えぬ

重版出来!のえぬのレビュー・感想・評価

重版出来!(2016年製作のドラマ)
4.5
あまりに面白くて止まらず、全話一気見。マンガ原作のストーリーを元にしたお仕事ドラマで、マンガ編集者&マンガ家の話なので、細かいところまですごく丁寧だし、とにかく話がしっかりしていた。マンガ家も個性爆発なツワモノだらけだが、編集者も負けないぐらいいろんな人がいて、それぞれの人物描写もバラエティがあって良い。マンガに限らず小説でもそうだと思うが、作品を作り上げる上で編集者って作家の影にはいるが実は割と大きな存在だったりすることもあるみたいで、小説家のエッセイとかマンガのあとがきなんかにも実名出した上で登場したりするし、神がかり的にネタが降りてくるタイプだと、あの編集者の理解なしにはこの作品は書けなかった・作家人生のタイミング的にもものすごい絶妙なバランスの上に成り立ってた…みたいな話もあるみたいだが、この両者の人間対人間としての攻防は絶対に面白いはず、でも完成された作品には表立っては出てこない(出てくるはずない)…という部分を大々的に掘り起こして引っ張り出せば、話として面白くないわけがないよね、というところか。そのあたり興味深くて、いろいろ知りたかったところが知れて、今まで長い間無意識に自分の中でくすぶってた欲が満たされた感じ。

イチマンガ好きとしてはマンガ家の世界も編集者の世界も更には出版社の営業社員から書店まで(あと印刷と取次あたり?)、多くの人が関わって、奮闘したり悩んだりそれぞれがいろんな思いを抱えながら、それでもマンガが大好きでその純粋で熱い思いから、良い作品を世に送り出したい・才能やセンスあるマンガ家に描く機会を持たせたいという展開がものすごく楽しかった。

マンガを取り巻く様々な出来事…雑誌休刊・廃刊、電子書籍化、新人発掘から育成と失敗、スランプと絵の変遷、掲示板での叩かれぶり、人気作家の引き抜き、アシスタントさん、単行本のデザイン・帯その他の作成、夢と才能と厳しい現実、アンケート順位や連載中止、発行部数と重版、そして漫画賞まで、これほど多くの関連ネタを盛り込みながらとっちらかることなく勢いも落ちず、最後まですごく楽しめた。

主役周りだけでなく、ちゃんと演技力も個性も兼ね備え、ただならぬアクの表出なんかも上手な俳優でガッチリ揃えたキャスティングは満足感高い。この手の役はやはりオダギリジョーでないと、な納得感と、阪神ファンでいちいちハートのアツい松重豊の編集長役もさすが。永山絢斗にちょっと不足感がなくもなかったが、野木脚本にありがちにエピソードが軽いので、息切れせずに乗り切れたかな?というほっとした感はあった。坂口健太郎はこういうちょっと情けないところがある役も映える気が?ヒロインとの無闇な恋愛展開に持ち込まれなくて良かった。お仕事ドラマだと、こういう微妙な匂わせ程度が却って良いと感じることが多いので(お仕事そっちのけで大して面白くもない恋愛エピソードに走って、結果空中分解してグダグダに…みたいな無惨な作品は枚挙に暇がないので)。

正直なところ、反面、マンガ好きとしてはもっとマニアックなところもディープなところも見たかったし、さらっと流さず深掘した濃ゆい描写にすればすごい見ごたえ出たのに…的な不満な部分も結構あったし、きれいごとが多めかな?という気もする(本来もっとエグイ話はあると思うので)。けど、そこまでして喜ぶ人の方が少ないという日本のテレビ業界の判断なのでしょうか。脚本も主人公の演出も、どうしても日本のドラマの妙ちくりんな安っぽさがありすぎて残念。特にヒロインの黒木華はいい人選と思うのに、変なハキハキさというかちょっと不自然に前向き・明るいノリすらあって(というか、そういうのが求められてるんでしょうが)、もっと高度に繊細だったり情緒深い良い演技ができそうな余力を感じるのに、この程度のヒロイン像にとどめられちゃうのかあ…と見てるこっちが無念なほど。別方向でもっとはっちゃけた感があればなあ…。

また音楽がとかくチープでゲンナリ。ジャンジャカジャンジャンジャーン♪みたいな子供の運動会かよ…的なBGMはとにかくひどくて、それも無駄に過剰に流れっぱなしで心底辟易した。力量ある俳優さんたちの演技だけで十分魅せられるような場面では、却って邪魔で腹立たしく感じる部分が多すぎた。またユニコーンの曲は個人的には好きだけど、いかにも日本のドラマにありがちな各話のエンディングへのつなぎ&流し方とか、お決まり過ぎる使われ方の陳腐さにもお腹いっぱい。

当時、視聴率が良くなかったらしいが、こういう雰囲気だとそれも何かわかるような気がする。私はマンガ大好きだから食いつくけど、2016年のドラマにしても、ちょっとこれは…といった感じで、もう少しクオリティ上げることを真剣に考えてほしい。コンテンツとしてもったいない。

ところで、ここしばらく出版不況と言われ続けてたし、劇中でもその苦しさが何度も出てきたけど、ここ最近はコロナの巣ごもり需要のおかげで、過去にないぐらい電子書籍のマンガが売れまくっててすごく好況だそう。マンガ好きとしては、この業界が没落して縮小していくのはただただ悲しいので、ここからまた盛り返して欲しいところ。

原作も結構長いみたいだし、まだまだ使えるネタをたっぷり残して終わっちゃった感もあるし、少年週刊誌(?)のみならず他のジャンルも楽しそうだし、マンガ家と編集者の数だけいくらでも話が作れそうなので、このドラマの続編ができることを切に望んでいる。けど、当時の視聴率が良くなかったので難しいかな?韓国でリメイクされたので、日本でもまたこのドラマが脚光を浴びて、続編へという流れになると良いのだけど…。

大好きないくえみさんのイラストが使われててうれしかった。ドラマのカメオ出演は個人的にある理由からあんまり好きじゃないんだけど、こういうのは良かった。
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