常であり、そんな日常だからこそ何かが起こると強烈に印象に残るし忘れないのだろう。>>続きを読む
登場人物たちの生活ぶりを見れば、それがいかに恵まれた環境だったかわかる。演奏家の父、重厚な一戸建て、欲しいものが買える環境、何よりも東京に住む者たちである。その事は割り引いて考えなければならないが、そ>>続きを読む
美食家という仕事(?)は大変に面倒くさい奴らの集まりである。本作の主人公も大変に面倒くさい。「妻=料理人」の体調を一顧だにせずに、自分の味を追求し続け、さらにそれを「妻=料理人」に作らせて、自分はパー>>続きを読む
社会制度は「最大多数の最大幸福」や公平を目指す(達成されているかは別として)。しかし、その志向性は必ず「狭間」を生む。狭間に落ちた人が叫ぶ「普通に生きたい」は、落ちたことのない人間のそれとは比較になら>>続きを読む
少し暗くて淀んだヘルシンキ。その物憂げな感じを素直に受け取りながら恋愛小説を一頁ずつ捲っていくような綺麗な作品だった。遠くにあるウクライナほどの「悲惨な」状況でもなく、かといって酒を飲まずにやっていら>>続きを読む
小熊英二は『民主と愛国』の中で、有名な「第一の戦後」と「第二の戦後」という概念を提起している。後者は高度経済成長の鳥羽口に立って、「もはや戦後ではない」と経済白書に書かれて以降の「戦後」であり、私たち>>続きを読む
シチリア島に燦々と照りつける陽射しと、狭い島のコミュニティにおける陰湿な「よそ者」の排除。あまりに対照的な二つの要素が一つのスクリーンに映し出されるとき、観客はマイノリティの置かれた逃げ場のない孤独感>>続きを読む
実際にFBIの録音の文字起こしに出てくる台詞だけ(完全にだけではないが)で家宅捜索と取り調べを描いていくのは、新鮮でありホラーだった。胸がヒリヒリするのは、問題の核心に迫る部分よりも、ネコやヨガといっ>>続きを読む
ミステリーや謎解きとして見た場合、捻りもあまりなく単調だった印象です。原作も未読なので、そもそもそんな部分は求められていないと言われてしまえば反論のしようがありませんが。怪しいやつの配置もオーソドック>>続きを読む
エンドロールが流れている間、身体が火照ってしまうほどに刺さりました。『シークレット・サンシャイン』と並んで、今年映画館で見た作品の中のベストになりそうです。大衆映画として、ここまで踏み込んだ世界観を描>>続きを読む
70年の時を経て、ゴジラは完全に軍事ヒロイズムのための道具に成り下がってしまったと痛感しました。『シン・ゴジラ』でも薄々感じてはいましたが、今回はそれが露骨だったと思います。
戦争は局所的に見ると天>>続きを読む
東京国際映画祭にて鑑賞。微温的な恋模様とクスッとした笑いが心地よい作品。それぞれのキャラクターがほどよくダメな感じで、さらにどのダメさも被っていないという脚本が上手かった。
床屋を舞台に選んだのもよ>>続きを読む
「日常はありのままで豊かだ」的な言葉は、恋愛ものからヒューマンもの、果てはドキュメンタリーにまで溢れかえっています。しかし本作のそれは、数多の軽い言葉とは一線を画する豊かさと厳しさに満ちていました。木>>続きを読む
東京国際映画祭2023にて鑑賞。妊娠や出産はしばしば生命の神秘として描かれますが、本作ではむしろ女性にとっての時限爆弾としての妊娠および身体への負担としての出産が中心です。本作で登場する男性は基本的に>>続きを読む
ストーリーはベタですし、ちょっと喋りすぎじゃないと思わないでもないです。アナログという設定も、もう少し活かせたように思います。少し中途半端かなと。しかし二宮和也と波瑠を筆頭に演技で完全に持っていかれま>>続きを読む
やりたいこととできることが曖昧なままに突き進んでしまった印象です。日常にオペラを取り込んで、オペラを通じて愛を描くというフォーマット自体は面白いのですが、肝心の内容がフォーマットについていけなかったの>>続きを読む
映像も画像も大量に残っているアントニオ猪木を追悼のドキュメンタリーの題材にする。世に出回っているからこそ難しい作業だったと思う。その意味で趣向を凝らした意図は伝わってきた。では面白かったかと問われると>>続きを読む
静かに沈んでいく夜の銀座で、人々の夢がすり減っていく感じがジャズの音楽に合わせて映し出されていました。テーマとしては面白かったのですが、肝心の曲の盛り上りがそうでもなかったことと、暗い背景の不気味さを>>続きを読む
現代の金融資本主義(元来の資本主義とは似て非なるもの)の歪さをホラーテイストでうまく描いている力作でした。この物語はフェミニズムや男性の権力志向性(嗜好性)の問題、メリトクラシーの苛酷さなど、様々な面>>続きを読む
ドキュメンタリー作品は「普通」の観客のために、効果音や声を多用します。本作でもそうです。そうだからこそ、マルソーのマイムの迫真性が際立っています。顔と動きだけで、その瞬間にマルソーが見ているであろう青>>続きを読む
ドキュメンタリーとしては特筆すべき点はあまりないが、ファッション産業の大量生産を支えるシステムがあまりに複雑化しすぎて、あれだけ色々な場所にコンタクトを取ったエイミーでも、「1か国で生産を完結させる」>>続きを読む
心の底に重いものが残る、静かな快作でした。高速道路で踊る二人があまりに美しく、またラストのラジオがあまりに悲しく響きました。目の前に積み上げられた決まりごと、常識、勝手に語られる「あなたのため」、そし>>続きを読む
ユダヤ教国家で火葬のための炉がないイスラエル。その国がアドルフ・アイヒマンを処刑しなければならなくなったとき、亡骸をどうするかは大問題でした。このように大変興味深いテーマを扱っており、さらに炉の建設に>>続きを読む