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砂時計のsarahAのレビュー・感想・評価

砂時計(1995年製作のドラマ)
4.0
一人の女性と三人の男性の人生を1970年代から約20年に渡って追った物語。労働デモ、三清教育隊、国家安全企画部、民主化運動、光州事件と韓国の近代史がモチーフで、光州事件の実際の映像も作中で使用されている。

パク・テス(チェ・ミンス)
カン・ウソク(パク・サンウォン)
ユン・ヘリン(コ・ヒョンジョン)
ペク・ジェヒ(イ・ジョンジェ)

挿入歌ロシア楽曲
Zhuravli (The White Cranes 日本語では「白鶴」韓国語では”백학”)。Журавли、Zhuravli

韓国で最も海に近い駅、正東津駅がヘリンの印象的なシーンで使われる。デモで逮捕後、釜山に心を癒す旅に出る設定だが、実際は江稜がロケ地。

百想芸術大賞6冠王という記録

故キム・ジョンハクPDが当時ハンギョレ新聞インタビューで告白したところによると劣悪な撮影環境だった。彼は制作費不足と軍当局の非協力で正しく撮れなかったシーンが多いと残念を吐露したが、実際にはエキストラを含めわずか43人の俳優で光州シーンを作り、劇中登場するAPC装甲車2台も毎日木で手作り作ったとする。また、NHK資料フィルムを活用したのも特別な効果ではなく、市内にタンクが進入したり、軍用トラックが大挙集まってくるシーンの再現が難しかったためだと先言した

ヘリンの冷たい演技
ジェヒのただひたすら愛する人を守り続けるだけの愛、猪突猛進なパクテス、清貧で強固な意思を持つウソクととにかく登場人物が魅力的。










https://wan.or.jp/article/show/3740

演出家の故金鍾学を悼む

 先日(7月23日)、演出家の金鍾学(キム・ジョンハク・享年62歳)が亡くなった。「黎明の瞳」(1991)「砂時計」(1995)「太王四神記」(2007)など、韓国のドラマ史を塗り替えるような傑作をつくり、ドラマ界の巨匠と呼ばれた人である。彼はこの間、ドラマ制作スタッフへの未払い賃金などのトラブルで訴えられ、検察の取り調べを受けていた。そのことに抗議する内容の遺書を残して、自ら命を絶ったのだ。

 彼の死は、韓国のドラマ業界に大きな波紋を投げかけている。この事件がきっかけとなって、ドラマ制作会社と放送局との不公平な関係、年々高騰するスター俳優の出演料や人気作家の原稿料の問題など、業界に蔓延する弊害が改めて論じられ、表面化しつつある。そのことについては別稿にゆずるとして、とりあえず今回は、故金鍾学が演出したドラマの代表作、「砂時計」(全24話)について紹介したい。韓国でも、彼の死を悼んで、7月末から「砂時計」が再放送されている。

女性の描き方~ドラマ「初恋」との違い

 ところで、歴代最高視聴率を誇るドラマ「初恋」(1996~7)は、時代背景をはじめいくつかの点で「砂時計」と似たところがある。主人公が3人(男2人と女1人)であることや、ペ・ヨンジュンが扮するチャヌが法律家を目指して法学部に進む点、カジノが出てくるところ、暴力シーンが多いところ、チャヌもウソクも学生運動に参加しない点などである。どちらにも80年代の時代的課題が反映されている。だが、「砂時計」が軍事政権の暴力的な構造をストーリーの中心にすえているのに対して、「初恋」は庶民の生活を中心に描いている点が大きく違う。

 イメージ 6そして、私がもう一つ指摘したいのが、“女性の描き方”の違いである。「初恋」の女性主人公ヒョギョンは、愛という名で男性に依存する存在だが、「砂時計」のヘリンは愛を理由に男性によりかかったりはしない。ヘリンはテスを愛するが故に、彼を三清教育隊から救おうとして父親に「テスとは二度と会わない」と約束する。また、カジノの会長になろうとするのも、単に会長の娘だからということではなく、「カジノで得た金を悪徳な人間たちが権力維持を図るために使いたくはない」という明白な目的をもっている。「スカートをはいた若い女にカジノ産業の会長が務まるか」と反対する男たちに対しても、「ズボンをはいた男たちがしっかりしないからだ」と反撃し、堂々と会長の座につくのである。

 ウソクと結婚した下宿屋の娘ソニョンも、「初恋」でひたすら家族のために尽くすチャノクとは違って、単に内助をする女性としては描かれていない。プロポーズするウソクに対して、ソニョンは「私を望むのか、それとも家事をする女が必要なのか?」と問い返す。また、「初恋」でヒョギョンを演じたイ・スンヨンが扮するヨンジンも、ウソクに対する個人的な感情よりも、記者としての職業意識を優先する自立した人物として描かれている。

 初回に登場する学生街の飲み屋のエピソードも印象的だ。たばこを吸っていた女子学生を男子学生が「なまいきだ」と平手打ちする。それを見ていたヘリンが、その男子学生の頬を思いっきり叩きかえす場面である。私が韓国にいた頃も、似たような話をよく耳にした。女性たちが公の場でたばこを吸うことは許されなかった時代、ヘリンの行動は実に勇敢である。これも当時の学生運動に参加した女子学生たちの姿と重なる。

脚本家と俳優たち

イメージ 7 このドラマの脚本を書いた宋智娜(ソン・ジナ1959~:写真)は、金鍾学とともにスケールの大きなドラマを制作してきたことで知られる。宋智娜を一躍有名にした「黎明の瞳」(1991)は、「ドラマに対する韓国人の認識を変えた」(キム・ファンピョ2012)とまで言われる作品だ。植民地時代の日本軍「慰安婦」とパルチザン、731部隊、済州島4・3事件などを大胆に取り上げ、初めて海外ロケを行って撮影し、膨大なエキストラを使用したことでも話題になった。民主化宣言後とはいえ、これらの事件についてはまだ真相も明らかにされず、歴史的な評価も定まっていなかった頃である。

 それに引き続く「砂時計」でも、光州事件や三清教育隊問題など、放映当時は歴史的清算が行われていなかった問題に取り組み、ドラマ化して見せた。その感覚の鋭さに驚くばかりである。ドラマといえば家族や夫婦、男女間のかっとうを描くものが圧倒的に多かった中で、これらの社会性を打ち出した作品は、ドラマが描く地平を広げることに大きく貢献したと言えるだろう。「砂時計」は日本語字幕版のDVDがあるが、「黎明の瞳」もぜひ日本で放映してもらいたいドラマである。

 パク・テスを演じたチェ・ミンス(崔民秀1962~)は、1995年のSBS演技大賞で大賞を受賞した。カン・ウソクを演じたパク・サンウォン(朴相元1959~)は演技大賞で最優秀演技賞とスター賞を、記者を演じたイ・スンヨンは優秀賞を受賞した。また、百想芸術大賞ではTV部門の大賞と作品賞を受賞したほか、チェ・ミンスが男子最優秀賞、ヘリムの用心棒を演じたイ・ジョンジェが新人賞を受賞した。また、脚本賞(宋智娜)、演出賞(金鍾学)も受賞している。テスとウソクの高校生役を演じたキム・ジョンヒョン(1976~)とホン・ギョンイン(1976~)もその後俳優として立派に成長した。

パク・テスを演じたチェ・ミンス(崔民秀1962~)は、1995年のSBS演技大賞で大賞を受賞した。カン・ウソクを演じたパク・サンウォン(朴相元1959~)は演技大賞で最優秀演技賞とスター賞を、記者を演じたイ・スンヨンは優秀賞を受賞した。また、百想芸術大賞ではTV部門の大賞と作品賞を受賞したほか、チェ・ミンスが男子最優秀賞、ヘリムの用心棒を演じたイ・ジョンジェが新人賞を受賞した。また、脚本賞(宋智娜)、演出賞(金鍾学)も受賞している。テスとウソクの高校生役を演じたキム・ジョンヒョン(1976~)とホン・ギョンイン(1976~)もその後俳優として立派に成長した。

 イメージ 8個人的に最も印象に残った脇役は、劇中、政府情報機関の要員として政財界と暴力団を巧みに操るチャン・ドシクを演じたナム・ソンフン(1945~2002:写真)である。また、ウソクの上司である検事長役のチョ・ギョンファン(1945~2012)とウソクの父親役を演じたキム・インムン(1939~2011)も実に味がある。残念ながら、この三人はいずれも他界している。テスやウソクと同級生で、後にテスを裏切るヤクザのイ・ジョンドを演じたチョン・ソンモ(鄭性模1956~)は、その後もヤクザや悪役を演じるお馴染みの性格俳優となった。

 ちなみに、カジノの利権をめぐる政・財界と暴力団との深い関係を検事が捜査し暴いていくというモチーフは、90年代初めに起こった「スロットマシン事件」からヒントを得たものという。ウソクのモデルとなった担当検事のホン・ジュンピョ(洪準杓1954~)は、このドラマの放映後、“砂時計検事”というあだ名で呼ばれるようになった。一躍大衆的な人気を得た彼は、間もなく検事を辞し、政治の世界に転進した。1996年の国会議員選挙に与党から立候補して当選し、その後4選を果たす。2011年には与党ハンナラ党の代表も務め、昨年、慶尚南道の知事になった。

 ドラマには写真でしか登場しないが、80年代の軍部独裁政権の中心にいた全斗煥(チョン・ドゥファン1931~)元大統領は、このドラマが放映された年の12月、軍事反乱主導嫌疑で拘束された。国会は同月下旬、「5・18特別法」を制定し、翌年、ソウル高裁が全斗煥に無期懲役と2,205億ウォン(約200億円)の追徴金を宣告した(1997年4月、大法院で刑が確定)。しかし、この間全斗煥が支払った金額はわずかにすぎず、76%が未納のままだ。今年6月、公務員犯罪没収特例法改正案(別名“全斗煥追徴法”)が国会を通過し、7月、全斗煥一族に対する未納金徴集作業がようやく本格的に始動したそうである。

 「砂時計」の検事カン・ウソクには、まだやらなければならないことがたくさんあるのに、産みの親の一人がいなくなってしまった。故金鍾学氏の冥福を祈る。

全斗煥時代の悪名高い「三青(サムチョン)教育隊」は、表向きはカンペの一掃を謳っていたが、実際は軍事独裁に抗う民主化勢力を弾圧するための狡猾な手段だっ
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