タケオ

ボージャック・ホースマン シーズン2のタケオのレビュー・感想・評価

4.5
-「意味」なき人生は辛すぎる『ボージャック・ホースマン シーズン2』(15年)-

 「なぁ、怖いと思わないか?この番組が当たれば全てが変わっちまう」───出演した番組『馬か騒ぎ』の思わぬ好評に戸惑い、相棒のハーブ(スタンリー・トゥッチ)に不安を吐露する若きボージャック(ウィル・アーネット)。するとハーブは空を指差し、「怖くないさ。見ろよあの空を、俺たちの未来は晴れ渡ってる」と自信に満ちた表情で答える。しかし、2人の前に広がる清々しいほどの青空の正体は、スタジオ内に設置されている撮影用の背景画だった・・・。
 第3話『やり直せるなら』のラスト・シーンは、数ある『ボージャック・ホースマン』シリーズの名シーンの中でも突出した出来映えである。夢と希望に満ちた世界は、実は全てマヤカシに過ぎなかった。しかし、そうとわかっていながらも、マヤカシの夢と希望を信じずにはいられない。「ハリウッドを生きる人々の孤独と絶望」という本シリーズのテーマが最もストレートな形で表出した瞬間であり、その美しくも残酷な構図には、思わず震えるほどの感動を覚えた。シーズン1ではボージャックを追い詰めるのはもっぱら彼自身だったが、シーズン2以降からは「ハリウッドの暗黒」が容赦なく彼に牙を剥き始める。
 『ボージャック・ホースマン』シーズン2には、毎話ごとに必ず1度は「What are you doing here ?」という台詞が登場する。これはボージャックだけでなく、登場人物全員の自らの現状に対する問いかけだ。かつては夢と希望を胸に抱いてハリウッドへやってきたはずなのに、今では儘ならない現実を前にくすぶるだけの毎日。「一体ここで何をしてるんだ?」───ハリウッドの不条理と残酷に翻弄され「生きる意味」を見失ったボージャックたちは、アイデンティティクライシス、実存の不安に陥っている。シーズン終盤で、トッド(アーロン・ポール)がカルト宗教にハマってしまうのは、それが手っ取り早く「生きる意味」を提供してくれるものだからだ。もちろんそれも、全てはマヤカシに過ぎない。ハリウッドと同じように。
 全てがマヤカシのハリウッドで、ボージャックたちは「生きる意味」を探し続ける。心の奥底では「そんなものは見つからない」とわかっていながらも、必死で平静を装い続ける。あの日に見た撮影用の背景画のように、「きっと未来は晴れ渡っているはず」と信じたいからだ。自己矛盾の中でもがき続けるその姿は、滑稽でありながも同時に涙を誘う。「意味」なき人生はあまりにも辛すぎる。
タケオ

タケオ